番外823 フォレスタニア城の住民達
並行世界干渉の準備も、魔法陣を描いて魔力を馴染ませ、蓄積させるという工程に移った。暫くは待つしかないが、BFOで得た魔法知識と身体感覚、俺自身が得た魔法知識、戦闘経験等と共に周辺の状況を取り巻く厄介事の種等を整理し、伝えるべき情報をしっかりと纏めておいた方が良いだろう。
とはいえ、並行世界であるが故に、こちらの世界で起こっている出来事がそのまま同じように推移するとは限らないのが難しい所ではあるのだが……まあ、その辺は向こうの俺達が上手くやってくれると信じて任せるしかあるまい。実際、情報伝達以上の干渉は難しいしな。
さてさて。俺達の仕事はそうして順調に進んで、日々の執務や仕事をして過ごしている内に段々と寒さも和らぐ日が増え、春が近付いているのが実感できた。
ヘリアンサス号の進行や現地の映像配信も順調だ。数日置きに映像が送られてきて、航路の途中で中継地に到着したという連絡もあった。
東国側の海上拠点ではなく、ティールと出会った島だな。
外洋航行の問題点を検証する目的もあるのでヘリアンサス号の水流操作推進も色んな速度で航行して魔力の消耗度合いや、その場合の船員からの視点等……色々検証もしていたりする。
ヘリアンサス号の船員達も、到着したら島に宿泊。身体を休めてから航行を再開するという予定だ。まあこの辺は通常の航行で寄港し、休息と補給をしてから航行を再開するのと同じだな。
ドロレスはリサーチの目的があるので転移門を通って現地に移動している。俺達は一度航行が始まってからは有事以外には支援、干渉をしないという方向で動いているので今回は動画を見たり水晶板モニターで挨拶をする程度だな。
そんなわけでみんなと共に現地からの映像を見せてもらった。
『いやはや。素晴らしい拠点ですな。我らヘリアンサス号の船員一同、島の整備をして下さったテオドール公に感謝を申し上げます』
と、船長が船員達、ドロレスと共にお辞儀をする。撮影が終わったら船員達も島で寛ぐという事らしく、船長も船員達も嬉しそうな表情を浮かべていた。
数人で撮影担当を交代しつつ休養中の船員達の様子も撮影を進めたとの事で、滞在中の様子が色々と送られてきた。
島での食事に舌鼓を打つ船員達。船員達が酒杯を合わせて乾杯して酒盛りをしたりと、緊張感を保って規律を守らなければならない船での生活から、一時的に開放されて嬉しそうにしているのが窺えた。そうした船員達の様子や、船医と現地の医師が航行中のデータを見て相談しあったり、ドロレスと船長が船の設備について相談する真面目な場面もあった。
島に常駐している人員は普段は少ないが、船が到着した折には人員が増える。
ヴェルドガルだけでなく、グランティオスやグロウフォニカからも人員が参加しており、種族は人、獣人、魚人族達。職種は医師、料理人、楽士等色々だ。
もう一つの中継拠点と同じく、島に船が寄港した折に諸々の仕事をしてくれる面々を募集し、希望者を採用した、というわけだな。
「船員達も嬉しそうで良かったわね」
それを見たステファニアが笑みを浮かべ、ティールも「あの島の周りは綺麗で良い」と声を上げる。実際船員達も島の周囲の砂浜が綺麗だと泳いだりもしていたようだ。
『美しい海の様子が、寝泊まりしながら見られるのは良い事です』
『木の家の方も見晴らしが良くて素晴らしいですよ』
水上コテージやツリーハウスの泊まり心地を聞かれた船員がそう言って笑う。滞在施設も十分な数造ったが、島の周辺が美しい海なので宿泊施設としての利用も考えているところがある。各国にもこうした映像は届けられているので、船員達の反応は良い宣伝にもなるかも知れないな。
そんな調子でヘリアンサス号からの報告も受ける等しつつ、日々の仕事を進めていけば……段々と暖かい日も増えて春が近付いてくる。
結婚式の日取りが近付くにつれて、人の往来も増えて街の様子も少し変わっているような気がする。
雪解けもまだという街道もあるだろうに。それでも人が多く集まっているというのは、俺達の結婚式の予定が周知されているかららしい。フォレストバードの面々が商人や観光客から情報収集……というよりは裏付けを取ってきてくれたとの事で。
他国からも遥々旅をしてきたりと、タームウィルズとフォレスタニアの観光をしながら結婚式の日取りを待っているという話である。
さてさて。そんな調子なので街は少し浮かれた雰囲気ではあるが、結婚式の準備は既に終わっているので、俺達の日常やすべき事、予定に変わりは無い。
治安の面ではどうかと言えば、ゲオルグやテスディロス達が頑張ってくれているしな。
そんなわけで人が増えても大きな問題は起こらずにいるが――オズグリーヴは「境界公の結婚を祝福したいと思ってきた人々ならば境界公の人となりもご存じでしょうし、問題を起こすような事はしないでしょう」と、そんな風に言って楽しそうな笑みを浮かべていた。
オズグリーヴと共に魔人の隠れ里からフォレスタニアにやってきた面々はと言えば……最近では人里の生活にも慣れてきたようで。
「皆さん裁縫は得意なんですよね。料理等は不慣れな方が多いのですが人里から来たように見せかけるという目的もあったからか、その辺の腕前はしっかりしているようで」
「革のなめしであるとか、魔物や動物由来の素材を加工したりも得意ですよね」
と、アルケニーのクレアとケンタウロスのシリルが顔を見合わせて頷く。
迷宮村のみんなが隠れ里の面々に足りない家事全般を指導しているのだが、得手不得手が結構はっきりしている、との事だ。
例えば料理等は殆どの者が不得手であったらしい。元が魔人なので隠れ里では料理をする必要そのものがない。代わりに衣食住の内、衣と住は必要であったため、装飾等には意識が向かずとも基本や技術の情報共有がしっかりしているとの事だ。
「最近では皆、染色技術等の美感に関するものに興味を持っているのですが……何分、下地が何もなかったもので、やや常識外れな物になってしまったようで」
と、隠れ里の住民であったイグレットが苦笑する。染色の色使いが原色で組み合わせが悪かったりして、迷宮村の住民に色の合わせ方について指導を受けた、と、笑い話になっている様子だった。
これはあれだな。魔人化の解除に伴い、色彩等に興味を持ったからそれが少しばかり暴走してしまったという事なのだろう。
「色の合わせ方はクラウディア様から教えてもらったものなのです」
クレアが言うと、隠れ里の面々から「おお……」と声が漏れてクラウディアに視線が集まったりして。注目されたクラウディアと言えば咳払いしつつ頬を赤らめたりしていた。そんなクラウディアの様子に、イルムヒルトやマルレーンはにこにことしているが。
そうやってサイケデリックな染色が成された布と、寒色、暖色と色相性についての指導を受けた後の布を見比べる。綺麗なグラデーションの染色が施され……明らかに向上が見られる。
「いいね。俺もあんまりこういう感覚には自信があるわけじゃないけれど、目に見えて良くなっていると思う」
「ありがとうございます」
と、レドゲニオスが明るい表情になる。
ともかく、隠れ里の面々は色々意欲的との事で、色彩に関する知識を料理の盛り付けに応用したり、料理そのものの腕も上げていたり、色々頑張っている、との事だ。
フォレスタニアに迎えてからすぐに魔界探索に向かう事になって、隠れ里の面々の生活に関しては気になっていたが、迷宮村の住民とも仲が良く、色々と意欲的なようで何よりである。
そんなフォレスタニア城の面々を見てエレナも笑顔になっていて……結婚式を控えての不安も少なそうで安心できるな。




