表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1654/2811

番外883 迷宮への想い

「ただいま」

「おかえりなさい」

「ん。おかえり」


 転移港に戻ってくると既にクラウディアがやってきていて、そのまま転移魔法でフォレスタニアの城の中庭へと移動した。

 みんなは俺達と一緒に浮遊するオリハルコンを見て、笑顔で迎えてくれる。近くで俺を見上げるマルレーンの髪を撫でるとそのままにこにことした屈託のない表情を向けてくれた。うむ。これから魔界へ向かうという事でパルテニアラとボルケオールも一緒だ。カーラは……工房で仕事の手伝いをしてくれているようだが。


「これが迷宮核になるオリハルコンなのですね」

「予想はしていたけど、かなり大きいわね」


 グレイスが言うと、ローズマリーもそれを見て頷く。


「何というか……凄いものですな。こちらに来てから立場上色んな物を見てしまっている気がしますが」


 ボルケオールが苦笑する。


「知恵の樹にも残してもらう情報が多くなりますね」


 と、俺も笑って応じた。迷宮を構築するにしても、後世の者達の事を考えるとその切欠やらは記録として残しておきたいところだからな。その点、あまり大っぴらにならず、正確に情報を残せる知恵の樹は有難いというか。


「さて。それじゃあ行こうか」

「はい。準備はできています」


 俺の言葉にアシュレイが答える。

 預かってきたオリハルコンはそのまま間を置かず、魔界に持っていく事になっている。オリハルコンと対話をするのであれば、俺だけでなくみんなの祈りや想いが力になる事もあるだろうと、大型フロートポッドに乗り込んでそのまま転移魔法で魔界へ移動するという事になっているのだ。


 フロートポッドについては城の上層部にも離着陸できるスペースを作ったからな。上層の生活空間から直接乗り込んでフォレスタニア内での移動が可能なのは勿論、外の区画にも転移魔法での移動が可能だ。


 みんなで乗り込んで操縦席の脇にオリハルコンを置く。乗り込んだ面々を確認したところでクラウディアが言った。


「では、飛ぶわね」

「うん。よろしく」


 フロートポッドが少しだけ浮遊したところでクラウディアがマジックサークルを展開。転移魔法で境界門の連絡通路へと飛んだ。

 フロートポッドが移動してきた事を確認したのか、連絡通路の警備任務に就いているティアーズ達がすぐにやってくる。

 それからフロートポッドのドアをノックしてくるティアーズ達。


「どうぞ。鍵はかけていませんので」


 グレイスが返答すると、ティアーズが扉を開けて内部の人員を確認してくる。しっかりとした確認作業をした後、お辞儀して外に出て再び扉を閉めた。

 礼儀作法を身に着けていると賓客が移動する時も安心というわけだ。


「ティアーズさん達の仕草は可愛いですね」

「ふふ。可愛いけれど、結構強いから頼りにもなるわね」


 エレナがそう言って表情を緩めると、イルムヒルトもその言葉に笑って頷く。

 大型フロートポッドは竜籠として機能させられるように、牽引用の鎖が付いている。

 乗っている人員に不審者がいない事を確認したティアーズ達はマニピュレーターで鎖を掴むと、数体で引っ張り、数体で下や横から支えるようにして飛行を始めた。移動要塞の正規ルートをそのまま移動させてくれるというわけだ。


 境界門からの移動に際して乗り物を使う事もあるだろうと想定している。

 中を見て人員を確認する作業を行い、移動許可のない見知らぬ者がいた場合は権限のある者に連絡して許可があるか調べる、といった手順を要塞のティアーズ達には教えてある。

 まあ、フロートポッドの移動のさせ方に関しては流石にティアーズ達に新しく学習させる事になったが。


 程無くして、境界門が安置されている区画に俺達は辿り着く。ルーンガルド側から魔界側へと再度の転移魔法で飛ぶ。俺からもフロートポッドの魔石に魔力供給しているので、クラウディアも最低限の魔力消費で転移が可能である。


「おお。来たか……!」

「待っていたわ」


 魔界側に移動すると境界門の近くでメギアストラ女王とジオグランタが俺達を待っていた。ティエーラとコルティエーラのスレイブユニットも一緒だ。フロートポッドを着陸させてみんなで降りると、俺達を笑顔で迎えてくれる。


「お待たせしました。これがお話していたオリハルコンです」

「なるほど。確かに……テオドール公の杖に組み込まれているものと同じだな」

「流石というか――相当な魔力を秘めているようね。それに……綺麗だわ」


 メギアストラ女王とジオグランタは興味深そうにオリハルコンを見やる。真剣な表情で観察されて、ぼんやりとした金色の光を纏っているオリハルコンと、それらを見て頷くティエーラとコルティエーラという構図だ。


 というわけでそのまま少し場所を移動する。境界門の安置された間から、ジオグランタと交信するための儀式場へ。隣り合う地下区画なので移動距離も短いし、人目に晒される事もない。


 交信以外の儀式も行えるよう、副祭祀場とでも言うべき設備があって、そこには既にオリハルコンとの対話に必要な魔法陣が描いてある。

 オリハルコンをなるべく迅速に迷宮核として稼働させられるよう、魔王城、迷宮と、事前準備を万端整えてあるのだ。


 こういう場合、輸送中が一番危険だからな。その点、転移門や転移魔法で安全に運べるのは有難い。

 オリハルコンを魔法陣に据えてから、俺とジオグランタで魔法陣の中に入り、みんなも儀式を見届けられるように儀式場の端に移動した。即席の椅子を用意してあるのでそこに座って祈りを捧げてもらえば良いだろう。


「私は何時でも大丈夫よ」


 ジオグランタは静かに言う。グレイス達やメギアストラ女王、ボルケオールも準備はできていると、真剣な表情で頷いてくる。


「では――始めます」


 オリハルコンに向き直り、ウロボロスの石突を地面に突き立てる。マジックサークルを展開すると魔法陣が光を宿した。

 ジオグランタと共に目を閉じる。何の為にオリハルコンが必要なのか。想いをオリハルコンに伝える事で認めてもらうのだ。


 脳裏に思い描くのは……魔界と迷宮にまつわる記憶だ。月の民とエルベルーレの争い。魔力嵐から端を発した魔界と迷宮の成り立ちについて。

 月の船と共にクラウディアの決意。ティエーラの想い。別たれたコルティエーラと管理者の座に囚われてしまったクラウディア。


 魔界で生き延びる為に奮闘したパルテニアラ。エルベルーレ王との戦い。ゼノビアが残したベルムレクスの事――。


 魔力嵐は魔界では起きていないけれど、歪みや澱みで崩壊する危険がある。それを抑える為に迷宮の力が必要だと……経緯と理由を一つ一つ思い描いて説明していく。


 同時に――俺にも流れ込んでくる心象風景のようなものがある。それは――ジオグランタと夢の世界で交信した時に見たことがある。魔界に生きる者達の生命の輝きだ。

 魔界は過酷な環境もあるけれど……ジオグランタは魔界に生きる者達を愛おしく思っている。それを……守りたいと思っているのだ。ティエーラやコルティエーラ。月の精霊との交流。その中で感じた、残せるものがあるという事への喜び。


 重なり合うような、みんなの祈り。そこに込められた想い。迷宮に関しては……みんなも思うところがあるようだ。沢山の人達を守った事。自分を強くして居場所をくれた事。生まれ育った故郷――。


 そうした迷宮への想いを祈りに乗せて。だから魔界やそこに住む人達を守る為に必要なものだから。どうかお願いしますと……そう祈る。


 ああ。そうだな。そんなみんなの想いはよく分かる。俺も力や居場所を求めてタームウィルズを目指したから。そこで出会った人達と……これまでの戦いや絆は、迷宮があればこそだろう。


 暗い歴史や出来事がなかったわけではないけれど……それも含めても尚、迷宮があった事で多くの人が支えられ、助けられてきた。クラウディアの願いで成り立ち、ティエーラも傷つけられて尚、ルーンガルドに住む者達を守ろうとしたからコルティエーラと分かたれたものなのだから。


 どのぐらいそうしてオリハルコンに想いを伝えていたかは分からない。けれど……オリハルコンから感じる魔力の波長が不意に変わったような気がした。その波長は前にオリハルコンと向かい合った時にも感じた事がある。

 薄く目を見開けば――オリハルコンの周囲に金色の燐光が漂っていた。場に感じる魔力も暖かなもので……どうやら想いは届いてくれたらしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ