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番外870 先々に備えて

 年長組が全員懐妊という事でサンドラ院長やイザベラ達に続いて、それから暫くの間、あちこちからお祝いの言葉が届き、国内外から訪問もしてきてくれたり、という事が続いた。


「力になりたいし、頼まれればいくらでもそうしたいところではあるが……テオドール達の身の回りを見ると層が厚すぎるな」


 と、そんな風に言ってエルドレーネ女王が苦笑し、イグナード王も目を閉じて頷いていた。

 確かに、迷宮村の住民もそうだし、セシリアやミハエラもいるからな。先日のサンドラ院長達もそうした気持ちは実際有難い。総じて、子供が生まれたら顔を見に来たいという事なのでこちらとしても是非、と笑って応じるとみんな嬉しそうな反応を見せてくれた。


 さてさて。状況も一段落したので、出産や育児に関する話題も割と積極的になされるようになった気がする。年長組全員がそうなので気兼ねなく話題も出しやすくなった、という事もあるのだろう。


 そんな中で寝室に隣接するように子供部屋を作る、という話になった。

 大人と赤ん坊が一緒の寝床で眠ると思わぬ事故に繋がる、というのはルーンガルドでも認識されている。寝返りを打って下敷きになったりベッドから転落したり。なのでベビーベッドを置いて、寝室からでも映像を見られるようにして……と、色々整備を進める予定だ。


 という訳で子供部屋の模型を作って居間の机の上に置くと、みんなも興味深そうに覗き込んでくる。


「この辺に寝床を置いて、乳児にとって危険になるものは置かないようにして……。一緒に過ごせるスペースも作ってと……配置していくとこんな感じかな?」


 まずはベビーベッドを置き、次に壁に沿って長めのソファを置いて、温度と湿度は空調の魔道具で調整。

 水晶板モニターで全員の姿が見られるように魔法生物を配置しつつ、生命反応を見られるようにしておく、と。ベビーベッド自体に生命反応の変化を感知して万一の時に警報を鳴らすシステムを組み込んでも良いかも知れないな。


「この吊るされているものは何でしょうか?」


 と、模型を見てエレナが首を傾げる。


「これはベッドメリーって言って、俺の前世の世界にあったものだね。これが回転して音楽を流したりする事で、赤ちゃんをあやす事ができる。興味をそっちに集中させたり、泣き止ませたり寝かしつけに役だったり……それに視覚や聴覚を刺激するからその発達に役立つっていう話も聞いた事があるかな」


 模型ではあるが簡単に木魔法で実物大の物を作り、ゴーレム化する事で実際に回転させてオルゴールの音を響かせると、俺の世界にあるものだからという触れ込みもあってか、みんなも興味深そうにそれを見やる。カラフルなボールやマスコットやらが紐に繋がって、回転すると空を飛ぶようにぐるぐる回る。生まれたばかりの赤ん坊はあまり視力が良くないので鮮やかな色合いになっているとか聞いた事があるな。


 マスコットにデフォルメした動物組を混ぜたりしているので、それに気付いたみんなは笑顔になっていた。

 一般家庭用の品ではあるためみんなが協力して育児をし、使用人や乳母役もいるという今の環境ではあまり必要ないものなのかも知れない。だがまあ、ベビーベッドには定番という気もするしな。


「ん。面白い」

「他にはどんなものがあるのかしら?」

「んー。そうだなあ」


 というわけで色々思い当たるベビー用品の模型を作って用途等を説明していく。組布団、哺乳瓶、紙おむつにジャンプスーツといった必需品から所謂ガラガラのような玩具まで。


「まあ……俺も子育ての経験があるわけじゃないから、そこまで詳しいわけじゃないんだけれど」

「ふふ。一緒に頑張りましょう」


 俺の言葉にステファニアが微笑むとみんなもにこにこしながら頷く。


「そうだね。楽しみだな」


 上手く子育てを進められるのかという不安もあるが……みんなも一緒だと思うと心強いし、楽しみに思っているというのが本音だ。

 まあ……気負い過ぎて息苦しいのは親にも子にも良くないとは思うので、気を付けるべき重要な部分は気を付け、肩の力を抜けるところは抜くといった感じで進められたら理想ではあるのだが。


「私達に関してはもう少し先の事になるとは思いますが……確かに楽しみですね」


 アシュレイはマルレーンやエレナと顔を見合わせ、同意するように微笑み合う。クラウディアもそんなアシュレイ達を見て表情を綻ばせた。

 年少組については、後2年か3年か。少し待つ必要があるとは思うが、楽しみにしてくれているというのは、今の雰囲気が良ければこそ、という所だな。将来でもみんなが不安に思わないように頑張っていきたいところだ。




 さて。子供部屋やそこで準備される用品については、同じく新婚であるアルバートやオフィーリア、エリオットやカミラといった面々も興味があるという事で、工房のみんなにも見せたところ、実際に作ってみようという話になった。

 試作品がそのまま子育ての準備になったりというのは開発者としての役得かも知れない。まあ、実際役に立つなら迷宮商会で扱う商品にもなるので一石二鳥だ。


「乳児や幼児の玩具ですか……おお」


 と、ベシュメルクから祝福の言葉をかけに来てくれたクェンティンが工房にも見学に来て目を丸くする。コートニーもまた、デイヴィッド王子がまだ小さいという事もあって興味津々といった様子だ。


「これは……馬車の玩具ですか。何だか不思議な材質ですね」


 と、小型のデフォルメされた馬車を手に取り笑顔になるコートニーである。


「木魔法の応用で作り出した樹脂を薄く伸ばして固め、着色したものですね。舐めたりしても安全性が高く、指を挟んだり目を傷つけたりする危険がないようにと考えて作ったものになります」


 要するに合成樹脂に近い性質を持った素材の玩具だな。対象年齢としてはデイヴィッド王子がもう少し大きくなったらぐらいだろうか。手で動かして遊ぶ自動車型玩具の馬車バージョンといったところだ。


「水鳥を模したおまる……良い意匠ですな」

「浄化魔法を組み込んで後始末も楽に、という感じですね」


 クェンティンが表情を綻ばせる。俺としては割と定番のデザインではあるが。

 これに関してはトイレトレーニングにもなるか。まあ、そう言った実用品から他愛のない玩具に至るまで色々だ。樹脂系の玩具は魔道具という扱いではなく、俺一人で形成できてしまうという事もあって、フォレスタニアの城では子供部屋に隣接してバルーンハウスやボールプールなんてものまで計画を立てていたりする。


 というか、試作品が出来て安全性の確保もできたら、その辺の施設型玩具は迷宮村の面々や孤児院にも寄贈したいところではあるな。

 模型を見せてそういった考えを説明すると「良い案です」と、グレイスも同意してくれる。


「確かに、これは思い切り遊んでも、怪我の心配が無さそうで良いですわね」


 オフィーリアがバルーンハウスとボールプールの模型を見て微笑む。


「この辺の品は必需品というわけではありませんが、僕が単身で簡単に作れますので、興味があれば用意しますよ」

「そうですな。デイヴィッドがもう少し大きくなったらお願いしましょうか」


 俺の言葉にそう答えて頷き合うクェンティンとコートニーである。バルーンハウスについては――床や壁を多層型にすれば一部表面側が破れても全体としては壊れたりしないだろう。空気を入れる工程だけを魔道具化してやれば問題はあるまい。


「ん。寧ろ一度は入ってみたい。面白そう」


 と、シーラが言うとステファニアやイルムヒルトも笑って頷く。まあ、そうだな。ルーンガルド側にはなかったものであるし、子供用というには斬新と感じる所もあるだろう。

 そんな調子で、あれこれと開発予定の試作品、模型やら仕様書やらを見て俺達は盛り上がるのであった。

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