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番外858 雲と共に

 ネシャートにはダリルの同行も決定したので打診をしてみたが、二つ返事で一緒に行くと言う返答を貰えた。見聞を広めるという理由もきちんと目的として機能しているというのはあるだろうが。


「こんばんは、ダリル」

「ネシャート……! 君も一緒に?」

「ええ。皆様からお誘い頂きまして……。ヒタカを見に行く事が出来るのは楽しみです」


 ダリルに答えて微笑む。ダリルとネシャートは互いの呼び方が変わって……前より親密さが増している気がする。そんなダリルとネシャートのやり取りに、ハロルドとシンシアも笑顔になっていた。

 と、そこにドロレス、ボルケオールとカーラもやってきて、同行者が揃う。ドロレスはヘリアンサス号の設計から運用にまで関わっているし、魔界の二人もヒタカに向かうという事で色々と期待しているようだ。


「おお、お待たせしてしまったようですね」

「いえ。僕達も今伯爵領から戻ってきたところですよ」


 ドロレスとやり取りを交わし、向こうは時差で昼であるから外が明るくなるので注意して欲しい等と伝えつつ転移門からヒタカへと向かった。

 行先はヒタカの都だ。転移施設に到着するとヨウキ帝とユラ、アカネ、タダクニにイチエモンといった都の面々やレイメイ、御前、オリエといった主だった妖怪達が既にやって来ていて、顔を見せてくれた。


「よくぞ参られた境界公。奥方のご懐妊について、おめでとうと言わせて欲しい」

「おめでとうございます、皆さん」

「家族や一族が増えるってな、いいもんだ」


 ヨウキ帝が笑顔で言って、ユラやレイメイ達も口々に祝福の言葉をくれる。俺達もそれにお礼の言葉を返した。ヒタカの面々とドロレス、ダリルやネシャート、ボルケオールとカーラは前に集まった時面識があるが、ハロルドとシンシアは紹介が必要だ。

 母さんの家や墓所を普段からきっちり管理して守ってくれている事。いつも世話になっているので招待したかった事を伝えると、ヒタカの面々も笑顔になる。


「おお。それはまた。テオドール公がそう仰るのであれば、信頼できるご兄妹のようですな」

「拙者タツミ=イチエモンと申す者でござる。よろしくお頼み申す」

「は、はい……!」

「よろしくお願いします……!」


 タダクニ達の挨拶に、畏まって応じるハロルドとシンシアである。

 

「うむ。よろしく頼むぞ」


 と、御前も楽しそうに笑い、ユラやアカネと一緒に小蜘蛛達――ユズ、カリン、レンゲが「よろしく」と握手を求める。

 ハロルドとシンシアはユラや小蜘蛛達が同年代という事で安心したらしく、少し緊張もほぐれた様子であった。


「では、港町へ参るとしようか」


 と、挨拶と紹介も終わったところでヨウキ帝が言う。都から最も近い港町をヘリアンサス号が目指してくる予定なのだ。

 魔道具で確認してみれば、もうヒタカ近海までヘリアンサス号がやってきているのが分かる。俺達の港町への移動時間を合わせれば丁度良いぐらいだろう。


「みんなでの移動手段を用意したと仰っていましたが」

「ああ。妾と鬼でな」


 と、御前が笑う。そんなわけで転移施設から出た所で、御前とレイメイが術を使った。水の帯が拡散したかと思うと地上すれすれに雲を作り出し、レイメイが印を結ぶと……何やら雲が弾力のある乗り物に変わる。小蜘蛛達が雲の上に登って飛び跳ねたりしていたが、かなり丈夫なようだ。


「安心」


 と、ユズがこちらを見て言う。シーラも頷いて同様に雲の上に乗って感触を確かめていた。


「ん。良い感じ。雲だけど湿っていないし暖かい」


 それから小蜘蛛達とサムズアップを向けあうシーラである。ハロルドとシンシア、ダリルとネシャートは結構驚いているようだ。


「凄い……」

「蛇に手伝ってもらっちゃいるが……仙術だな。雲に乗る術がある」


 目を丸くしているシンシアにレイメイが笑う。筋斗雲的な術というか。ゲンライやレイメイには実に似合うな。


「とりあえず、雲の外周に糸を張るから落ちる事はないぞ」


 オリエが言う。ああ。それは確かに安心だ。というか御三家合作の即席乗り物というわけだな。

 そんなわけでみんなと共にレイメイ達が作ってくれた雲に乗る。ハロルドとシンシアはおっかなびっくりといった様子で雲に乗ったが、大丈夫な事が分かると顔を見合わせて笑顔になっていた。

 ダリルとネシャートはと言えば――ダリルが先に乗ってネシャートの手を取ってエスコートするような形だ。俺も先に雲に乗り、みんなの手を取って雲の上に登ってもらう。


「ありがとうございます。雲で移動というのは、面白いですね」

「そうだね。中々楽しい旅になりそうだ」


 手を取られたエレナの言葉に、こちらも笑って頷く。


「ああ。本当に雲がふわふわしていて暖かいですね」


 雲の上に腰を下ろしてグレイスが微笑みを浮かべる。

 そうして使い魔や魔法生物組、全員が雲に乗り込んだところで御前が手を掲げると、ゆっくりと雲が浮上し出す。


「わあ……」


 と、声が漏れた。ヒタカは昼。よく晴れた明るい陽射しで眼下に都の街並みが見える。みんなで景観が見やすいように縦長の雲であったりする。


「これは……凄いですね。全く文化の違う異国と繋がる為の船を造るお手伝いが出来たのだなと……感動しております」


 ドロレスが街並みを見て感動の声を漏らす。十分な高度になったところで雲が動き出した。

 ヒタカノクニは街並みもだが、街道の作り方や行き交う人々も西方の国々とは大分違う。景久の記憶がある俺にとっては……長閑で時代劇のような郷愁を感じる風景にも見えるが、みんなにとっては異国情緒のある光景なのだろう。


「あの、街道を走っている人物は?」

「飛脚ですな。手紙や荷物を駅――拠点から拠点まで届けたりするわけです」

「あの走り方は――長距離を素早く、且つ疲れにくいように走破する方法でござるな。忍びの技も源流にあるのでござる」


 ローズマリーの質問にタダクニが答える。眼下の街道を走る飛脚は――何というか特徴的な走り方をしているが、あれが飛脚走りという奴だろうか。日本のそれと同じかは分からないが、日本では失伝しているらしい。

 いや……ヒタカノクニの飛脚に関して言うなら、僅かに生命力を活性化させているようだな。闘気の使い方に似ているが、全身万遍なく薄く纏い、自身の持久力を強化しているわけか。そのせいか、長距離を走る割には結構な速度で移動している。


 忍びの技法に源流があるというのは……何となく理解できるところだ。

 飛脚ならあちこちを急いで移動しても不思議ではない。そもそも公的な立場らしいので忍者……隠密が身分を偽装して各地で諜報活動するのにもうってつけだ。そうして本職が忍びの技法を使っているところを見た同業者が模倣、という事も有り得る。


 といった調子で中々に興味深い物を見せてもらいながら雲は進んでいき――やがて街道の向こうに海と港町が見える。光魔法のレンズで拡大して沖と港付近を見回してやると……丁度ヘリアンサス号が港町に近付いてくるのが見えた。


 数隻のヒタカの船が先導するように移動しているが……あれはヨウキ帝が護衛兼誘導役として沖合の航路付近の海域に出港させていてくれたらしい。同盟の旗を掲げているので、ヘリアンサス号としても分かりやすかっただろう。この辺は流石というか、ヨウキ帝は卒がないな。


 さてさて。それではヘリアンサス号を迎えに行くとしよう。お互いの速度から言うと……向こうの方が僅かに早く到着しそうだが、こちらが雲で移動しているからか、まだこちらの事には気付いていないようだ。

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