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番外816 冬の到来

 新たな幻影劇作りにも着手し、執務や作業、準備を進めて一日一日が過ぎていく。

 幻影劇作製については2回目だからな。前回より大分効率的に作業を進められていると思う。

 工房にて、幻影を魔道具に記録し、セラフィナの魔石を使って音声や効果音を撮り溜め、ウィズや迷宮核と共に編集したりといった作業を行っていく。


「ここは……そうね。やや大げさではあるけれど、サーヴァ王の台詞を受けたエルフの長の返答を、少し遅らせると良いのではないかしら」

「感情の動きを分かりやすく見せるのを意識しているわけね」


 ローズマリーが台本に目を通しながら言うとクラウディアが同意する。出来上がったシーンを、台本を手にみんなと一緒に確認し、登場人物の動きや台詞回し等を細かく調整したりするわけだ。


「なるほどね。なら少し間を置いて、表情を少し動かしてみるか」


 この辺はローズマリーの得意分野だ。仕草や振る舞い、感情の見せ方が人にどう影響を与えるのかというのを心得ているだけに、色々と参考になる意見が聞ける。その辺はローズマリー程ではないにしても、王族として生まれたクラウディアやステファニアもそうだな。


 周囲からの視線、立ち居振る舞いに明るいというのは王族として幼少期から教えを受けて、意識する場面が多かったからこそ、というのもある。

 アシュレイやエレナ、マルレーンも幻影劇とは関係のない所で参考になる部分が多いのか、納得したようにこくこくと頷いていた。


 皆に演技してもらって台詞を収録。それをベースデータにして登場人物の声色に合わせたりといった事もしていたりする。

 作成途上ではあるが、登場人物達の台詞回し等々迫力が出ているのではないかと思う。背景でも細かいところでは警備兵の動きであるとか斥候の行動だとか、そういうところにリアリティを出すのにシーラと共に案を練ったり。

 この辺は3Dで色々な場面を見られる幻影劇ならではだ。


 こうやってみんなで話し合いながら幻影劇を作り出していくというのは、俺から見ると何となく……演劇部の練習風景というか、そんな印象があったりするが、それもまた楽しいものだ。

 イルムヒルトとユスティア、ドミニクも歌ったり魔力楽器を演奏して場面にあったBGMを収録してくれたりと、色々手を貸してくれている。3人の演奏とコーラスは流石に圧巻というか。境界劇場側の宣伝にもなるので一石二鳥だな。


 季節は――冬。最近すっかり寒くなってきた。今年も母さんの命日に墓参りに行く、という事で予定を立てている。

 エレナとの結婚式は春を予定している。雪が解けて暖かくなり、人々の往来が簡単にできるようになってから、という時期を選んだ。

 エレナとの婚約の話が持ち上がったのが初冬ぐらいの時期だったので、あまり先延ばしにもならず、各国の面々も少し間があるので都合を付けやすい。


 暖かくなる時期というのは結婚式にはぴったりだが、俺が冬を苦手なのをみんな知っているから、というのもあるだろう。冬だからと前ほど神経質になる事も無くなってきたとは思うが、結婚式の時期に異論はない。

 みんな優しいから気遣いさせてしまうのも悪いと思うし、エレナも色々と苦労してきたからな。日常では楽にしていてくれれば俺としても嬉しいのだが。


「おや、雪が降ってきたみたいだね」


 そうしてみんなと幻影劇作りを進めていると窓の外を見てアルバートが言った。その言葉に外に目を向けてみれば、柔らかそうな雪がちらほらと降り始めているところだった。


「ああ。雪か」


 タームウィルズでは今年初めての雪だが……綿のような質感でゆっくりと舞うように降ってくる。それを……綺麗だと感じた。

 昔は雪を見ると色々思い出してしまって辛かったけれど、今は落ち着いている。

 イシュトルムを倒し、母さんにも会えて……やはり心境が少し変わっているのだろう。みんなが一緒だというのも大きい。


「お茶のお代わりは如何ですか?」


 グレイスが声をかけて来る。


「ああ。ありがとう」


 笑って答えると、グレイスも俺を見て安心したというように柔らかく微笑んだ。グレイスも俺の心境の変化を察知してくれているような気がするな。

 みんなもそんなやり取りに頷いて、のんびりとみんなでの作業は進んでいくのであった。




 それから更に数日。フォレスタニアは遠景こそ雪景色になって、やや気温も低めになっているが、涼しいという程度で、寒いと感じるほどではない。この辺迷宮内部の都市だから年間を通して寒暖差がそれほどない調整なのだ。武官達には巡回が苦にならないと評判が良かったりする。


 外はどうかと言えば、雪もあれからそこそこ降り積もり、タームウィルズは雪化粧といった所だ。

 そして墓参りは明日に迫っている。今日はみんなと共にガートナー伯爵領へ向かい、一泊してから明日の墓参りに備えるという事になっているが……助けてくれた事へのお礼を言いたいと、メギアストラ女王が同行する事になっている。ボルケオールとカーラ、ブルムウッド達、それにベヒモス親子も一緒だな。


 移動手段は――今回はシリウス号でなく転移港で向かう。但し、スレイブユニットを使っているので、アルファも一緒だが。


 アルファ、ラヴィーネ、ベリウスは割と仲が良いからな。境界門も開いている状態なのでスレイブユニットだけで魔界にも同行できるようになり、一緒にいられる時間が増えて嬉しそうにしていた。


 仲が良いと言えばコルリスとアンバーもか。巣穴の方も壁が取っ払われて、正式に番になった事が確認されたし、ティールも仲間達がフォレスタニアに遊びにくるので氷結湖やフォレスタニアの湖を元気に泳ぎ回り、リンドブルムと追いかけっこをしている姿を良く見る。


 ホルンはマイペースにしているが、最近ではタームウィルズやフォレスタニアの人々がぐっすり眠れるように活動していると、そんな風に翻訳の魔道具を通して教えてくれた。

 獏の面目躍如といったところか。ホルン自身それで力が増すようだし、悪夢を食われた面々は疲労やストレスが軽減されるようで喜ばしい事が多い。そんなこんなで、動物組も仲が良く毎日楽しそうで何よりであると言えよう。


 まあ、それはさておき。一泊する準備を整えてからフローリア、メギアストラ女王やジオグランタと合流して転移港へと向かう。


 そこからガートナー伯爵領へと飛ぶと、父さん達が出迎えに来てくれていた。ダリルと墓守の兄妹、ハロルドとシンシアも一緒だ。


「よくおいで下さいました。領主のヘンリー=ガートナーと申します」


 と、父さんが一礼し、ダリルも些か緊張した様子ながらも澱みなく歓迎の挨拶と自己紹介の言葉を口にする。


「ダリル=ガートナーと申します。よろしくお願い致します」


 この辺ダリルも場数を踏んで対応力が上がっている気がするな。

 というわけで、俺達からも魔界の面々と、初対面の顔触れとを紹介していく。

 そうして挨拶を交わしてから伯爵家の屋敷に向かう。屋敷ではキャスリンも待っていて、父さん達と同じように魔界の面々と挨拶を交わしていた。伯爵家は色々と状況も落ち着いた印象だな。


 広間に向かうとお茶の用意が進められていた。ここで少しのんびりしてから、暗くなる前に母さんの家へと向かう予定だ。


「ああ。婚約と結婚式の決定、おめでとう」


 と、ダリルが俺に言ってくる。


「ありがとう。ダリルの方はネシャートさんとは最近はどうなんだい?」


 そう尋ねると、ダリルは少し顔を赤くして頬を掻く。


「ええとその、タームウィルズとガートナー伯爵領で、お互い行き来して話をしたりしてるよ。最近では……ほら。手作りの魔除けって言うのを貰った」


 と、ダリルが首飾りを見せてくれる。青い硝子で作った魔除けらしい。目を彷彿とさせるデザインだが……魔力も込められてしっかり魔除けとして機能するのが窺える。


「本当だ。しっかり破邪の力が込められてるね」


 確かバハルザードの伝統のお守り、だったかな。文献で知ってはいたが実物を見るのは初めてだ。木魔法に長けているネシャートが作ったものだけに、中々に良さそうだ。ダリルはダリルで流石に手作りは難しいが髪飾りをお返しにプレゼントした、との事である。


 ダリルとネシャートの結婚はまだ先という話だが……当人達の仲は良さそうで何よりだな。

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