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番外888 迷宮の未来の為に

 そんなわけで流体騎士のバリエーションも色々と見てもらう。高機動且つ遠距離攻撃が可能なケンタウロス型で引き撃ちをしたりとか、高速飛行型に電撃放射や粘着網射出などの範囲制圧の手段を持たせて制空権を取ったりといったコンセプトを持たせた流体騎士を見てもらう。


「いやはや。これはまた強力ですな」


 と、乾いた笑い声をあげるボルケオールである。


 流体騎士は何というか……関節も内臓もなく、身体を支えるための骨格も必要のない時は内部での硬質化を解除できるので、かなり無茶が利く。形状も人型に拘る必要はないからな。

 非戦闘時には身体を折り畳んで装甲表面をカムフラージュすればちょっとした隙間や物陰どころか、天井絵や壁画のような平面に紛れ込んだりして奇襲を仕掛けたりといった事も可能だ。

 炎熱城塞ではリビングアーマーに背後から襲撃させる為に天井や通路に隠しスペースがあったが、流体騎士の場合はそういった物すら必要ない。


 中枢部へ至る区画の、壁や天井などに装飾を施してやれば隠れ場所を無限に作り出す事ができるというわけだ。

 そうした装飾に合わせて人目を引く大型の重装騎士や遠距離攻撃型等を正面に置いて注意を引きつけてから、隠密型による奇襲、挟撃を仕掛ければより効果的だろう。


「とまあ……こういった物陰や隙間から奇襲を仕掛けるというわけですね」


 マルレーンのランタンを借りて幻影を展開し、実例を見せるとメギアストラ女王が苦笑いを見せる。


「これは――やられる方はたまったものではないな」

「防衛区画への侵入に対しては最初に警告文を書いておくと共に、示威用の施設を見せて引き返せる場所を設けておこうかなと。通路を抜けた場所に隘路。その向こうに要塞を配置し、逃げ場のない一本道に前衛型と遠距離砲撃型を置く……といった具合ですね」


 炎熱城塞の造りに近いな。それを見て引き返さないのなら確固たる意思を持って迷宮中枢に望もうとしていると判断できる。それならば迷宮側としても総力を以って排除を開始する事ができる、というわけだ。


 仮に迷宮中枢に正当な用事がある場合は目的を主張すればいい。主張の真贋を見分ける方法も用意し、真実を述べていて正当性のある目的であるなら、管理者や代行に直接会えずとも用件がどんなものであるか届くようにする、といったシステムを構築しておくわけだ。


「なるほど。侵入は許さずとも窓口を設けて話を聞くというわけですか」


 ボルケオールが納得したように頷く。


「中枢部に繋がる区画も防衛区画扱いにするつもりでいますからね。何かの間違いや興味本位程度で中枢部に踏み込まれては困りますが、切実な用件まで聞かずに切り捨てるのもなんですから」


 政治的な問題であれば話を持っていく相手は迷宮ではないし、迷宮そのものに対する働きかけが必要なら道筋は残す。

 俺達もクラウディアに話を聞いてもらったから今があるわけだし……迷宮管理側と話をする為の過程をもう少し安全にしよう、というだけの話だ。

 嘘や裏切りは魔法審問の技術やカーバンクルやサトリの属性を付与した魔石があれば対応可能だしな。


 そうした体制を整えるのと並行して、迷宮をしっかりと構築していく必要があるだろう。ともあれ、流体騎士については結構な性能である事も分かったし、中枢防衛の戦力として採用する事にみんなも納得してくれた。


 後は――魔界側のラストガーディアンだが……これに関してはもう少し時間が必要だな。暫くは流体騎士達でしっかりとした防衛体制を構築し、安全性を検討しつつ話を前に進めていく事としよう。




 流体騎士達の採用が決まったところで、続いて流体騎士の性質に合わせて迷宮内部の構造を作っていく。

 中枢部の入口は要塞型として決定したが、迷宮核から外に向かって造っているので内側から外側へ向かって順番に構築していかなければならない。つまりは要塞内部の構造を先に考えるわけだが……その為にも最初に防衛戦力の性質決定が必要だったわけだ。


 魔界の性質を考えるなら戦闘を想定している場所は明るい方が良い。光に満ちたダンジョンは、魔界の住民の目にとっては逆にきつく対策が必須だからだ。魔道具類で対策を取った場合、装備品が壊れればそれで探索を断念せざるを得なくなるし、流体騎士達の銀色の装甲とも相性が良い。

 そんな中でアップダウンの激しい通路に分岐点を無数に用意し、構造が変えられる様にしたり、罠や長い迷路で消耗したところで逃げ場のない一本道の通路に戦力を集中させられるようにしたり……色々とノウハウを駆使して防衛区画を構築していく。防衛区画が出来上がったところで境界門が安置される区画を迷宮に組み込み、ルーンガルド側と同様に連絡通路で魔王城と繋ぐ。


 迷宮が拡張されればされるほど移動も手間になってくる。魔界を司る精霊であり管理者でもあるジオグランタなら迷宮内部もクラウディア以上に好きな場所に顕現できるが……メギアストラ女王も代行なので中枢部に転移できるようにするなど、何かしらの手筈を整えておく必要があるだろう。そうだな……。

 特別な転界石を利用した装飾品が良いか。契約魔法を組み込んで、代行者が装備している時に限り迷宮から転移用システムの恩恵を受け取れる、というような感じだ。


 そういった調子で重要な区画を整備する等、現時点で進められる諸々を整えていった。実際に迷宮核を設置したから、防衛区画は出来る限り構築も早い方が良いだろうというわけだ。


 中枢部に直接関わりのない区画については――魔界魔物の情報が出揃ったところでゆっくり構築していけば良い。

 資源生成を兼ねた区画ではあるが、一番の目的である歪みと澱みの解消についてはベルムレクスの騒動後に浄化の儀式を行ったばかりだから、そこまで喫緊というわけではないしな。


「ふむ。冒険者制度等を整えるにしても一般から迷宮内部に呼び込むわけだから、どう周知したものか……」


 今日の分の作業を終えて魔王城に戻ったところでメギアストラ女王が思案しながら言った。


「ヴェルドガル王国と国交を持つわけですし、実際に境界門を通して繋がっているわけですから魔界でも資源生成の為に迷宮が構築されるように話し合いをした結果、という感じで……管理体制や仕組みについてはぼかしておいても良いのではないでしょうか」

「ルーンガルド側の迷宮が管理されている形で延長された……とも思ってもらえる程度に説明を留めておく、というわけね」


 国交を持つ以上フォレスタニアの事も知られるわけだし。実際の制御や管理体制について部外者に踏み込んで伝える必要もない、というわけだ。


 俺やクラウディアがそう言うとジオグランタも静かに頷く。


「確かに……詳しい仕組みまで明らかにする必要もないものね。ヴェルドガルに元々あって制御が利くという点が分かっていれば安心して利用してもらえるのではないかしら」

「安心、という点は確かに重要ですね」


 ジオグランタの言葉に、ステファニアも同意するように頷いていた。

 今は魔王城地下の秘匿された区画に入り口がある状態だが、各種資源生成区画が出来上がったらジオヴェルムの地上部分に低難易度の区画を繋いで資源生成区画と共に一般開放、という流れになるだろう。

 迷宮入口付近の浅い階層については最低限の探索や戦闘が可能かを見て、内部での動き方を学ぶチュートリアル的な性格が強い。そうした場所もきちんと整備して難易度調整してやらないとな。


 暫くの間は平常通りの仕事に加えて魔界側にも迷宮構築の為に通って仕事をすることになるだろう。

 それと……管理者が迷宮の管理がしやすいように、ティエーラとジオグランタ用に分かりやすい管理用オペレーティングシステムを作っておく必要があるか。俺も未来永劫ずっと管理代行というわけにもいかないしな。

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