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番外853 旅行中の領地は

 転移の光が薄れると……そこはタームウィルズの転移港であった。


「月は荒野が広がっていると聞いていたからどんな場所かと思ったが……街は意外に賑やかというか楽しかったな」


 と、しみじみとした雰囲気でスティーヴンが言うと、ユーフェミアも笑顔を見せる。


「色々案内してもらったものね。学び舎は楽しかったわ」

「そうですな。ああした学術と芸術の振興を推進する姿勢が今のシルヴァトリアにも受け継がれているように思います」

「素敵な光景を色々と見る事ができました。オーレリア陛下もお美しいですし、私としては最高の旅になりましたね」


 ユーフェミアの言葉にボルケオールやカーラもうんうんと頷く。


「あの子とも会えて……私としても嬉しかったです」

「それに……これからはもっと気軽に、話ができる」

「いい事ね」


 ティエーラとコルティエーラがそう言うと、ジオグランタは目を閉じて笑う。月の精霊との交流は始原の精霊達としても楽しいものという事だろう。


『ふふ。こうなるとルーンガルドの他の国にも足を運んでみたくなるな』


 と、水晶板越しにメギアストラ女王も上機嫌な様子だ。今日地上に帰るという事で、一足先に魔界へ戻ったメギアストラ女王とも通信を行っているが、彼女としても月の滞在は満足のいくものだったようで。


 俺達は新婚旅行という事で途中から同行者の面々が気を遣ってくれて別行動になっていたが、彼らも学び舎に足を運ぶ等、色々と案内を受けていたようである。

 俺達の案内の合間を縫ってオーレリア女王も来てくれたりと、結構手厚い歓迎をしてくれたそうだ。


「まあ……そうだな。ルーンガルドはエルナータも気に入ったようだ。また遊びに来る」

「その時は、一緒に遊んでね」


 アルディベラとエルナータがそう言って……。エルナータの言葉にマルレーンを始めとした年少組もこくんと頷く。


 そうして、みんなは転移港を通り、各々の国に帰って行った。ボルケオールとカーラは引き続き滞在するけれど。


「ルージェント、体調は大丈夫?」


 尋ねるとルージェントはこくんと頷いて好調だと振動していた。翻訳の魔道具で言葉が通じるから一通り感情表現のパターンを本人から教えてもらっているしな。意思疎通に関しては問題無い。

 そんなわけで通信機で戻って来た事をあちこち連絡を入れると、アルバート達もフォレスタニアに顔を出すと連絡をくれた。

 ルージェント用のレビテーションの魔道具も届けてくれるとの事だ。ルージェントも早めに落ち着けるようにしてやりたいところだからな。


「それじゃ、帰ろうか」


 新婚旅行明けであるし、ルージェント用の装備と設備をしっかりとしたら今日の所はゆっくりと休ませてもらおう。




「お帰りなさいませ、旦那様」


 と、フォレスタニア城に帰ってきたところでセシリア達が出迎えてくれた。

 色々と留守中の出来事――執務や領地の様子を報告してくれるが……まあフォレスタニアもタームウィルズも平和なものだ。


「エレナ様との結婚式の影響ですが、タームウィルズも含めて領民や冒険者達はお祭りの雰囲気が未だ冷めやらぬといったところですな。酒の席での揉め事程度の事件はありましたが、それを除けば平和なものです」

「結婚式の件で人が集まっていたという事もあり、お店や行商人もお祝い相場と呼称して割引等を続けているようですね。かなりの経済効果が出ているらしく、ミリアムさんもかき入れ時だと忙しそうにしながらも、とても嬉しそうでしたよ」


 ゲオルグとセシリアが今の状況を掻い摘んで教えてくれる。


「確かに街も明るい雰囲気だったね」


 居城に移動するまでもそういった雰囲気は感じ取れたし、喜ぶべき事なのだろう。迷宮商会も大分稼ぎ時のようで何よりだ。


 そうして旅行の手荷物を置いて、みんなも余所行きの服装から少しラフで過ごしやすい衣服に着替えて、迎賓館のサロンで寛ぎながらルージェントに関する作業も進めていると、アルバート達も姿を見せる。オフィーリアと工房の面々も一緒だ。


「おかえり、テオ君。みんな元気そうで何よりだ」

「ただいま。アル達も元気そうで良かった」


 と、アルバートと軽い笑顔で挨拶を交わす。サロンの座席に腰を落ち着けた所で、アルバートが視線を巡らせて微笑む。


「その子がシルバーリザードかい? 砂と石が月の一部を持って帰ってきた感じがして風情があるね」



 その視線の先には台座があって、台座の窪みに満たされた月の砂から顔だけ出して落ち着いているルージェントの姿があった。


「月面表層の砂と岩を貰ってきているからね」


 軽く魔法の照明でライトアップして昼期の月の環境を再現しているのでジオラマっぽく見える。台座に魔石も仕込んでレビテーションが働いている。更に砂や土を操作する紋様魔法を刻んであるので……窪みから宙に舞った砂埃等は内側に戻される仕様で覆い要らずといった所だ。

 アルバートが来るまでの手すさびにルージェントの意見を聞きつつ家を試作していたのだ。


 ルージェントによれば、普段は土の中に潜ってあまり動かないので、広さと深さはこのぐらいが丁度良い、との事だ。レビテーションがあり、土属性の魔力が貰えるなら問題ないとの事で。その点俺達と一緒だと質の良い魔力が貰えるので嬉しいとの事である。


「ふっふ。ルージェントさん用の魔道具も持ってきましたよ」


 と、ビオラが取り出したのはルージェントの身体のサイズに合わせたスカーフだ。結び目のところに小さな魔石をあしらった飾りが来るというデザインで魔石にはレビテーションの魔法が刻んである。

 サイズに関しては通信機と水晶板で伝えてあるので、後は実際に合わせるだけだ。


 というわけでルージェントの首回りにスカーフを巻いてみる。黒地に白い糸で刺繍がしてあって……銀の光沢をもつルージェントによく似合う色とデザインだと言えよう。刺繍の意匠は動物組の装備と同じで、フォレスタニア境界公家の庇護下にある事を示すものだ。


「これは……結構似合うわね」

「着心地はどうですか?」


 オフィーリアが表情を綻ばせて頷き、コマチが質問するとルージェントが振動して着心地を伝えてくる。緩過ぎたりもきつ過ぎたりもせず、丁度良いとの事だ。どうやら最初の印象は悪くないようだな。


「少しの間装着したまま過ごしてもらって、気になる点が出てきたら手直しするという事で良いかな?」

「その時は遠慮なく言ってね」


 俺の言葉を受けてビオラもルージェントに笑みを見せた。ルージェントはこくこくと頷いて喜びの反応を見せる。


「レビテーションの魔道具に関しては一先ずこれで良いかな」

「後は普段の寝床をもう少し改良しないとね」

「というと?」


 と、アルバートとルージェントの寝床についてのやり取りを交わす。


「光珊瑚やイソギンチャクの水槽と同じように、土属性の魔石を敷設して、誰でも簡単にルージェントに合った魔力を補充できるようにしておくわけだね」

「ああ。あの方式だね」


 アルバートは得心が行ったというような反応を見せた。


「それから……台座のこの辺に振動の種類を感知して色や記号を表示する事で、視覚的にルージェントの感情や返答を分かりやすいものにする、なんて事も考えた」

「それはまた、面白そうですね」


 エルハーム姫が表情を綻ばせるとルージェントもこくこくと頷いていた。ルージェントのそんな反応にみんなも和んでいるようで。


 そちらの手配も進めればルージェントも気軽にフォレスタニアで過ごせるようになるだろう。

 月から受け取ったものといえば、コーヒー豆についても苗木を貰ってきている。植木鉢に仕込んだ紋様魔法で育成に適した温度、湿度を維持している状態だ。植物園の受け入れ態勢ができ次第、植え付けに向かう事になるだろう。


「航路開拓船についても順調で、ヒタカへの到着の日が近付いていますね。旅行中に受け取っていた記録もお渡ししておきます」


 と、ドロレスがヘリアンサス号から中継された映像を収めた記録媒体をテーブルの上に置く。


「それじゃあ折角だし、みんなでそれも鑑賞しようか」


 そう提案するとみんなも笑顔で頷き、クレア達がお茶を運んできてくれるのであった。

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