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番外874 航路開拓船の帰還

「やあ、テオ君」

「うん。アル」


 造船所に降りて大型ポッドから顔を出すと、アルバート達が笑顔で迎えてくれた。

 普段は割と落ち着いているドロレスも、ヘリアンサス号が帰ってくるという事で随分と上機嫌な様子だ。また、貿易に関わる事という事で迷宮商会の店主、ミリアムも姿を見せている。

 ミリアム自身が貿易品を販売するわけではないが、商業ギルドの会合で東国にはどんな品物が渡されて、どういった反応だったとか、東国から持ち帰った品にはこんなものがあった、等の話をする為だ。


「これはテオドール公」

「今日は爽やかな風があって良い日ですね。到着を祝うには持って来いです」


 と、ドロレスと共にミリアムも微笑む。ヘリアンサス号の船員の家族も集合していて、俺達の到着に合わせてお辞儀をしてくる。


「ああ。みんな揃っての出迎えだから、船員のみんなも喜んでくれると思う」


 造船所に揃っている面々からの挨拶に俺も笑顔を返す。

 更に護衛と馬車を引き連れて王城に納めた大型フロートポッドが造船所に到着した。

 降りてきたのはメルヴィン王とジョサイア王子。アドリアーナ姫。更にヒタカとホウ国からユラとリン王女が来ている。


 ユラとリン王女は……俺達がヘリアンサス号の東国到着を迎えに行ったから、それに倣う形で航路開拓成功の祝福にきてくれた、というわけだ。


「これは陛下、皆様も」

「うむ。元気そうで何よりだ」


 メルヴィン王達に挨拶をすると、笑顔で応じてくれる。


「みんなも出迎えに来たいとの事で、フロートポッドで一緒に参りました」

「ふっふ。無理をさせないようにという事だな。そなたが家族を想う気持ちはフロートポッドの乗り心地からよく分かる」

「それは――恐縮です」


 メルヴィン王の言葉に小さく笑って応じる。

 そうしてジョサイア王子達とも挨拶を交わしていると、ヘリアンサス号が沖合から近付いてくるのが見えた。入港するのは造船所だが、その前に戻ってきたヘリアンサス号を一目見ようと、港の船着き場にも人が押しかけてきており、物見遊山で人だかりだ。

 行商人が露天を営んでいたり、屋台が串焼き等を売っていたり。結構な賑わいである。


「ヘリアンサス号が戻ってくる予定日は商人仲間にも周知しておりましたから、行商人や屋台も多いのではないかと思います」


 ミリアムが教えてくれる。それで露天商や屋台も手際よく港で店を開いている、というわけだな。


「また暫くの間タームウィルズやフォレスタニアが商人達で賑わいそうですね」

「そうだね。良い事だと思う」


 微笑むグレイスにそう答える。

 商人達への情報の周知は俺達にとっては今後の貿易が活性化しやすくなる、というメリットがあるが……迷宮商会はブライトウェルト工房のお抱え直販店でもあるからな。航路開拓では主体にならず、そうした商機を商人仲間に周知する役割を負う事で、商人達からのやっかみを防ぐ事にも繋がる、というわけだ。


 見物人の拍手や歓声を受けつつ、ヘリアンサス号が港にやってくる。船員達も甲板から見物人にお辞儀をしたりしていた。船乗りというのは結構ワイルドな面々も多いのだが、ヘリアンサス号の船員達に限っては各国から選ばれた面々でもあり、訓練も積んでいるので礼儀作法等、きっちりしている印象があるな。


 そうして造船所にヘリアンサス号が入ってくる。俺達が迎えに来ているのを確認し、甲板からこちらに向かって作法に則り敬礼をしつつ、ヘリアンサス号が停泊した。


 船員達は準備も万端整えていたようで、すぐにタラップが降ろされ、船員達への指示を済ませた船長が下船してきた。


「これほどの方々に暖かく迎えて頂けるとは。住民の皆様も集まって下さっておりますし、有難い事です」


 と、こちらに改めて一礼してくる。


「うむ。東国との航路開拓、実に大義であった。ヘリアンサス号とその船員達の偉業は後世に語り継がれるべきものであろう」

「おめでとうございます。往路、復路と共に誰一人欠ける事なく帰ってきた事を喜ばしく思っています」

「お帰りなさい。タームウィルズで船長達に会う事ができて、私としても安堵しつつも感動しています」


 メルヴィン王と俺、それからドロレスが船長達にそれぞれ祝いの言葉を伝える。


「勿体ないお言葉です。メルヴィン陛下が暖かくご支援下さり、テオドール公が安全な航路を構築し、ドロレス様と共に素晴らしい船を建造して下さったからこそ成し得た事です。勿論、船員達もよく働き、航行を支えてくれました。この航路開拓計画に携われた事を船員一同、誇りに思っております」


 船長はにっこりと笑ってそんな言葉を返してくれた。

 そういった話をしている間に船員達も東国から持ち帰った品々を次々と船から降ろして造船所に並べていく。


 色々な品が目につくな。木彫りの工芸品や絵画に人形。陶磁器、晴れやかな色合いの着物、首飾り等の装飾品といった美術品に分類される品々。三味線、横笛、鼓、二胡等々の楽器。


 薬品であるとか、刀剣類に鎧といった武器防具や魔道具等の実用品。酒や作物の種等々……ヘリアンサス号が持ち帰ってきた物は多岐に渡る。船の積載量は結構なもので、往路、復路共にかなりの量の物品を運んでくれたようだ。


「航路開拓、おめでとうございます」

「お帰りなさい。ようこそタームウィルズへ」


 と、ユラとリン王女が微笑みを浮かべて船員達に言葉をかける。船員達もユラ達の歓迎の言葉に、表情を綻ばせていた。


 そうして一通りの荷物も降ろし終わったところでどんなものを持ち帰ってきたのか、目録に目を通して確認を取っていく。

 ミリアムも商人仲間に情報を渡すために、どんな品々を持ち帰って来たのか、船員達と一緒に確認してメモを取っているようだ。


「おおっ……! これは良い物ですね! 流石に一級品の品々を取り揃えてあるようで……。ああっ! これはまた精巧な……! くうっ! 自分でこれらの品々を直接売りこめないのが悔やまれます!」


 と、メモを取りつつも目を輝かせたり、商人としての矜持を見せたりしているミリアムである。


「ああ。その絡繰り人形なら、前に私が作ったものですよ。いやあ懐かしいです」

「コマチさんがこれを……!? 道理で精巧なわけですね……!」


 そんな上機嫌なミリアムとコマチのやり取りを見て船員達も笑顔になったりしているが。コマチの作った絡繰り人形は魔石等、魔力を動力として使っていないのに、客のところに茶を運べるという品らしい。流石にコマチの技術力は高いな。


「金箔や銀箔で植物の意匠を形作ったりしているのね。綺麗だわ」

「楽器ではあるけれど、美術品としての側面も備えているというわけね」


 と、三味線を見て笑顔でそんな風に言うアドリアーナ姫とステファニアである。


「おお。ドロレス様から話には聞いておりましたが、これがフロートポッドですな。沖合からではありますが、飛んでいる所が見えておりました」


 その一方で船長がフォレスタニア境界公家やヴェルドガル王家の紋章が刻まれたフロートポッドを見やって言った。


「ええ。奇しくもヒタカで迎えに行った時と同じく、空からになりましたね」

「何でも奥様方の為にお作りになったと聞き及んでおります。改めて此度は誠におめでとうございます」


 俺が言うと船長はそんな風に祝福の言葉を口にして人の良い笑みを見せてくれて。俺も「ありがとうございます」と応じる。映像越しにお祝いの言葉は貰っているけれど、ポッドから祝福に繋げるための話題振りでもあったのだろう。というか、フロートポッドに関する共通認識がそういう内容という事で俺の周りで進んでいる気がするな。まあ……実際にそうだし、グレイス達もにこにことしてくれているのでよしとしよう。

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