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番外859 船員達との再会

 港に停泊し、下船の準備をしているヘリアンサス号に向けて雲が高度を下げていくと、船員達もそれに気付いたらしい。

 こちらに視線を向けて来たので俺も笑顔で手を振ると、最初は驚きの表情を見せたが、すぐに笑顔を返して一礼すると船長や仲間達に知らせに走っていた。


 雲も更に高度を下げて船着き場の空いているスペースに降りていく。

 湾口で働いている者達は異国の船であるヘリアンサス号であるとか、俺達の乗っている雲が降りてきたから作業の手を止め、あちらとこちらを何度も見て驚いている様子であった。


「心配はいらない。どちらもヴェルドガル王国からのお客人だ」


 タダクニが笑って声をかけると、手を止めていた面々は少し呆けたような表情をしながらも、俺達を見て感動したような面持ちになっていた。


「ヴェルドガル王国の客人で通じるぐらいにはヒタカノクニでも知名度があるという事でしょうか」

「アヤツジ兄妹は都付近では特に悪名が高かったですからね。テオドール様達はそれだけでなく妖怪達との仲も取り持って下さいましたし、ホウ国の混乱を収めて友好関係を築いてくれました。その事や同盟各国の事はきちんと周知しておりますよ」


 アカネがそんな風に教えてくれると、その肩に乗った鎌鼬もこくこくと頷く。なるほど。ヒタカでも相互理解が深まっているというのは良い話だ。


 そんな話をしながら雲から降りてヘリアンサス号の船員達と顔を合わせる。


「おお、これは……ヨウキ陛下や境界公に到着を迎えて頂けるとは光栄です」


 ヘリアンサス号の船長がそう言って一礼する。


「遠路はるばるの航海を経てのヒタカへの到着を嬉しく思う。船員達も元気そうで真に喜ばしい事だ」

「そうですね。平穏な航海であったようで、航路を設定した僕達としても嬉しく思っています」

「航路や健康管理がしっかりしていて、船に積まれた魔道具が優秀であったからという部分が大きいです。境界公が道筋を示して下さったお陰ですな」


 ヨウキ帝と俺の言葉に船長は笑みを浮かべ、船員達も頷いていた。


「我々が待っていた海域にぴったりと航路開拓船が現れましたからな。航路が非常に正確だったというのは伺えます」


 と、ヨウキ帝の手配してくれた護衛船の船長達が感心した様子で言う。


「うむ。そなた達も護衛の役回り、ご苦労だった。外洋は魔力溜まりを避けているから安全度が高かったが、ヒタカ近海では妖怪が現れる事があるからな」

「勿体ないお言葉です」


 ヨウキ帝の言葉に護衛船の船長達が応じる。


「ヒタカ近海に現れる可能性のある妖怪、でしたか。種類と対処法は教えて頂きましたが……それだけに沖合で迎えて貰えたのは心強かったですぞ」


 ヘリアンサス号の船長が言うと、底の抜けた柄杓を手にした船員達が頷いたりしていた。うん……。あれは船幽霊対策だな。妖怪は西の魔物とは少し性質が違って、ルールを守ったり対策を行えば何とかなったりするものも多い。だから、事前にそうした知識を持っておくのは重要というわけだ。


「ともあれ、これでようやく道半ばではありますが」


 副船長がしみじみと言う。今後の貿易に繋げる為の航路開拓でもあるから、ヒタカからヴェルドガルに帰る過程も重要というか。


「ふふ。けれど今は到着を祝うところですね。滞在中はゆるりと疲れを癒して行ってください」


 ユラが微笑むとヘリアンサス号の船員達も笑顔で応じていた。

 そうして挨拶も終わったところでヘリアンサス号が西方から持ってきた荷が降ろされ、それらが次々と荷車に積まれていく。

 実用品に美術品。武器、防具に魔道具。植物の種やら。幅広い分野に渡って色々積んできているのだ。

 貿易が始まればこんな品々も入ってくるという見本のようなものだな。これらはヒタカやホウ国側からも用意されるので、ヘリアンサス号が西方に持ち帰ってくる事になるだろう。


「では、ヘリアンサス号の点検を行いたいと思います」


 と、ドロレスが船長を伴って船内に向かう。東国までの航行の影響等を見ていくわけだ。ヨウキ帝達や御前達、それから俺達もみんなで船に乗り込み、船内を見学したり、魔道具を点検しつつ、船体の傷み方等も調べていく。


 船の外装については問題なさそうだな。推進用の水流操作パネルも含めて魔力を通して調べてみたが、まだまだ新品同様だ。船体そのものは帰りも問題ないと伝えると船長達は「安心しました」と頷いていた。


「魔道具の魔石にはわたくし達で魔力を補給しておいたわ」

「分かった。こっちもそろそろ終わるよ」


 甲板に出てきて教えてくれたローズマリーに答える。同行してきている面々も船内を見学したり、甲板から海や街並みを見たりしていたようだ。


 ヨウキ帝が船長と連れ立って船の中から談笑しながら出てきて……荷降ろしと点検の間を有意義に過ごしていたようである。


「西国の珍しい品か。あっちの食事や酒も美味いから、それに期待したいところだな」

「あの葡萄の酒は良いな」

「うむ。あれは美味であった」


 と、レイメイや御前、オリエも今後に期待してくれているようで。

 そんなわけで見学と共に荷下ろしと点検も終わり、今度は船長や船員達も含めて都に移動する。都から転移門で移動し、マヨイガに向かおうという事になっているのだ。船についてはヒタカの面々が見張り等、諸々引き受けてくれるとの事である。


「では、都までまた移動しようか」


 レイメイが言う。というわけで船員達も雲に乗り、荷車も積んでヒタカの都に移動する。

 全員が乗ったところで雲が浮遊すると船員達も驚きの声を上げていた。


「これは……楽しいですな。まさか、ヒタカに来て雲に乗って移動する事になるとは」

「ふっふ。これはレイメイ殿の力であって我らが普段こうしているわけではないが」


 と、ヨウキ帝は船長の反応に小さく笑って応じる。


「マヨイガというのはどんなところなんですか?」


 ネシャートが首を傾げる。


「家自体が付喪神と呼ばれる妖怪……というよりは、古物に宿る精霊に近いかも知れませんね。そうした物が宿った、意思持つ家と言いますか」

「意思を持つ家……すごそうだな」


 ダリルが驚きの表情で呟く。


「お客を持て成すのも好きなようですから、きっと暖かく歓迎してくれると思います」

「家妖精の私や、フローリアちゃんに似てる」

「私達に近い所もありそうですね」


 グレイスやセラフィナが楽しそうに言うとカーラも頷いていた。確かに、マヨイガについては家妖精やパペティア族とも近いところはあるな。

 マヨイガの本体が人前に姿を見せる場合は発光体となって現れるのだが、もっと意思疎通ができたら便利という事で、少し前に工房の仕事として、アルファやマクスウェル、ジオグランタと同じように活動用の器を作って渡している。


 家具等を操れるから極論人形でもそれで持て成しなどのマヨイガが必要としている活動をできてしまうのだが、まあそれ以上のコミュニケーションが取れるようにと、意思疎通をしやすいように発声機能を持たせたり、五感を再現したりした器を用意したというわけだな。


 ジオグランタの器のように、表情関係等も表現できるように器をアップデートしても良いだろう。顔を合わせたら意見を聞いてみるか。


「ふっふ。マヨイガだけでなく、皆もテオドール達の到着を待っておるぞ」


 と、御前がにやりと笑う。


「それは……楽しみですね」


 あの地方の妖怪達とは大分仲良くなったからな。ヴェルドガルに招待したり協力してもらったり、色々他の場所でも顔を合わせているが、マヨイガでも賑やかな事になりそうではあるな。

 そんな話をしながら俺達を乗せた雲は進んでいき、やがて遠くにヒタカの都が見えてくるのであった。

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