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番外850 月の技術見学

 ――風呂から上がり、着替えて歯磨き等を済ませると、シーラとマルレーンは一緒になって寝台に飛び込むようにして、ごろごろと転がったりしていた。実際に「ごーろごろ」と口に出して言っていたりするのがシーラであるが。マルレーンはにこにこと楽しそうだ。


 この辺もオーレリア女王が俺達の訪問を想定していたという事もあって、寝台がかなり広いからな。そうしたくなる気持ちは分かるというか。実際ふかふかとした感触や肌触りが心地良く、少し触れただけで寝具も上等だというのが分かる。


 そうやって寝転んで遊んだり戯れたりしているところにイルムヒルトやステファニアも参加していって、グレイスやアシュレイも楽しそうに加わり、俺やクラウディアやローズマリーが巻き込まれてしまう、というのが大体のいつもの光景だが……今回はエレナも楽しそうに加わって、アシュレイやマルレーンにくすぐられたりくすぐり返したりしていた。


「ふふ、あははっ、くすぐったいです」

「ちょ、ちょっと待ってください、呼吸が……!」


 と、寝台の上で楽しそうにじゃれあうエレナとアシュレイ、マルレーンである。

 そうやってみんなが楽しそうにしてくれているのは……きっと彼女達を大切に思う人達も望んだ光景な気がするな。そんな彼女達の様子にみんなも表情を綻ばせたりして。


 そんな光景に和んでいると背後から楽しそうにイルムヒルトが俺に抱きついて来たりして、そのままゆるゆると巻き付いてくる。俺もあんまり抵抗してもいないので、割と簡単に自由を奪われてしまうというか。


「シーラちゃんの作戦通りね」

「ん。今の雰囲気ならいけると思った」

「ふふ、ごめんなさいね」


 と、そこに楽しそうなクラウディアも参加してきて。


「いや、この状態でくすぐるのは流石に……」


 くすぐったいやらみんなの感触やらで色々大変であるが。そんな調子でみんなの笑い声が寝室に響くのであった。




 そうして一夜が明ける。新婚旅行という事で俺達としてはのんびりとした時間に起き出すが……昼夜が期間で分かれている月面では、朝早いとかそういう概念も薄いらしい。そういう意味では魔界に近いだろうか。

 一日の区分と活動時間の目安にするために鐘楼もあるので、生活していく上での不便はないらしいが。


 朝食を取ってから、今日の予定を決めていく。

 と言っても、昨日少し話に出ていた通り、農場や水道施設等、月の設備や技術関係の見学に行くのが良さそう、という話になった。月の場合はインフラ関係の施設は合理性を追究していそうだし、技術力にも興味がある。


「実際、その辺の施設を見るのは面白そうではあるわね」


 と、ローズマリーは笑顔である。エスティータやディーンにその旨伝えると「了解しました」と笑顔で応じてくれた。

 そんなわけで朝食を済ませたら都の外に造られた農場へと向かう事になった。都の外に造られた設備へは、ドーム外に出ずとも地下道を通っていけるそうだ。


「案内した時にも既に触れておりますが、緊急時の避難所にもなるからですね。地下道の全ては気密性の高い扉で隔てられて移動に際しては空気が漏れないように造られています」

「分散していた方が安心というわけね」

「そうなります。都を覆う外殻と結界が別系統の事もそうですが、機能不全にならない事を念頭に置かれていますからね」


 エスティータの言葉にステファニアがそう言うと、ディーンも月についてそんな風に解説してくれる。


「オーレリア陛下が護衛役兼案内役にしてくれただけはあるね。二人とも色々事情に詳しいから聞いていて楽しいよ」

「いえ。ソムニウムを護る武官でもありましたから」

「有事の管理体制については職業柄というところが大きいのです」


 と、エスティータ達は笑って謙遜しているが、しっかりとした知識のある面々が案内してくれるというのは有り難い話だ。

 浮石に乗って移動し、大通りの一角から地下道へと進む。地下道は――規則正しい間隔で柱が並んでおり、中央に浮石がすれ違える広々とした道が続いている。脇には歩道もあって、かなり整然としたものだった。


 終端のエアロックに浮石を停泊させる台座が設けてあり、そこからは徒歩だ。

 エアロックから地上に出ると――そこは水田や畑の広がる長閑な場所だった。遠くに何かの施設も見えるが……。

 土壌からして肥沃で質の良い土に改善してあるし、水路も走っていて人工池もしっかりと構築されているようだな。食用となる魚が泳いでいて……養殖をしているのが窺える。


「すごい環境整備がされているのですね」


 アシュレイが言うと、エスティータが頷く。


「こうした区画がしっかりしていないと月の都も立ちいかないと言う面がありますから」

「地上部分もそうですが、外殻や結界が損傷を受けた場合の事を想定して、地底にもこうした作物を育成する施設が何層かに広がっているのです」

「階層ごとに植物の好む環境に合わせた構造になっています。地上部分がこうなっているのは……やはり景観を重視した、というところもあります」


 と、姉弟が補足して説明してくれる。


「ハルバロニスの魔法技術と源流は同じなだけありますね。地下でも問題なく作物が作れるというわけですか」

「そうなります。よければ地下施設にも案内致しますよ」

「では是非」


 俺の言葉にディーンが笑顔で応じてくれる。

 気温、湿度もコントロールされているようで、内部は割と過ごしやすい。水田に畑、果樹園と色々な作物を育てる為の機構がきっちり整えられていて、地下部分もそれは同様だ。


「地下施設はあの管理用の建物から向かう事が可能です」


 地上部分をざっと見て回った後で、エスティータとディーンに案内されて降りた地下施設は……景観重視の地上部分に比べると合理的且つ機能的で、農場というよりはプラントという呼び方の方がしっくりくる印象だな。

 再建されたばかりの施設ではあるが、作物の好む気温、湿度に合わせて階層が分けられているところに、ノウハウがある事が窺えるというか。


「やはり地下部分も災害や事故を想定しているのですね」


 エレナが施設内部を見て感想を述べる。エアロックで区切られていて、月の都とソムニウムの双方に通じる通路もある。


「そうですね。何かあればソムニウムで眠りについて凌げるとは言っても、そうした状況になる事は私達としても避けたいですからね」

「どちらにも物資を送れるようにしておけば、復旧までの当座を凌いだりもできるというわけですか」


 と言うと、エスティータ達が頷く。


 そうして農場を見てから牧場施設、水道施設、処理施設等、色々と見せてもらう。

 月の都に植物が植えられているのと同様、景観を考えると同時に資源が再循環する事を徹底しているらしく、各種施設の廃棄物を再処理して資源を得られるような体制が整えられていたり、その施設まで送る導管が地下に敷設されていたり……それらにかなり高度な魔法技術が用いられている事が窺えた。この辺は環境が厳しいからこそ、それを補うための技術が発展した、というのが窺えるな。


 そうやってあれこれ施設を見ているとオーレリア女王も執務が終わって手が空いたのか合流してくる。


「楽しんで頂けているでしょうか」

「そうですね。色々興味深く見せて頂いております」


 顔を合わせた所でそういったやり取りを交わすとオーレリア女王は満足そうに頷いた。オーレリア女王としては俺達を迎えるにあたっての意欲が高く、案内にも積極的な様子だ。滞在中はオーレリア女王からの歓待を有難く楽しませてもらおう。

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