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番外900 守護者への祝福

 対話の中で個人としての戦い方、集団戦について伝え、武技、魔法に対処する方法等、色々な事を伝える。

 迷宮側もラストガーディアンとして構築する予定であったから随分と飲み込みが早いというか筋が良いように思う。


(武器選び……迷うなぁ)


 と、そんな風に零していた。個人の趣味嗜好にもヒタカの影響があるのか、それとも俺達のイメージが影響しているのか。薙刀や長巻、それに刀に興味があるようだ。


「んー。今すぐ決めずに実際に武器に触れてみてから決めてみるのも良いと思うよ。基本ができていれば余程特殊な物じゃない限り、武器の扱いに流用できる技術も多いし、まだまだ成長途中っていうのもあるからね」

(うん。ゆっくり考えてみるね)


 武器の種類だけでなく、適した大きさや重さ等も本人の資質や成長に合わせて変わってくるだろうし今すぐ決める必要もないという事で。


 流体騎士団を指揮できるように戦術、戦法等々も覚えてもらったり、迷宮でトラブルが起こった際の対処法について教えたり。

 そうやって話をしている内に、迷宮核が構築していた身体の方も準備が整ったようだ。


(それじゃあ、次に会う時は外でだね)

「ああ。楽しみにしてる」


 笑って応じる。眩い輝きとなった彼女を、迷宮核がラストガーディアン候補として設定し、そうして構築された肉体へと統合するために迷宮核内部から流れるように移されていった。

 煌めきが転移して外へと運ばれていくのが分かる。

 映像情報で見ると、ラストガーディアンの間にて魔法陣の中央に転移してきた肉体――振袖の少女が浮かんで――眩い輝きに包まれている様が見えた。迷宮核内部から送られてきた魂がその器に取り込まれているのだ。


『ラストガーディアンの間で精神と肉体の統合処理が行われているから、無事に終わるのを見届けたらそっちに合流するよ。対話した印象だと素直な子だと思う』

「ふふ、それは何よりです」

「では、様子を見ながら待っていますね」

『うん。その辺も通信機で知らせるよ』


 通信機で伝えるとグレイス達が微笑みをモニター越しに向けてくれる。

 統合処理が終われば魔法陣も機能停止する。最初は眠っている状態だと思うと伝えると、アシュレイが「では一足先に体調を診てみますね」とこちらに伝えてくれる。そうだな。迷宮核内部での確認と、外での診察と、役割分担をできれば諸々安心だ。


 というわけで、処理に異常がないか、きちんと統合が進んでいるか。何時でも迷宮核の補助ができるように注視しながら、送られてくるデータを見ながら確認していく。


 そうして確認を進めていると空中に浮かんでいた少女の身体も……段々と光が収まっていった。そうして輝きが消えるとゆっくりと床に描かれた魔法陣に向かって下降していき、そっと中心部に横たえられた。


 迷宮核が統合処理完了の旨を伝えてくる。横たえられた少女も規則正しく呼吸をしているようだ。生命反応や送られてくるデータにも異常は見られないな。

 通信機で状況を知らせるとアシュレイが早速体調を見る為に駆け寄る。メギアストラ女王とジオグランタもアシュレイと一緒に向かったようだ。では、俺も迷宮核の外に出よう。


「ああ、ただいま」

「ん、お帰り」

「無事に対話が終わって何よりね」


 みんなも俺が戻ってきたのを確認して笑顔になる。そうして迷宮核の間に隣接するラストガーディアンの間に向かうと……ジオグランタに膝枕された鬼の少女を、アシュレイが脈拍をとったり魔力ソナーで診察をしているところだった。


「ああ、テオドール様。お帰りなさい」

「うん。ただいま」

「今診察していましたが、私が見た限りでは異常はないようです」

「迷宮核で確認したところでも異常はないし……循環で診ても問題ないようなら、目を覚ますのを待つだけかな」


 アシュレイとそういったやり取りを交わすと、ジオグランタは安心したように穏やかな表情を膝枕している少女に向ける。


「何というか……この子の魔力の波長は心地良いというか、私と合っている気がするわね」

「ジオの力が元になっているからね」


 対話の中ではジオグランタの事をお母さんと呼んでいたと伝えると、ジオグランタは「そうなんだ」と言いつつ、はにかんだように微笑んでいた。ジオグランタとしても親近感を抱くもののようで、そうした反応は俺としても喜ばしい事である。


 話をしながら少女の手を取って循環錬気も進めていくが、魔力の流れも正常だな。

 この辺は流石鬼族というか、まだ子供なのに身体能力も魔力も相当なものだ。ジオグランタの夢の世界で感じた力にも波長が良く似ている。


「大丈夫みたいだね」

「それを聞いて安心した」


 循環錬気を終えると、メギアストラ女王も笑みを浮かべて少女の髪を撫でる。


「ん……」


 そうして――みんなが見守る中で、少女が小さく声を上げ、目蓋を開く。赤い瞳が俺達を捉えた。


「――おはよう、お母さん。テオドールも、みんなも……」


 そう言って少女は嬉しそうに表情を綻ばせる。みんなの祈りも届いていたから親近感も持っているようだ。


「ええ、おはよう。お誕生日おめでとう、かしら」


 ジオグランタがそう言うとこくんと頷いて、身体を起こす。


「誕生日……。うん。嬉しいな」


「初めまして。お誕生日おめでとうございます」

「ふふ、名前も決めないといけないわね」


 エレナがそう言うとイルムヒルトが表情を綻ばせる。


「うんっ、初めまして。名前。私がこうして生まれたら決めるってお話もしてたよ」


 少女もそう答え、俺に視線が集まる。うん。彼女の名前を決めていかないとな。


「どちらかというと、ヒタカ風の名前の方が良いって言ってたね」


 そう尋ねると少女はこくんと頷いた。


「そうだな。……ユイ、はどうかな。糸を結ぶって意味があって、そこから転じて繋がりや纏まり、人の縁、みたいな意味が込められたりする。ヴィンクルも絆の意味を持つ言葉のもじりだから、近い意味合いだね」


 漢字で表記するなら結だな。ヴィンクルとは近いけれど違う言葉だ。名付けに込めた想いや立場は近いけれど、それぞれ別の人生を歩む存在でもある……というような。


「うん。いい名前。魔界とルーンガルドも繋がっているし、ヴィンクルと意味が近いのも、違う言葉っていうのも……何だか全部が嬉しいな」


 由来や名付けの意味を説明すると、少女――改めユイは笑顔になった。どうやら気に入ってくれたようだ。体調についても聞いてみたが違和感等はないそうで、寧ろとても好調のようだと頷く。


 体調確認も終わったところで、改めて自己紹介と挨拶を交わし、ユイに祝福の言葉を伝えていた。ユイは俺との対話で色々と話を聞いているので、みんな知っている相手だ。初めましてと挨拶を交わしつつも人見知りした様子もなく、ありがとうと礼を言ったり、会えて嬉しいと微笑んでいた。


「ふむ。では、これからの事だがフォレスタニアに向かってティエーラ様やヴィンクル達とも顔を合わせるという事で良いのかな?」

「そうですね。ルーンガルドのみんなも、ユイとの対話が気になっているみたいでしたから」


 パルテニアラの言葉に応じる。迷宮は境界門を通して繋がっているし、顔を合わせておいた方が良いだろう。


 魔界の環境やそこで生きる面々を見たり、ルーンガルドで修業したり。将来的にラストガーディアンとして就任するかも知れないという点を考えると、あまり外では力を見せたりできないというのはあるが、その点だけ気に留めておけば、迷宮の外をきちんと見て知っておくのは良い事だと思う。


「みんなに会うの楽しみだな。それに、ヒタカやホウ国のみんなにも会ってみたい」


 と、ユイが呟くように言った。確かに、ユイにとっては親近感を持つ相手だろうな。レイメイ達に至っては同族だし。


「そうだね。東国のみんなにも話を通しておくよ」


 こちらから訪問したりされたり。気軽に交流できれば良いな。フォレスタニアに戻ったらユイと東国の面々が顔合わせできるように話を通してみよう。

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