表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1643/2811

番外872 教本と講師達

「なるほど。テオドールが効率の良い修業法だと思う内容を記しているのね」

「ん。失敗の分析は大事」


 そんなわけでみんなに本を読んでもらう事になったが……内容に目を通したクラウディアがそう言うとシーラも頷く。シーラは盗賊ギルドで色々な罠の仕掛けの見本を解除するという事をしたらしいからな。


「本当は何故失敗したかにも、自分で分析して気付けると良いんだけどね。客観的に見て指導してくれる人物がいるならそれでもいいけど」

「失敗もしておいた方が、実地で身に着けられるし原理を体感できて応用が利く、という事ね」


 イルムヒルトが納得したように言う。

 景久の記憶が戻る前に教本を読んでこっそりと我流で魔法を覚えたりもしたが……最初は上手く魔法発動に至らなかったりという事もあった。まあ、あれはあれで魔法発動までどうやって持っていくのかを学ぶ機会になって、良い経験だったとも思う。


 制御に失敗して被害が出ないような魔法であれば、失敗を一度自分で体験しておくというのも悪くないと、そんな風に本の中でも記述してはいるが。


「というか、失敗と対策について色々記述してあるのは実践的でいいわね。わたくしも魔法を覚えたての頃に、身に覚えのある内容があるわ」


 ローズマリーは記述に目を通すとそんな風に言って同意してくれた。


「属性ごとの体内魔力――感覚的なところの解説も面白いですね。私が魔法を使う時の感覚と挿絵の解説部分が共通するところがあります」

「この辺は、どの属性でも使えるテオドール様ならではでしょうか」


 アシュレイとエレナが言うと、マルレーンもにこにことした笑みを浮かべて頷く。

 魔法を行使するにあたり、使いやすい方法と合うものがあれば早い段階で魔力資質の向き不向きを自覚できるとは思うし、それを期待して挿絵での解説をしたのだ。

 本を読んだ者が魔法を覚える為の第一歩として参考にして貰えれば、俺としては幸いである。


「私には魔法は使えませんが……お話を聞いている限りでは本の内容はかなり良さそうですね」

「そうね。実践的で良いと思うわ」


 グレイスが言うとステファニアが頷く。


「まあ、内容としては基礎の基礎と、魔力操作を身に着けた後の鍛練法だけれどね」


 各属性の魔法を最小単位まで分解したと言うか。紹介している術も生活魔法のように役に立つ現象を起こせるものまでは記していないから、学舎の授業とも競合しない。


 魔力資質の違いもあって、発動までの感覚的な所は上手くいくまで反復練習して自分で慣れていくしかなかったからな。循環錬気があったからこそ、こういった内容に触れられるし学ぶ側の視点に立った入門編を書けたが……それとは別に指導する側の視点に立った指導用の本というのも良いかも知れない。どの程度の事が出来れば制御の難しい魔法に挑戦しても大丈夫なのかという目安が作れれば指導もしやすいかも知れない。


 となると、教本についてはペレスフォード学舎の講師陣にも意見を求めた方がいいかも知れないな。


 そんな考えを説明するとみんなもそれは良いのではないかと同意してくれた。


「何か、他に付け加えた方がいい内容や問題があったら、教えてくれると助かる」


 というと、みんなも改めて思案する様子を見せて、色々と意見を出してくれたのであった。




 そんなわけで、魔法の基礎教本に関してはみんなからも中々に好評だった。メルヴィン王やジョサイア王子、それにペレスフォード学舎の魔術講師陣にも見てもらって忌憚のない意見を聞いてみたが、体内魔力の動きについては魔力資質の異なる者の感覚が解説してあるので非常に参考になる、との事だ。


「僕としては本の内容が皆さんのお仕事と競合してしまわないかを心配していたりします。指導用に参考になる本というのも考えていますが。場合によっては教本の内容を分割する事も考えています」


 そもそも俺自身や領地内での後進を育成する事を想定した内容だしな。書物として世間に流布させるなら内容を調整する事に問題はない。


「それは――有難いお話です。我々の仕事まで慮って下さるとは」

「ふむ。術として確立された詠唱を乗せた本、というわけではないのね」


 ロゼッタが思案しながら言う。


「そうですね。自己判断で術を鍛練となると火魔法等は危険ですし、眠りの雲等も悪用できてしまいますから。やはり魔法を学ぶのなら近くで客観的に人柄や実力を見て、監督してくれる指導者は必要だし重要だと思っていますよ」


 俺が後進育成する時も、本を読ませて終わりとは考えていないしな。


「なるほど。だが魔法習得のとっかかりを、という事なら非常に有益な情報がまとめられているね。世間に流通させる内容と学ぶ側と指導する側で分けるというのも良い案だと思う」

「ふむ。確かにな」


 ジョサイア王子が頷くと、メルヴィン王も同意するように静かに頷いた。メルヴィン王は引退してジョサイア王子に王位を継承する時期の目星を付けた事もあり、そうした方針等はジョサイア王子の考え方等を尊重しているように見えるな。

 講師陣も納得したように頷いて、それから一人が口を開いた。


「この本を使ってテオドール公の薫陶を受けられるというのは羨ましいものですな」

「いやはや、全くです」


 講師陣はそんな調子で和やかな様子だ。とりあえず事前に話を通したからか、教本に反感も買う事もなく、好意的に受け止めて貰えたようだ。

 世間に流布させるバージョンの本については講師陣と話し合いつつ、みんな納得のいく内容になったところで進めていけば良いだろう。


 先程講師陣は具体的な術式についてはあまり載せていないといったが、術式として確立された詠唱を普通に記した魔道書も迷宮核で作製するつもりでいる。中級魔法あたりから切り札に成り得る上級魔法まで含めて。

 こちらの用途は教育というよりも緊急事態の対処用だな。使いこなせる者が、必要になった時に身に付ければ良い。これに関しては完全に禁書という扱いで、製本そのものもしないという方向である。




 そんなわけでメルヴィン王やジョサイア王子、ペレスフォード学舎の講師陣に話を通したという事もあり、教本については少し手を加えてそのまま一般への流通を進める、という事で話が纏まった。

 俺としても日常の仕事をこなしつつ、教本を編集したり、その他の本――技術関連の書物であるとかより高度な魔術書も迷宮核で仕上げていく事となった。


 技術書、といってもその内容は多岐に渡る。例えば疑似的な五感再現の術式とそれに連動した五感リンク等は義眼や義足等に使える技術だ。


 表面の質感もジオグランタのスレイブユニットに使った技術やカーラの知識等で自然な人肌感の再現にも成功している。工房でも各種パーツの試作品が既に出来上がってきていて、後は安全性を確かめれば使ってもらえるだろうという段階だ。


 これについては後進に伝えるために理論と実際の技術を纏めたり解説したりと、割と詳細な内容を書き残しておく必要があるだろう。


 他にも闘気の使い方。知る限りの武技を纏めた武術書。魔法建築の方法とその術式。境界劇場や幻影劇場で使われている技術等々……。後進と後継の育成を主目的として迷宮核で様々な分野の本を作りつつ、日々をみんなと共にゆっくり過ごしていく。


 ヒタカから帰途についたヘリアンサス号の航行も順調で――中継地点を経由しつつ、タームウィルズへと近々帰ってくる予定である。


 季節は――もうすっかり夏だ。ヘリアンサス号の船員達が喜んでくれるように、タームウィルズに到着したらお祝いしたいところであるな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ