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番外844 精霊と眠りの離宮と

 みんな暫くの間、碑文の前から動かなかった。何かを思うように目を閉じたりして、碑文を残した高祖や月の精霊に想いを馳せているようだったが……。


「何だか――私やテオドールの剣や杖から暖かな気配があるわ」

「そうですね。オリハルコンが反応しているようです」


 俺がそう言うと、オーレリア女王がオリハルコンのレイピアの柄頭に手を置いて穏やかな笑みを見せる。……うん。オーレリア女王の武器もまた、月の民の王としてオリハルコンを使っているからな。

 オーレリア女王も、月の民を守る為に今まで積み重ねてきたものがある。オーレリア女王の生き方も月の精霊やオリハルコンの生き方に沿うものだった、という事なのだろう。

 というか、反応しているのはオリハルコンだけではないな。この場所の魔力もまた、力が増しているように思う。


「ああ、そうか。地上の精霊と少し波長が違うけど……この場所の魔力は月の精霊の気配なのか」

「なるほど……。今も代々の月の民と一緒にいるのね」

「確かに……この場所の魔力は、何だかとても落ち着くわ」


 クラウディアとオーレリア女王は魔力をより深く感知するように目を閉じる。


「それは確かに」


 俺もこの場所の魔力は何だか安らぐというか。月の民やその系譜の者にとっては、そういうものなのかも知れない。


「絆が今も生きているのですね……素敵なお話です」

「そうね。始原の精霊の事を伏せて失伝しても、オリハルコンを護っている。月の王家も、月の民も義理堅い事だわ」


 エレナが胸のあたりに手をやって微笑むと、王族に連なる者として思うところがあるのか、ローズマリーが羽扇の向こうで言う。


「私も月の女王として、月の縁起と、精霊の事を知ることができて良かったわ」

「同感ね。まさか父上に会いに来てこうなるとは思っても見なかったけれど……来て良かった」


 オーレリア女王の言葉にクラウディアが頷く。


「ん。月に適した生物というのはルージェントも?」

「多分そうなんだろうね」


 シーラの言葉にそう答えるとコルリスの頭の上に乗っかっているルージェントは目を瞬かせ、それから嬉しいという反応を示すように目を細めて軽く振動を発していた。その反応にコルリスもこくこくと頷いていたりするが。


 それにしても月の精霊と眠りか。


「月の精霊は事情もあっておいそれと起きるわけにはいかないみたいだけど……ジオの時みたいに、ホルンとオリハルコンに手伝ってもらえば夢の世界で会いに行けるかも知れないな」

「ジオグランタ様の時のような感じですね」

「それは……喜んでくれるかも知れませんね」


 グレイスとアシュレイが明るい笑顔を見せ、マルレーンもにこにことしながら頷く。ホルンも協力する、というように声を上げた。


 月の精霊の出自も分かっているし。ウロボロスに組み込まれたオリハルコンも……イシュトルムの一件で再び地上に落ちてしまった物ではあるが、この場所での反応を見る限りだと正しく使っていると認めて貰えたような気もするし、会って話をしてみたいというのもあるな。


「だとしたら、ソムニウムに向かうのが良いかも知れないわ。あの場所なら精霊への交信に使えそうな資材もありますし、眠りという点で共通するものがありますから」


 オーレリア女王はそう提案してくる。確かに、そうした寓意を合わせたりというのは儀式の際に有効に働く。夜の宴席までまだ時間もあるので、このまま月の都に連絡を入れてソムニウムに向かうというのが良いのかも知れない。




 というわけで月の精霊にみんなで祈りを捧げた後、クラウディアの母親の墓前にも花を捧げてから、墓所から一旦引き上げて月の都にいるみんなに連絡を入れる。月の精霊についてはオリハルコンとの具体的な関係性までは知られずにいたが、存在自体は同行者のみんなも分かっている為に月の精霊に会いに行く、という話をするのも問題がない。


 ティエーラとメギアストラ女王達からもすぐに返信があり、ソムニウムで合流という事で話が纏まったのであった。


 再びみんなと共に浮石に乗って、月の荒野を走る。


「浮石も結構な速度が出せるのに乗っている分には安定感があるわね」

「術式で制御されている、とか?」

「その通りです。戦闘でも使うことを考慮して作られていますから」


 ステファニアとイルムヒルトが首を傾げるとオーレリア女王が答える。浮石は結構な速度を出せる仕様であったりする。月の現状は平穏だが、イシュトルムの反乱もあったしな。元々オリハルコンを護る事を想定しているという事もあるだろう。

 更に今乗っているものは、月の王城で使われている浮石なので大人数が乗れる割に性能も良好だ。


「ああ。そうだ。高祖の碑文に仕込まれていた合言葉を反応させる術式をお伝えしておきます」

「それは助かります」


 オーレリア女王も月の精霊の寝所に繋がる扉を開く合言葉を知ったけれど、案内用の術式を制御していたのは俺だからな。オーレリア女王にマジックサークルを見せて合言葉を反応させる術式を伝えると「こうですね」と、すぐに再現してみせてから何度か繰り返し、内容を暗記している様子であった。


 これで一先ずは……失伝していた起源についても後世に伝えられるようになったな。




 離宮ソムニウムに到着すると、ティエーラ達やパルテニアラ、メギアストラ女王達は先にやってきていた。月の都と墓所からのソムニウムの距離から言って、ティエーラ達の方が先に到着したという事だろう。

 そんなわけで合流したところで、ティエーラ達に事情を話す。


「――そのような事情があったのですね。反応から彼女が眠りについている事は分かっていましたが……」

「私達があまり積極的に活動すると、与える影響も大きい。眠りにつく理由も分かる」

「まあ、私もそうだったわね」


 ティエーラ、コルティエーラ、ジオグランタと三者三様の反応で納得している様子であった。


「流星雨が降った時はどうだったのかな?」

「ええ。碑文に書かれていた内容には心当たりがありますよ」


 やはり……ティエーラと月の精霊には面識があるようだ。

 流星雨で月の欠片が地上に落ちた時の流れで戦乱が起きた事や、それを受けて月の精霊が悲しんでいる事、その悲しみに反応した事。それらも覚えているらしい。

 やはり、碑文に書かれていた地上の精霊達、というのは始原の精霊の動向や存在を誤魔化したという事なのだろう。

 まあ……ティエーラはその後魔力嵐であるとか色々大変だったからな。


「ともあれ、私達も一度夢の世界を体験していますし、スレイブユニット越しではありますがテオドールに同調できそうですね」

「確かに。二人で協力すればコルティエーラも一緒に連れていけそうだわ」

「……ありがとう」


 では、ティエーラ達も夢の世界に同調して同行するという事で決まりだな。

 というわけでソムニウムの資材と広間を借りて、精霊と交信するための儀式場を構築していく。


 祭壇を向ける方向は墓所のある方角が良いだろう。魔石の粉を使って、床に魔法陣を描いていく。


「触媒はどうしましょうか?」

「んー。そうね。私の血というのはどうかしら?」

「ああ。そういう事なら、私の血も有効そうですね」


 と、オーレリア女王とクラウディアがそんなやり取りを交わす。そう、だな。月の王家に連なる二人の血なら月の精霊と交信するための触媒としてはこれ以上ないという気もする。


「月の精霊かぁ……。どんな人なのかな」


 と、セラフィナが笑顔で首を傾げる。


「そうだね。月の精霊は色々と気になるな」


 俺もセラフィナの言葉に小さく笑って同意する。

 では――しっかりと儀式場を構築し、月の精霊に会いに行くとしよう。

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