番外863 フォレスタニアでお茶会を
「これはテオドール公。ご無沙汰しております」
「こんにちは、エギール卿。フォルカ卿とグスタフ卿もお久しぶりです」
「お久しぶりです、境界公」
工房の仕事を終えて、アルバート達と転移港へと移動する。そこで挨拶してきたのは、シルヴァトリアの魔法騎士エギールだ。
同じく魔法騎士であるフォルカとグスタフもいて、ステファニアと一緒にやってきたアドリアーナ姫にも丁寧に挨拶をしていた。
エギール、フォルカ、グスタフの3人はエリオットが魔法騎士を目指して養成施設に入っていた時のルームメイトであり、それ以来の友人であるという。
先んじてエギール達がやってきたのは、タームウィルズやフォレスタニアでエリオット達と顔を合わす予定だからだ。転移港があって顔合わせがしやすいから合流場所に選んだというわけだな。
エギール達と挨拶をしていると、転移門を通ってエリオットとカミラがやってくる。
「エリオット兄様、カミラ義姉様、おめでとうございます!」
「お久しぶりです。エリオット伯爵。この度はおめでとうございます」
「ああ。アシュレイ。テオドール公や奥方様達もお元気そうで何よりです。祝福のお言葉、嬉しく思います」
「ありがとうございます」
エリオットとカミラはアシュレイと俺達に挨拶し、それからエギール達とも言葉を交わす。
「やあ、エギール。フォルカとグスタフも」
「ああ、エリオット。カミラさんも、この度はおめでとう」
エリオットはエギール達と笑顔を向けあった。二人への祝福の言葉は――グレイスがそうであるように、カミラも懐妊したと連絡が入ったからだ。
「それでは――フォレスタニアに移動するわ」
クラウディアが言って転移魔法を展開。みんなでフォレスタニア城の中庭に飛ぶ。
「おお。戻ったか」
「これはテオドール公」
と、メルヴィン王とジョサイア王子、それからジョサイア王子の婚約者であるフラヴィアも同行している。
メルヴィン王とジョサイア王子はエリオットとカミラに祝福の言葉を伝えに来たわけだ。俺達も……ヒタカから帰った後にメルヴィン王が訪ねて来て、祝福の言葉を受け取っている。領主の家の事だけに、メルヴィン王としても俺やエリオットに直接言葉を伝えに来るのは大事だと思っているのだろう。
「テオドール達には……色々苦労をさせてしまったからな。平穏な家庭を築いていってくれると、余も我が事のように嬉しい」
と、そんな風にメルヴィン王は穏やかな笑みを浮かべていた。
メルヴィン王はエリオットとカミラにも「ザディアスの一件で苦労した分、幸せな家庭を築いていく事を願っている」と言葉をかけ……二人も穏やかな笑顔で応じる。
さて。そうして顔合わせが終わったところで迎賓館に移動する。
「おめでとうございます、カミラ様」
「ありがとうございます。こうして沢山の人に祝福の言葉を貰えると言うのは……嬉しいですね」
と、女性陣から祝福を受けてカミラも笑顔で応じる。
それを横目に眺めつつアルバートが言う。
「丁度フロートポッドも試作品が出来上がったからね。カミラさんの分やみんなの分も順次用意していきたい所だね」
「そうだね。カミラさんには早めに渡したい所だ」
「それは……助かります」
アルバートの言葉に頷くと、エリオットも穏やかに笑う。
転移魔法でフロートポッドをフォレスタニアまで運んできている。
「テオもああ仰っていますし、試乗してみてはどうでしょうか?」
「良いのですか?」
「大丈夫ですよ」
「ん。私達も乗ってみた」
グレイス達は早速カミラにも乗ってみてはどうかと勧めていた。
「それでは……お言葉に甘えて」
カミラはフロートポッドに乗り込み……その乗り心地に驚いているようだった。「水に浮かんでいるようです」という評価は工房でテストした時もみんなが言っていたものだな。
少しの間中庭を行ったり来たりして、乗りやすく操縦しやすいとカミラは笑顔になっていた。操作性や取り回しの良さはそれなりに調整を重ねたからな。
すぐにコツを掴んでいるのは、カミラが元々剣の腕に優れているだけあって運動神経が良いからだろうけれど。
「これは――便利そうですわね」
「フラヴィア様も如何でしょうか」
「ありがとうございます。では、失礼して」
と、オフィーリアが言い、ステファニアが勧めるとフラヴィアもフロートポッドに乗って、その乗り心地に驚きの表情を見せる。そうしてフロートポッドを動かし、やがて笑顔を浮かべていた。どうやら気に入って貰えたようだ。その様子にエリオットやジョサイア王子も笑みを見せる。
既に結婚しているオフィーリアもそうだし、ジョサイア王子と婚約しているフラヴィアにとってもフロートポッドは気になる乗り物という事だろう。
さてさて。こうして集まった目的は――祝福の言葉を伝えたりフロートポッドを試乗したりといった事だけではない。
オフィーリアやフラヴィアもそうだが、新婚であったりこれから結婚したりという面々が身の周りに多いから、互いに相談できるような環境を整えてあれば、安心だし心強いという事で、何か集まりを作りたいという話になっているのだ。
役立つ知識は勿論、役に立たない内容でもいい。
社交界よりも総じて自由で気軽に。肩の力を抜ける場所で話をしたり、茶を飲んだり料理や菓子を作ったり……武術の腕を磨きたいという者もいるか。まあ、色々な趣味や遊戯を楽しめる集まりや場所があれば良さそう、との事で。
相談できる者が身近にいたりというのは確かに心強いものだし、趣味に時間を使ったり同好の士と話をしたりというのは楽しいものだろう。特にカミラもそうだが、武術等は普通の社交界では対応している話題ではないし。
「俺としては、この迎賓館を使ってもらって構わないって思っているよ。幻影劇に新しく童話の詰め合わせも組み込みたいって思っているから、先行して内容を見てもらって感想を聞いたりとか、そういった事もできたら嬉しい」
「それは……楽しそうですね」
俺の言葉にエレナが表情を綻ばせ、みんなも頷いていた。
「ではフォレスタニアの迎賓館に集まる曜日や日付を決めて、というのはどうかしら」
「良いですね。予定も立てやすいですし」
そう言った具体的な内容も話し合って決めていく。女性陣は和気藹々とアイデアを出し合って、楽しそうな様子だ。そんな女性陣の様子を見て、エギールがしみじみと頷く。
「何というか……俺も早い所結婚に漕ぎ付けたくなるな」
「エギールなら割とすぐなんじゃないか? 例の子爵家の令嬢と……前に見た時は良い雰囲気に見えたが」
エリオットが言うと、フォルカとグスタフも頷く。
「いや……。あいつの方が俺の事を弟のようにしか思ってくれてないっていうか……。そういう関係も何とかしたいとは思っているんだが」
「そうなのか……? エギールが押せば何とかなりそうな雰囲気にも見えたが」
「そう見えるか? うーん」
とフォルカが言うと、エギールは腕組みして目を閉じ、考え込んでいる様子だった。エギールは顔を上げてフォルカに視線を向ける。
「そういうフォルカの方はどうなんだ?」
「俺はもう少し一人でもいいと思ってるけどな。グスタフは?」
「ああ。俺の方は縁談が来てな。今度先方の家に挨拶に行く予定だ」
「へえ……!」
エギール達はエギール達で何やら色々ドラマがありそうだが。そうした恋愛事情や縁談が上手く纏まればいいのだが。
そんな話をしつつも、エリオットはカミラの所に行き、楽しそうに何か話しかけながらカミラのティーカップにお茶を注いだりと柔らかな雰囲気で会話を交わしていた。エリオットとカミラは……相変わらず仲が良さそうで何よりだな。