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番外901 初めて見る世界は

「移動する前に――。迷宮核にユイの衣服や生活用品を形成して欲しいって伝えてあるんだ」

「そうなんだ。楽しみだな」

「確かに……当面の生活に必要になりますからね」

「うんっ」


 エレナの言葉に表情を綻ばせて頷くユイ。

 エレナも目覚めてから生活用品一式を揃えたり、色々大変だったからな。何も持たないところから生活を構築すると色々入用になる。

 日常生活用だし急ぎなので、丈夫だが特別な素材というわけでもない。先程迷宮核内部で見た衣装なので、それほど時間もかからない、はずである。

 と、そんな話を伝えていると、丁度出来上がったそれがラストガーディアンの間に転送されてきた。ユイの衣服と生活用品を収めた、そこそこに大きな木箱が、ぼんやりとした光に包まれながらふわりと音もなく床の上に降りてくる。


「開けてもいいの?」

「勿論」


 ユイは木箱の中身が気になっているようで俺にワクワクしているといった表情で尋ねてきた。頷くと「みんなに会うのも楽しみだから、少しだけ」と、嬉しそうに蓋を開けて中身を確認する。女性用の衣装なので、俺が覗き込むのは止めておこう。代わりに女性陣も一緒に中身を見る。


「ああ。これは綺麗な柄です。ヒタカの衣装は独特の味があって良いですね」

「そうね。染色も鮮やかで……上等な仕立てだわ」


 グレイスが穏やかな表情で言うとローズマリーも真剣な表情で衣服を見ながら同意する。

 流石にここで着替えたりはしないものの、ユイと女性陣は楽しそうに服を見ていた。髪留めやリボン等も入っていたようで、イルムヒルトがにこにことしながらユイの長い髪を束ねて編み込み、動きやすいものにする。

 全体的な印象は変わらないが、髪留めで少しアップにして束ねてあるので動きやすくなったかな。髪の長い面々が多いのでその辺は手慣れたものなのかも知れない。


「これで良いかしら」


 と、イルムヒルトが言って、マルレーンがにこにこと木箱に入っていた手鏡で仕上がりをユイに見せる。


「ありがとう……! 嬉しいな……!」

「本当はもっと色々な髪型や服装を見てみたいけれど、今はとりあえずこんなところかしら」


 お礼を言われて上機嫌に頷くイルムヒルトである。「ん。よく似合っている」とシーラもうんうんと首を縦に振っていた。


「ヒタカノクニの衣装か。ふむ。興味深いな」

「ユイの種族の出自や好みを反映しているのかなと」


 メギアストラ女王もヒタカの衣装が気になるようで。今度ヒタカを訪問した時に仕立ててもらおうか、等とボルケオールと話をしていた。メギアストラ女王の場合は……絢爛な衣装も着こなせそうだな。

 一先ず必要な物も揃っている事を確認したところで、女性陣は丁寧に箱の中身を収める。そうして木箱をレビテーションで浮かせて俺達は移動を開始するのであった。




 魔界からルーンガルドへと戻る。みんなとしてもユイに外を見せてやりたいという事で、転移魔法で直接フォレスタニアに飛んだりはせず、連絡通路を使って転移港に出た。


「これがルーンガルドなんだ」


 ユイは真剣な表情で空を見たり、転移港の中……花壇や建物を見たり、花の匂いを嗅いだりしていたが、やがて「綺麗だなあ……」と感動したような面持ちで言う。


「気に入って貰えて良かったよ」

「知識ではあったけど、自分で見ると違うんだね。魔界も好きだけれど、ルーンガルドも良いな……」


 そう言って微笑むユイである。ジオグランタの力から生まれたから、魔界が好きというのは分かる気がする。


「ふふ、ありがとうございます」


 と、そこにティエーラとヴィンクルが顕現してくる。迷宮のサポートによる転移で、コルティエーラとジオグランタのスレイブユニットも一緒だ。大型フロートポッドも一緒に運んでくれているようで。


「ティエーラさま……!」

「初めまして、ユイ」

「こんにちは、ユイ。会えて、嬉しい」


 ティエーラとコルティエーラが挨拶をして、ヴィンクルも嬉しそうに声を上げた。スレイブユニットで先回りしていた形のジオグランタはそうやって挨拶を交わす光景に、目を細めて微笑ましそうにしている。ユイも「初めまして」と応じて……ヴィンクルとはハグしあったりしていたが。どうもラストガーディアンとなる者同士、通じ合う想いのようなものがあるようで。ユイもヴィンクルも嬉しそうだ。まあ、そうだな。ヴィンクルと仲が良いというのは結構な事だ。迷宮深層を預かる者同士、長い付き合いになると思うし。


 というわけでフロートポッドに乗り込み、ゆっくりとした速度で移動する。ユイはフロートポッドからの景色が気になるのか、外を食い入るように見ていた。


「折角だし、少しタームウィルズを見ていこうか」

「うんっ」


 というわけであちこち周回してから戻るという事になった。

 タームウィルズの街並み。そこに住む人々。セオレムや海原。青い空。何もかもに目を奪われているようだ。

 東区の俺の別邸や、迷宮商会。ペレスフォード学舎、温泉街や造船所のシリウス号等々、対話の時に馴染み深くなったものを見て笑顔になったりとユイは景色を満喫してくれているようだ。


 ユイとしては知っているものを見つけるのは楽しいとの事だが「会いたい人達が沢山いてお城で待っているから」と、一通り見てから程々の所でフォレスタニアへ向かう事になった。

 まあなんだ。天真爛漫で陽気というのは、鬼らしい性格と言えばそうなのかも知れない。レイメイも若い頃は今よりももっと竹を割ったような性格だったと言うが。


 そんなわけでフォレスタニアの入り口――塔の上に転移してくる。街中や湖の上を少し回ってから城へと向かえるようにというわけだ。フォレスタニアの風景にもユイは笑顔であった。


 そうして城に到着するとセシリア達と一緒にヘルヴォルテやアルファ、ベリウス、アルクスといったガーディアンの面々も待っていて、ユイを歓迎する。


「初めまして、と言っても私達の事は知っているのでしたね」

「うんっ、初めまして」


 ヘルヴォルテが言うと、ユイも元気に頷いて握手をしたり抱擁したりしていた。


「明るくて良い子ですね」


 ヘルヴォルテが静かに頷く。ヘルヴォルテはユイとはまた対照的に冷静な性格だが、迷宮村の子供達からは慕われていて、面倒見が良いというのが分かる。あまり感情を出さないが、ほんの少しだけ口元に笑みもあって、ヘルヴォルテもユイの事を気に入ったようだ。


 マクスウェルやアピラシアといった面々、動物組とも握手を交わしたり、ガーディアンや魔法生物といった面々だけでなく、使用人やテスディロス達、フォレストバードといった顔触れとも挨拶を交わす。色んな面々に会えてずっと嬉しそうににこにことしているユイである。


 城のみんなとも仲良くなれそうで何よりだな。魔界側のラストガーディアン候補という事で、公的な扱いとしては魔王国側の賓客という事になるだろうか。まあ、知り合いの面々にはその旨通信機で伝えておこう。


 そうして通信機で連絡を回すと、あちこちから祝福のメッセージが返ってくる。他の面々も顔を見せに行くと言ってきて、レイメイやゲンライからも是非会ってみたいという返答があった。


 会うだけでなく、ラストガーディアン候補が鬼という事ならば、仙術や鬼の通力についても教えたいという事だそうな。弟子とはまた違うし現時点では候補ではあるのだろうけれど魔界を守る事にも繋がるなら、そうした術に関しての知識も持っていた方が良いだろうとの事で。何というか有難い話だな。

 俺からも武術や魔法に関する知識を教えたり、ヴィンクルも一緒に訓練するつもりのようだが、いずれにせよ無理をさせたりしない程度に様子見しながら進めていこう。

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