番外813 未来の為に
しかし知り合いではヘルフリート王子やダリル、タルコットやチェスターといった面々が次に結婚するのかとも思っていたが、俺が先にまた結婚式を挙げる事になるとは、分からないものだ。
結婚式の話と予定が割合すぐに進んだのは……俺達の場合はみんなと既に結婚しているというのが大きいような気がする。ノウハウがあるというのも違うが……だからこそパルテニアラやクェンティンとしてはエレナの立場を早い段階で確定させてしまいたかったというのはあるだろう。
そんなわけで城に到着してから、同行していたフォレストバード達とも一旦別れ、グレイス達とエレナ、みんなで着替えや髪型を変えたりして楽しもうという話になった。
みんなの花嫁姿をエレナにも見てもらえば、お互い花嫁衣装を見る事になる。なるべく公平に、という事を考えての延長線上にある話なのだろう。
そうした決まり事もある事はあるのだが、生活する上で窮屈にならないようにするというのも念頭に置いている。
「何というか……受け入れて貰えるというのは、安心しますね」
「まあ、結婚するまでの不安というのは分からなくもないわ。結論から言うなら、杞憂だったのだけれどね」
「ん。蓋を開けてみたら上手くいった」
ローズマリーが肩を竦めると、シーラも目を閉じてしみじみと頷く。
「だからエレナとも一緒にのんびり進んでいけたら嬉しいわ」
「そうね。何か問題に感じる事があったら、お互い相談するという事で」
クラウディアとステファニアが言うと、エレナも穏やかな笑みを返して「はい……!」と頷く。
「冒険者や仲間として共に戦ってきたから、かな。良い雰囲気であるな」
「それも……あるかも知れませんね」
そんな様子を見て、目を閉じて微笑むパルテニアラの言葉にグレイスが同意すると、マルレーンもこくこくと首を縦に振る。
「それじゃあ……みんなで着替えてきますね」
「ああ。いってらっしゃい」
「ふふ。待っていてね、テオドール君」
と、アシュレイの言葉に応じるとイルムヒルトが微笑んで、みんな連れ立って遊戯室を出て、迎賓館の一室に向かった。
客を招くという迎賓館の目的上、着替えや化粧直しもできるように衣裳部屋に割り振った部屋があるのだ。鏡台や化粧道具も幾つか常備されているので、そこにみんなの着替えを持ち込んで色々と試していこうという事なのだろう。
少し待っていると、最初に言っていた通り、花嫁衣裳に身を包んだみんなが姿を現した。エレナも……花嫁衣裳ではないが白いドレスを纏ったりしていて。みんなに合うように衣装替えしてきたのだと分かる。
薄いヴェールと細かな刺繍の施されたドレスを纏ったみんなの姿は……何というか結婚式当日に見ているが、改めて見ても溜息の出てしまうような美しさ、だと思う。結婚式の時は窓から光が差し込んでいてまるで光り輝くようだったっけな。
「ん……。やっぱり……綺麗だね」
そんなみんなと相対すると、やや気恥ずかしくて頬が赤くなってしまうのが分かるというか。そんな俺の反応にグレイスもはにかんだように少し頬を赤らめて微笑む。
「結婚式の日の事を思い出してしまいますね。エレナさんの衣装も素敵でしたから今から結婚式当日が楽しみです」
「結婚したら、改めてまたみんなで着替えてみるというのも楽しそうだわ」
グレイスの言葉にステファニアが笑って応じる。うん。それは目の保養というか何というか。その場でゆっくりと回ってみたり、ウェディングドレスの刺繍の細やかさについて語ったりと、女性陣は和気藹々と楽しそうな様子だ。
ローズマリーは……やはり改めて花嫁衣裳を見せるのは気恥ずかしいのか、羽扇で表情を隠したりしていたが、少し顔が赤くなっているのが分かるな。
「ええと。そう、エレナも刺繍は得意と聞いたけれど」
「そうですね。血筋から考えていつか王族に近しい誰かに嫁ぐ事は決まっていましたので……そういった時に何か、お相手の方に手作りの贈り物等ができると良い関係を築きやすいかも知れないと。巫女の修業の他にも多少の花嫁修業はしていますが……何がどうなるか分からない物ですね」
ローズマリーが話題を変えるとエレナが頷いてそう答えて苦笑する。
刻印の巫女としてもそういう生活の基本を知っておくのは大事な事、という教育方針だったそうで、家事全般や農業の事や治山治水等々……一通り暮らしの為に必要な事を習ったそうである。
「それなら……テオドール様に紋様魔法を刺繍した贈り物を渡したりしていますので、みんなで一緒に作業できそうです」
「ん。私達も覚えた。私の場合、繕い物は孤児院で習った」
「私は迷宮村で暮らしていた時に」
アシュレイとエレナのやり取りを受けて、シーラとイルムヒルトも言う。
二人も器用だからな。刺繍もグレイス達と一緒に作業をして覚えたという話だが。
「それは――楽しそうです」
と、明るい笑みを見せるエレナである。
「というか、将来私達が子供を育てる時も……色々参考になりそうなお話な気がするわ」
「ああ。それは……あるかも知れない」
ステファニアの言葉に頷く。父さんもダリルに改めてそうした教育をしていたしな。
子供の話題が出て真剣な表情で頷いたり、少し頬を赤くしたりと、みんなの反応は少し分かれるが、そうした先々の事を楽しみにしているというのは同じなようだ。
まあ……その辺も考えていかないとな。あまりガチガチな教育方針は息苦しいと思うので緩めにしつつ大事な部分は抑えていくというような感じが理想だが……思い描く程上手くは行かないか。みんなも一緒だし、大丈夫だという安心感はあるけれど。
それから、俺の場合は各種知識であるとか、後世で守らなければならない物品、知識などについても考える必要があるか。
そうして花嫁衣裳を着ながらそんな会話を交わしてから、またみんなが着替えに向かう。
あちこちで旅をして手に入れた民族衣装等の他にも色んな服を集めているのだ。巫女服であるとかセーラー服であるとか……前にみんなに幻影で見せたら実際にデイジーの店に発注して入手するところまで話が進んでしまったという。デイジーも仕立て屋として興が乗ってしまって非常に乗り気だったのだ。
そうして戻ってきたみんなはまた色々と装いを変えていた。
「落ち着いた印象で動きやすいですね」
と、ブレザーを着て微笑むのは髪を結ったエレナである。楽しそうに片足を上げて一回転していて、どうやら気に入った様子だ。
「私も、その服は好きですよ」
ウェイトレス風の姿をしたグレイスが微笑む。
二人とも似合っている、な。ブレザーやセーラー服に限らず、どんな職業の人が着る服かというのは説明してあるので、グレイスはトレイを片手にお茶を淹れてくすくすと笑ったりと、ウェイトレスらしさを出して楽しんでいるようだった。
アシュレイがナース服を選んでいたり、ローズマリーが秘書風のスーツを着ていたりと……チョイスの時点で似合っているというか。髪型も衣装に合わせて普段とは変えているのも相まって結構な嵌りようだ。
こんな職業の人は日本ではどういう服を着るのかと聞かれてそれに答えていったという経緯もあったりするのだが、実際衣装を作るとなった時に当人達の希望や興味も混ざっているのだろう。
浴衣姿のクラウディアに、忍者姿のシーラ、巫女服を着たマルレーン。鼓笛隊風のイルムヒルトに、マジシャン風バニーガールの出で立ちをしたステファニアと……中々に眼福である。セラフィナも小さいサイズであるがセーラー服を着ていたりして楽しそうだな。
そんな調子で、みんなとの時間はのんびり過ぎていくのであった。




