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番外835 月面再訪

「それでは行ってらっしゃいませ」

「留守の間の事はお任せを」


 と、城を出る前にセシリアとゲオルグが一礼する。ミハエラ、武官、文官達の主だった者、迷宮村や隠れ里の面々やカーバンクルにマギアペンギンも一緒に見送りに来てくれて、城の玄関ホールは賑やかな事になっている。シャルロッテも頭にカーバンクルを乗せてご満悦といった様子だが。


「うん。みんながしっかり仕事をしてくれているから安心して旅にもいける。感謝してるよ」


 そう答えると「勿体ないお言葉です」とゲオルグが言って、家臣達も揃ってお辞儀をする。

 このまま転移港へ向かい、今日帰還する面々を見送ってからオーレリア女王と月へ向かうのだ。


 一旦魔力送信塔に移動し、そこから月へ。シリウス号はタームウィルズに停泊させておくが、アルファはスレイブユニットで同行するので何かあった場合はシリウス号を月に召喚して対応する事が可能だ。


 まあ、月にはベリオンドーラもあるが念のため、というところだな。

 そんなわけで挨拶をしてからオーレリア女王と共に転移港の迎賓館に移動して少し待っていると、メルヴィン王、ジョサイア王子、メギアストラ女王と共に国内貴族や各国の面々が姿を見せた。


「これはお揃いで」

「うむ。良い日よりよな」

「おお、テオドール公」


 と、笑顔で挨拶をしてくるのはメルヴィン王、ヨウキ帝とヒタカの面々だ。

 ヨウキ帝に限らず、王族はあまり長く国を空けられないという事情もあるからな。その点、国内の領主の面々に関してはまだ残っていられるという事もあって、俺達の見送りに来てくれたという側面が強い。メギアストラ女王も……今回はボルケオール達と共に月を訪問する予定であるし。


「素晴らしい披露宴と幻影劇だった。滞在中は中々充実した時間を過ごさせてもらったよ」

「それは何よりです」

「幻影劇は実に素晴らしかったな」

「鬼達の師父らの歴史をその場に居合わせるように見る事ができたからな」

「うむ。興味深い」


 と、御前とオリエがそう言ってうんうんと頷き合い、レイメイは明後日の方角を向いて頬を掻いていた。レイメイの奥さんであるシホさんもにこにこと微笑んでいたりして。


「ヘリアンサス号の到着は新婚旅行より後になるかと思われるが……まあ、予定が前倒しになった場合は歓待をこちらに任せてもらおう」

「こちらでもヘリアンサス号は気にしておこう。アルバートもいる事だしな」

「それは――助かります」


 ヨウキ帝とメルヴィン王の言葉に礼を言うとアルバートとともに相好を崩す。


「では、良い旅を」


 そうしてヨウキ帝はメルヴィン王やオーレリア女王とも笑顔で言葉を交わし、転移港を通って帰って行った。


「――おお。テオドール」

「良い朝よな」


 エベルバート王とエルドレーネ女王。他の国の面々も続々と現れて、俺達やメルヴィン王、オーレリア女王と挨拶をして国元に帰っていく。

 七家の長老もエベルバート王と共に転移港に姿を見せたが、造船所の仕事があるので今回は見送り側である。案の定というか、ハグをされたりと長老達には孫扱いをされてしまうのだが。


 ベシュメルクの面々も姿を見せた。エレナとパルテニアラがガブリエラと言葉を交わし合い、動物組がロジャーと抱擁しあったり、それぞれ親しい面々と言葉を交わしたりして、見送りは和やかなものだ。


「殿下もお元気で」


 といった調子で、俺もデイヴィッド王子の髪を撫でて挨拶をすると声を上げてくすぐったそうに笑い声をあげていた。うむ。

 そうして――みんなが帰って行き、後には俺達とオーレリア女王、メギアストラ女王達。それからメルヴィン王達と見送りにきた国内の領主といった面々が残される。


「では――そろそろ参りましょうか」

「うむ。良き旅をな」

「お気をつけて」


 オーレリア女王の言葉にメルヴィン王や領主達も言う。


「はい。では行って参ります」


 転移門に入り――光に包まれると、次の瞬間には魔力送信塔に俺達の姿はあった。改めて人員が揃っている事を確認して、更に月へと向かう為の転移門へと進む。


 転移門は大規模輸送には向かないが、月への旅でも僅かな時間で済むし安全性も高い。

 そうして光に包まれて――到着した場所は月の離宮であった。

 転移門を構築した時はまだ月の都の再建も進んでいなかったからな。


 だから転移先も月の離宮という事になる。離宮は永らく月の民の眠りを守ってきた場所であるから、構造的にも術式的にも安全性が確立された場所なのだ。月の玄関口としての役割としては安心だからと、そのまま機能を移さずにいるのはその辺が理由である。


「さて。月面と地下道と――どちらを通って都へ向かうのが良いでしょうか。最初は月面を移動した方が初めて来た面々にも楽しんでもらえるかしら?」


 人員が全員揃っている事を再確認したところでオーレリア女王が言った。


「地下道があるのですか?」

「ええ。月面を移動する場合はそれなりに備えが必要ですから。備えがなくとも移動しやすいように都と離宮を繋ぐ直通路を建造したというわけです」


 オーレリア女王はそう言って笑みを浮かべる。離宮側、及び都側の終端はエアロックのような構造になっていて空気を無駄にする事なく運用ができるという事らしい。


 というわけでどちらを通っていくか、初めて月を訪れた面々に意見を聞いてみる。


「地下道にも興味はありますが、月面の様子も見てみたいですね」

「確かに。ルーンガルドを外から見られるという話だったからな」

「月の都も外から見る事が出来るでしょうし」


 エレナがそう言うと、メギアストラ女王とボルケオールがそう答える。エレナも魔王国の面々も月面に興味があるという事で月面を通って月の都に向かう、という事になったのであった。


 離宮内部を移動し、外部に繋がるエアロックへと到着する。その合間に月面についての注意事項がオーレリア女王から語られる。

 月面には空気がなく、昼夜の寒暖差が非常に激しい事。厳しい環境から対抗魔法や魔道具、専用装備なしでは活動が難しい事。月を結界が覆っていて、それが虚無の海――宇宙から降り注ぐ不可視の力からも守っている事。


 不可視の力……有害な宇宙線に関しては、月の民も認識しているらしい。それに重力も少ない事があげられるか。


「中々……危険な場所なのだな」


 メギアストラ女王が言う。


「そうですね。拠点以外での活動を行う場合は少し注意が必要です。一応、月面でも安全に活動可能になる魔道具を配っておきますね」


 と、オーレリア女王が言うと、月の文官が魔道具を配ってくれる。後は身の回りに適度な温度の空気を作り出して纏う魔道具なりがあれば問題なく月面で活動できるそうで。

 そうして魔道具が行き渡ったところで大型の浮石にみんなで乗って移動する。浮石の表面には紋様魔法が刻まれていて、空気を纏って移動できるとの事だ。


 エアロックから風魔法で空気が抜かれたところで、門が開くと――エレナを始めとした初めて月を訪問する面々から声が漏れた。


 あちこちにクレーターの点在する――荒涼たる銀色の大地。空にはルーンガルドが浮かんでいて――。


「ああ。これが――」


 と、エレナが感動の声を漏らす。


「私達も最初に来た時は驚きましたね」

「今見ても綺麗だわ」


 グレイスとイルムヒルトがそういうとみんなが頷く。


「なるほどな……。月について、浮遊島と似て非なるものと言っていた理由が分かる。距離と大きさがまるで違うというわけだ」

「そうですね。やや説明が難しかったから理解しやすい概念での説明となりましたが」


 メギアストラ女王に答える。


「あれが外から見たルーンガルドか……」

「綺麗――」


 アルディベラとエルナータが言うと、カーラも無言でルーンガルドを見ながら頷いていた。確かに。月面から見ると青と白のルーンガルドが太陽光を受けて宇宙空間に浮かび上がっているようで……何とも綺麗だ。


「そしてこれが虚無の海……。星々も綺麗ね。素晴らしい光景だわ」

「私も……来るのは久々。月の精霊の眠りは深いようだけれど」


 ジオグランタとコルティエーラも、思うところがあるのか、星空や周囲の精霊を眺めて言う。


「あの子とは少しだけ互いに認識をした事がありますが、物静かな子ですよ」


 と、ティエーラは微笑む。うん……。高位精霊の面々の会話は中々にスケールが大きいと言うか何というか。


 そうしてみんなと共にルーンガルドを見上げたり、月面の風景を見回したりしながら浮石が進んでいく。

 やがて――地平の彼方に半透明で半球の――ドーム状のものが小さく見えてくる。月の都――前に来た時はああしたガラス質のドームも存在しなかったはずだが、ああして都を覆って住環境を維持しているというわけだ。

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