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番外885 迷宮構築に向けて

 迷宮核の起動に必要な術式、呪法対策等のセキュリティ関連の術式。そして境界迷宮が収集したデータの中から魔界側の新迷宮に役立ちそうなデータをコピーしていく。

 データというのは……つまりルーンガルドの、魔物を含めた生物や妖怪達のデータベースだ。ルーンガルド側の魔物はあまり使わない方向で考えているが、魔界側の情報収集を迷宮が済ませるまでは魔物の層が薄くなる。当分の間、整備を担当する俺はルーンガルド側の魔物に知識があるのでガーディアン等にも設定しやすい、というわけだ。

 それに重要区画の防衛等には……馴染みのない魔物の方が対処もしにくいしな。


 そんなわけでコピーをしながら仮想ウィンドウを中空に表示し、初期設定から迷宮を形にするまでの手順を整理したり、迷宮として機能するように区画を考えていたりしていたが……やがて迷宮核として必要な術式やデータベースのコピーも終わる。


 複製されて渦を巻くように吸い込まれていった星々のような術式も、段々と少なくなっていき、やがて完全に全て吸収された。

 続いて迷宮核として機能させるために必要なパーツがオリハルコンの周囲に形成されていく。ミスリルを混ぜた合金で構成されており、全体を見ると八面体を更に大きく囲うような形だが……迷宮核が起動すればパーツが展開して、迷宮核の周囲にリング状になって浮かんだりする。


「何だか色々部品がつきましたね」

『これは迷宮核を保護し、運用の安全や安定性を得る意味合いがあるんだ』

「鎧と杖の役割、と言えばいいのかしら」


 少し驚いたような表情のグレイスに通信機でそう答えると、クラウディアも補足するようにそう説明してくれた。

 外からの攻撃を遮断する結界を展開してくれる鎧であり、仮に結界やリングが破壊されても迷宮核が無事なら再展開したり修復したりする事が可能だ。

 同時に術式発動体として機能する杖のような役割を持つ。術式行使の負荷が迷宮核そのものにかからないようにする事ができる、というわけだな。


 後は迷宮核を起動させた後の最初期の挙動を設定してやれば、一先ずの準備は完了だ。起動術式は管理者であるジオグランタに使ってもらうから、詠唱を記した巻物だけ用意しておくとしよう。


 ――迷宮核から外に出る。意識が肉体に戻ってきたところで目を開き、みんなを見やると笑顔で迎えてくれた。


「おかえりなさい、テオドール様」

「ん。おかえり」

「ただいま」


 と、みんなに笑って応じつつ、バロールを飛ばしてオリハルコンの周囲に描かれている魔法陣を綺麗に片付けていく。魔法陣を描くために使った魔石の粉を回収して、壺に収めた。


「さて……。それじゃあ、みんなの体調を確かめたら、また魔界に行かないとね」


 何だかあちこち行ったり来たりだが、オリハルコンを預かっているだけにここは一気に仕上げないといけない。循環錬気でみんなの体調を整えたら魔界へ移動する事にしよう。

 迷宮の初期構築は少し時間がかかるので、メギアストラ女王が魔王城に宿泊するための準備を整えてくれている。地下で色々作業を進めたら魔王城でのんびりさせて貰う事になるだろう。




 下準備を済ませたオリハルコンを迷宮中枢から魔界側へと運び込む。ティエーラ達は「あまり根を詰め過ぎないように気を付けてくださいね」と、穏やかに微笑みながら俺達を見送ってくれた。


「これが迷宮核――」

「中心部にオリハルコンがあり、起動させると外装が展開するようになっています」


 と、俺達が戻ってくるのを待っていたジオグランタ達に説明する。然るべき場所に設置してからジオグランタに起動してもらうという事になる。詠唱を記した紙を渡して手順を説明すると、ジオグランタは真剣な表情で頷く。


「分かったわ。準備ができたら教えてくれるかしら?」

「その後の事も、どうかよろしく頼む」

「はい。迷宮としてきちんと機能するように仕上げるつもりでいます」


 ジオグランタとメギアストラ女王にそう答えて、境界門の間からジオグランタと交信する為の祭祀場へと移動した。

 迷宮は地脈の力を利用する。その点、地脈上にあり、ジオグランタと結びつきの深いこの場所は迷宮核を据えて起動させるにはうってつけ、と言える。


 ただ、この場所でそのまま迷宮核を起動させてしまうと、この設備自体が迷宮の中枢部となってしまうので、祭祀場の直下に魔法建築で広間を用意させて貰っている。


 みんなで連れ立って階段を降りて、新しく造った最下層の大広間に立ち入る。丁度境界迷宮の最奥――迷宮核の間と同じぐらいの広さだ。そうなるように設計している。


 迷宮核が起動すればここを起点に拡張が始まる。既存の施設を内部に組み込まないようにしたり、或いは敢えて取り込んだりもできるな。

 境界門の置かれた間は迷宮に取り込むが、祭祀場に関してはジオグランタに連絡を取る際に魔王城の地下として存在していた方が良いからそのまま地下設備として残す、といった具合だ。


 では――始めるとしよう。広間の中心に新しい迷宮核を据え、視線を向けて頷くとジオグランタも俺を真剣な表情で見て頷き返す。

 浮遊して留まったそれにジオグランタが向かい合い、紙に書かれた起動術式を詠唱として読み上げる。朗々とジオグランタの声が響くと、迷宮核の周囲に幾重にもマジックサークルが広がり……そして外装パーツが展開した。


 地脈と迷宮核が繋がる。幾重にもリングが迷宮核の周りを囲うように展開し、充填された魔力が広間を迷宮として取り込む。迷宮核を中心に建材の色が変わっていく。祭祀場に繋がる階段部分に境界迷宮の区画移動と同様のゲートが張られた。


「ああ――これは」

「おお……。これが迷宮の誕生――」


 ジオグランタが声を上げ、メギアストラ女王とボルケオールが目を見開く。俺達も迷宮の起動を見るのは初めてだ。どういうプロセスなのかは分かっていたが――確かに凄いな。


 迷宮核は結界に覆われ、魔界からの魔力供給を受けて相当な力を発散している。操作用の台座等、必要な設備も目の前で構築されていく。


「なるほど。今も魔力を蓄積しているようね」


 ジオグランタが胸のあたりに手をやって言う。魔力の流れを感知しているのだろう。


「ジオに負担をかけたり、環境をあまり変えないように魔力資源を調整している段階だね。気分が悪かったりはしない?」

「大丈夫よ。蓄積しているのは分かるけれど、地脈の流れも自然なままな気がする。ティエーラに感覚を聞いていたけれど、月の民の技術というのは凄いわね」


 ジオグランタが微笑んで答えてくれる。当人の感覚的には問題がないというわけだ。中空に仮想ウィンドウを開いて魔力供給の状況を確認してみるが……魔力にも結構余裕があるかな?


 ルーンガルド側の迷宮に関しては星々の魔力を受け取ったりもできるから……魔力リソースに関してはかなり余裕がある。

 魔界を分析してルーンガルド側の迷宮核で試算をする前は――魔界の迷宮維持においてリソースがマイナスに転じるようなら、余剰分の魔力供給路を作る必要性についても考えていた。


 制御されていない魔力の混雑や流出、流入はあまり歓迎すべきではないが、魔界もルーンガルドから通じる隣り合う異界といった位置付けだからな。管理下にあるなら問題ないという考えであったが……シミュレーション通り、魔界側もこれなら大丈夫そうだな。


 魔界自体が神秘性の高い場所だからか、迷宮を作るにしても維持するにしても、十分な魔力供給が可能なようで。

 だからこそ変異点があちこち噴出したり、歪みや澱みが崩壊に繋がったりしてしまうのかも知れないが……それらの問題も迷宮があれば解決に向かうだろう。


 と、迷宮核が最初の処理も終えたようだ。魔界に存在する種族、魔物等のデータ収集作業に移行したようである。これについては魔界側の書籍も事前情報としてデータを取っているので魔界の迷宮核としても分析がしやすいだろう。

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