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番外869 西区の人々の祝福

「来た……!」


 シーラが光る水晶球を掲げてそう言ったのは、イルムヒルトが水晶球を光らせた日から数えて8日目の事だろうか。いつもの様に朝起きて確認するという場面での出来事であった。

 耳と尻尾を反応させ、空いた手はガッツポーズという。そんなシーラの仕草に笑みが漏れてしまう。みんなも笑顔で歓声を上げ、居間に拍手が響いた。

 そういう当人の反応やみんなの反応は――何時見ても良い物だ。


「良かった……! 俺も嬉しいよ」


 何というか、年長組ではシーラが最後になってしまったからな。シーラはいつも通りマイペースであったが、内心でやきもきさせてしまったところもあるのではないかと思う。

 だから嬉しいのもあるが、あまり長引かせる事がなくて良かったとも思う。一先ず年長組はこれで全員なので、子供に関しては今の時点では一段落ではあるかな。


「ん。テオドール」


 俺の言葉にシーラが頷いてこっちに向き直る。それからシーラと抱擁し合うと「んー」と言いつつ、頬に口付けをされてしまった。少しおどけているようなシーラの仕草ではあるが、耳と尻尾を見ると喜びの感情が目に見えるので、シーラなりの照れ隠し、という事かも知れない。


「おめでとうシーラちゃん……!」

「おめでとうございます!」


 シーラと離れたところで、みんなからも祝福の言葉が次々かかった。シーラはそのままイルムヒルトやステファニアとハイタッチしたり、マルレーンと抱擁しあったりして。みんな和気藹々といった様子だ。


「これで年長組は全員ね」

「けど、今後の事は話し合っておく必要があるかしらね」


 ローズマリーが羽扇で口元を隠しながら言うとステファニアが応じるように頷く。


「今後の事って?」


 と尋ねると、ステファニアは「あ」と声を上げ、頬を赤らめつつ苦笑する。


「その……教本の記述によると、夫婦仲を円満に保つには、こういう時こそ夫は疎かにしないように、という記述があるのよね」

「テオドールなら、それで察してくれるとは思うけれど」

「あー……」


 ステファニアがやや言葉を選びながら言って、ローズマリーが咳払いをしつつ明後日の方向を見ながら説明してくれたが……うん。まあ、大体察した。

 結婚後のあれこれに際してはみんなも資料を元に勉強しているし、世継ぎに絡む事となれば夫婦仲は重要な事だからな。それも一応は貴族教育の範疇という扱いであったりするのだ。王族は特に、だろうか。だから貴族用の教本のようなものもあるのだし。


「まあ……うん。その話し合いには俺は席を外しておいた方がいいかな」


 と、言うとみんなも苦笑を浮かべたり頬を赤らめたりしつつも頷いていた。

 その後の話し合いの内容について俺は席を外していたので把握していないが……みんなとしては教本を参考に今後に関しても諸々安心できる内容が取りまとめられたとの事である。




「おめでとうございます……!」


 と、祝福の為にフォレスタニアを訪問してきてくれたのは孤児院のサンドラ院長とペネロープ、それに孤児院の子供達だ。

 サンドラ院長達に関してはイルムヒルトの時も祝いに来てくれたので、割と短期間に二度目の訪問という事になるが、そういう事もあるかもと予想していたらしく、通信機には『慶事が続いておめでたい事です。何時でも祝福にいけるよう予定を少なめにしておいたので、子供達と訪問できるかと思います』という返答があった。


 そうして早速孤児院の面々とペネロープが訪問してきてくれた、というわけだ。マルレーンとペネロープがにこにことしながら抱擁し合い、サンドラ院長をシーラとイルムヒルトが笑顔で迎える。そうしてサロンに通して、そこで寛ぎながら話をする。


「色々と知識のある方々が既に身近にいらっしゃるかと思いますが、出産や子育てについては私達もそこそこの知識があると自負しております。何かあれば何時でもお声かけ下さい」


 サンドラ院長が柔和な笑みを浮かべてそんな風に言ってくれた。


「ありがとうございます。心強いです」


 孤児院では生まれて間もない捨て子を育てたという経験も珍しくないとの事だ。西区に居を構えているのも、そうした子供をいち早く保護できるから、という理由があるらしい。ともあれ子育ての実績であるとか、年齢別の子供の悩み事。沢山の子供が一緒にいると起こるトラブルやその対処法等々……色々と実地に伴った知識があるのだろう。是非色々話を聞かせて貰えたらな、というところだ。


 と、そこに更に訪問客がやってくる。先代盗賊ギルド長の一人娘であるドロシーと、その後ろ盾であるイザベラだ。ドロシーを通してイザベラも懐妊を祝ってくれたが、ドロシーが俺達の所に祝福の挨拶に行きたいという事なので、折角だから盗賊ギルドのイザベラとしてではなく、シーラの知り合いであるイザベラ個人として来てはどうかと、こちらから提案したわけである。


「おめでとうございます!」

「この度は喜ばしい事です」


 ドロシーは嬉しそうに。イザベラは丁寧に挨拶してくる。


「ありがとうございます」


 俺達もそう返答してイザベラ達を迎える。


「ん。久しぶり」

「ふふ。シーラが落ち着いているのを見ると私としても安心さね」


 シーラとも言葉を交わすイザベラである。


「おや、貴女は――」

「その節はお世話になりました」


 イザベラを見てサンドラ院長が少し驚いたように言うと、イザベラは静かに頷いて応じる。


「お知り合いなのですか?」

「前に怪我をしていた子供を孤児院に連れて来て下さった事があるのです」


 ペネロープが首を傾げると、サンドラ院長は微笑んだ。どうやらイザベラの出自については知らないようだ。


「まあ、あの時は緊急性が高かったですからねぇ。普段なら他に伝手がないわけでもないのですが……月神殿の巫女がいれば何とかなると思った次第で」


 イザベラは苦笑する。イザベラ本人が連れて行ったという事は……それが最善手だったという事なのだろう。イザベラは堅気の人々とは一線を引いているし、孤児院に子供を保護してもらうにしても、緊急性が低ければ配下の面々に任せたりするだろうからな。

 ともあれ、イザベラは身よりのない子供達に対しては親切なところが垣間見えるので俺としても安心だ。シーラもイザベラの行動を聞いてうんうんと頷いたりしていた。


 イシュトルム襲撃の被害からも国内が立ち直ってきて、以前の騒動で盗賊ギルドが正常化したという事もあり……西区は色々と状況が良くなってきている、というのはメルヴィン王とジョサイア王子からの情報だ。

 ジョサイア王子によれば盗賊ギルドの必要性、重要性も承知しているとの事だ。裏方として支えて貰った事も感謝しているので、一線は引くものの義理は果たしつつ、政治側で出来る事で西区の状況がより良い方向になるように改善していく、との事だ。孤児院に関しても助成金が予算として組まれる事が決定している。


 そうしたメルヴィン王やジョサイア王子の西区への意向についての話を、イザベラの出自が分からないようオブラートに包みつつ話をする。


「――というわけで、西区については今後も諸々良くなっていくのではないかと」

「ああ、それは素晴らしいと言いますか、有難いお話です」

「王太子殿下も思慮深く優しいお方ですね」


 ペネロープとサンドラ院長は揃って安堵したように笑みを見せる。ドロシーとイザベラもそうした情報は喜ばしいのか、穏やかな表情を見せたり静かに頷いたりしていた。メルヴィン王の現状の方針もそうだし、ジョサイア王子が後継ぎというのは色々安心だな。

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