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番外889 魔界の海と古の魔物達

 そうして――日常の仕事の中に魔界の安定の為に迷宮を構築する、という項目が加わった。

 迷宮構築の進捗状況を伝えたり相談したりもするので、執務に加えて工房の仕事や造船所の仕事と一緒に毎日こなすというのはやや時間が足りなくなってくる。その辺に関しては日替わりで仕事を進める。

 週の内、この曜日とこの曜日はこれ、といった具合に仕事の進捗を見ながら調整しつつ動くわけだ。


 今日も今日とて迷宮構築の作業を終えたところで、魔王城にて代行の面々と相談等をしているわけだが。


「水没した迷宮、か。もう基礎的な所が出来上がったとはな」


 メギアストラ女王が感心したように顎に手をやる。


「防衛区画における中間層ですね。流体騎士団の要塞に向かう前に進む気を削ぐ目的と言いますか。水中を進むなら対策が必須となりますから」


 最初の防衛区画はルーンガルド側で言うと満月の迷宮に相当するエリアだ。ここは満月の迷宮を踏襲し、大きな回廊にして一本道にする。強力な魔物らとの戦闘を不可避にする事で侵入を拒む。


 中間層は水没しており巨大な海底神殿を模した区画となっている。防衛区画入り口の大回廊が満月の迷宮なら――海底神殿はルーンガルド側で言えば星球庭園に相当するだろうか?


 俺達はクラウディアがいたから防衛区画を分割して攻略ができたし、ラストガーディアンに挑む力を付ける為にも利用する事ができたが……そもそも防衛区画は出入りを想定していないのだ。

 侵入者が仮に大回廊攻略を成し遂げたとしても、そのまま補給無しで水没迷宮に臨む事になる。更にそこを抜けても中枢部に流体騎士団とラストガーディアンが待っている、という状態になるわけだ。


「事前知識無しで水没迷宮を突破できる対応力があっても……消耗したところで流体騎士団を相手取るのは難しいというわけね」


 ローズマリーが目を閉じて頷く。


「魔界では海洋の魔物を避けて地底海路を利用していると聞いていたからね。迷宮核が収集してきた情報を調べてみたら、案の定と言うか……海洋の魔物は大型で凶悪な物が多かったから」


 海洋の開拓が全く進んでいないために名前がない種族も多い。見た目からシーサーペントだとか、海洋に適応したヒュドラ変異種だとか仮の名も付けているが……更には何の冗談なのか、首長竜や魚竜系の変異種までいる。これは分析から太古のルーンガルドの海で栄えた種から変異したものだと判明している。


 というか……そもそも内陸部であったエルベルーレが魔界に飲み込まれて、どうしてこんなにも海洋生物が豊富になってしまったのか。何故太古魔物が現存しているのか。それらの疑問への答えはティエーラとパルテニアラが持っていた。尋ねてみたら思案した後で情報をくれたのだ。


「地殻変動で地底に取り残された海があった事は記憶しています。魔力溜まりがあれば閉鎖された環境であっても魔物であれば生き延びる事ができますね」

「魔界にある地底海脈は――元はエルベルーレに存在していたものであろうな。エルベルーレのさる洞窟に地底湖がありそこには水竜……とはまた違う亜竜種を見た、と証言する者が当時はいたそうだ。地底湖は海水のように塩気があったというのも記録に残っている」


 地底のタイムカプセルが魔界に飲み込まれて……魔力溜まりの位置が変わったのか何なのか、大海原に出て行ったといったところか。

 まあ……生き物の可能性を信じているティエーラとしては、取り残された種も未来に残したいと、その場所に無意識的に魔力溜まりを噴出させた可能性はあるな。

 そうしたティエーラとパルテニアラの話してくれた内容は、二つの迷宮核が分析した結果、裏付けが取れてしまった。


 ともあれそうした大型な海洋魔物は凶暴な性質のものが多く、魔力の豊富な海域を支配しているので、侵入者には積極的な攻撃を仕掛けるようで。


 かといってそうでない海域の魔物は環境魔力だけでは活動が難しいのか、かなり熾烈な弱肉強食の様相を呈しているようだ。群れを成して別の生物に襲い掛かるピラニアのような肉食性の魚群がいたり、幻影を見せて毒の刺胞で麻痺させて他の生物を捕食するクラゲがいたり……魔界の海洋開拓が全く進まない理由が分かる有様だな。外海ははっきり言って人外魔境であるが……。


 だからこそ水没迷宮を採用したとも言える。凶悪な水棲魔物の層がぶ厚いのだ。侵入者はシーサーペントやら魚竜変異種や獰猛な肉食魚の群れと否応なく交戦する事になるだろう。


「海の魔物は悪名が高い。道が水没していて、しかもそれが海水ともなれば……その時点でどのような区画か察するでしょう。私でも外海に身一つで入れと言われたら二の足を踏んでしまいますな」


 というのは、水没迷宮のコンセプトを聞いた騎士団長ロギの言葉である。魔王国でも屈指のロギにそう言わしめるというのは……抑止力として十分な物なのではないだろうか。


 その他にも色んな種族の需要に対応した資源生成区画も着々と準備が進んでいる。各々の種族の既存の戦法等を研究し、それが通じやすいような魔物の相性や編成にしたり、といった具合だ。ドラゴニアンや竜達、それにベヒモスといった特に強力な力を持つ面々に対しては――流石に相性云々以前の問題なのでそれら種族の需要だけを考えたような区画になってしまうが。


「とりあえずこちらの進捗だが、迷宮が構築されているという国民達への周知は進んでいるのだったな?」


 と、メギアストラ女王がロギに尋ねる。

 防衛区画の完成と資源生成区画が一通りの種族分揃ったら魔界側の迷宮もお披露目、という事になるのだろう。ラストガーディアンはヴィンクルのように幼少時から育てるのも視野に入れているので、すぐさまどうなるというものでもないし。


「周知については予定通りに進んでいると伺っておりますぞ。不確定要素としては――ジオグランタ様達の影響を受けた区画が出現するという話でしたが……この辺は伏せております」


 ロギが静かに頷いて答える。


「今はまだ、どんな区画になるかは分かりませんので、情報は秘匿したままでお願いします。有用性が高ければ一般開放も考えられますが」


 管理者であるジオグランタや代行としての権限を多く持っているメギアストラ女王、それに俺。後は……王都ジオヴェルムの想念結晶の影響が出る区画がいずれ構築されてくると思う。場合によってはボルケオールとロギの影響を受けた区画もか。

 俺の場合は――夜桜横丁はヒタカがルーンガルドにあればこそという区画だったから、魔界でどんな区画として結実してしまうかは現時点では予想がつかないな。


「ともあれ、生成区画については危険度に応じて接続区域を上層、下層に振り分けるなど、適切な対処をしたいところですね。配置換えについては何とかなりますので」


 そう言うと「心強い事だわ」とジオグランタは笑顔になっていた。

 オペレーションシステムも仮ではあるが組み上げたので、使い方についてティエーラと共に勉強中のジオグランタなのである。分かりやすくて使いやすいと、ティエーラやジオグランタからは評判だ。

 まあなんだ。迷宮核でできる事、よく使うコマンドをリストアップして表示し、音声入力で操作したり、注意点を伝えたり、といった事ができるようになっている。一先ずは簡易操作でクリティカルな処理ができないように制限もあったりするが、平常時はこれだけで足りるだろう。


 そんな調子で諸々の仕事は順調だ。みんなと子供達の体調も良好である。平穏に日々は過ぎていって……季節も段々と夏の終わりに向かっているのを感じる頃合いなのであった。

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