番外811 魔界の鉱石
メギアストラ女王から、セワードの仲間達――ミネラリアンがアレキサンドライトを入手したと通信機に連絡が入ったので魔王城へと向かった。
「既にセワードと共にミネラリアン達も到着していてな。広間にてテオドール達を待っている」
メギアストラ女王と顔を合わせて挨拶をするとそんな風に教えてくれた。
「ミネラリアンは魔王国の所属ではないと聞きましたが」
「そうだな。だがまあ、住む場所や暮らし方が他の種族と違うから余り交流の必要がないというだけで、敵対的というわけではない。長老とも言葉を交わしたが、今後とも友好関係を維持していけたらと言っていた」
確かに、ミネラリアンは生活環境が地底で食生活にしても他の種族とはかなり立ち位置が異なる。独立独歩の種族になるのは分かる。
それでも今回の事には感謝しているという話だ。良い面でお互いにこれまで通りの立場を尊重できればと、確認し合ったそうだ。今回の事を機に、何か困った事があれば互助できればそれが最良だろうとの事で。
「同盟というのとも少し違うが、それでも隣人が友好的であるのなら言う事はないだろう」
「隣人が友好的というのは、ルーンガルドと魔界でもそうですからね」
「確かに」
メギアストラ女王とそんな内容の話をしながら魔王城の広間に向かうと、俺達の姿を認めたミネラリアン達が一礼をしてくる。
「おお。これは……テオドール殿。セワードを助けてくれた事、感謝しますぞ」
そうして顔をあげ、ミネラリアンの長老が俺を見て言ってくる。
「こちらこそ。セワードさんが色々記憶していてくれたお陰で、ベルムレクスの性質を事前に推測する事が出来て大変助けられました」
と、俺からも長老にそんな言葉を返す。
「身動きができずにいただけ、だ。実際テオドール達が来てくれなければ未だにあの場に囚われていたと思う。改めて礼を言う」
セワードが改めて一礼し、その言葉にミネラリアン達も目を閉じて頷き、同意を示してくる。
ミネラリアン達は……身体と鉱物や結晶が一体化したような姿をしている。
頭部から髪のように結晶が伸びていたり、腕や足、肩あたりに鉱物や結晶体が覗いて鎧のようになっているという出で立ちをしているが、それぞれ色や形が異なっており、同じ種族と言っても割合個人差が大きいという印象だ。
そうした違いは人間で言うところの髪型と髪色、瞳や肌の色の違いといったものに相当するのだろうが、アメジスト風だったりエメラルド風だったりと……総じて鮮やかな色合いだ。
ミネラリアンの長老はと言えば、明るいオパールのような複雑な色合いの鉱物型である。若いミネラリアンは透明度が高く、歳を取ると透明度が下がるのだとか。それを除いても、長い眉毛やヒゲのように口元を覆う鉱物に長老らしさがあると思う。
「早速ではありますが……確認して頂きたい。お探しの石です」
そう言って長老が仲間に視線を向けると石作りの箱が手渡される。長老が蓋を開けると、そこにアレキサンドライトの原石があった。差し出されたそれを手に取って見せてもらう。
「これは良いですね。質が良さそうですし、探すのは大変だったのでは」
表面は加工されていないのでまだ宝石といった風情ではないが……加工前から透明度が高く、仕上げた時に宝石になるであろう部分に魔力を通して見てみれば亀裂等も無い。原石の時点でも良いものだと分かる。
「こうした鉱物の鉱脈を探したり、その中から透き通ったものなどの位置を探すのは、一族の得意とするところです。恩を多少なりともお返しできたのなら幸いです」
「勿論です。ありがとうございます」
「嬉しく思います」
と、エレナと一緒にお礼の言葉を伝えると、長老も口元に笑みを浮かべて頷いているようだった。
「それと……地上ではこうした石は珍重されたり興味を引く物と聞きましたのでな」
「話の種になればと、手土産を持ってきた」
ミネラリアン達がテーブルの上に色々な鉱物の原石を並べてくれる。表面の不純物は最初からミネラリアン達が取り除いてくれているようで、色とりどりの原石なので……見ていて中々に面白い。
「こっちは宝石にするにはあまり質の良くないものだが、魔力は十分に保有している。コルリスとアンバーは気に入ってくれるだろうか?」
と、樽に収まった鉱石を持ってきてくれるセワードである。色々鉱石を集めてくれたようで、コルリスとアンバーはお礼を言うようにこくんと大きく頷いてセワードから鉱石を受け取っていた。
「ふふ、コルリス達も嬉しいと言っているわ」
ステファニアが五感リンクを使って通訳すると、セワードも嬉しそうに頷いた。同じ地底の住人ということで親近感があるのかも知れないな。
というわけで、色々な鉱物の結晶を見せてもらう。透き通るような緑。赤いもの、鮮やかな青、紫……。グラデーションのかかった細い結晶が花のように広がったものであるとか、鉱床に絨毯のように張り付いたものであるとか……。
「自然の結晶の状態でも綺麗ですね」
「そうだね。ルーンガルドにはない石もあるみたいだけれど」
浮遊石等はその最たるものだろう。淡い光を帯びた……白と薄い水色のグラデーションという色合いの結晶だ。マルレーンが魔力を流し込んで宙に浮かばせ、にこにことした笑顔を見せる。
浮遊石はそれ自体だけでなく、周囲にも浮遊の効果が広がるらしい。浮遊石の結晶が多く含まれる鉱床等は、魔界の環境魔力の濃さもあって、大小の浮遊島となって魔界のあちこちに浮かんだりもしているそうな。セラフィナが浮遊石に乗ったり、シーラが浮遊の効果範囲に手を入れたり出したりして感覚を楽しんでいたりする。
「ふふっ、面白いね」
「ん。これは楽しい」
頷き合うセラフィナとシーラである。
「他にはどんなものがあるのですか?」
「ルーンガルドに無さそうな金属って言うとこれもかな」
アシュレイの言葉を受けて手に取ったのは鈍色に輝く……バラのような形の結晶だ。図書館で調べ物をした時に面白い性質を持っているので気になっていた。少し魔力を帯びているが、ここから魔力を操作して纏っている魔力を除外してやると結晶が溶けて液体金属になった。
「ああ。それがメタルフラワーね」
と、ローズマリーもそれを見て興味深そうに覗き込んでくる。
「うん。元に戻してみる?」
「試してみるわね」
その場を譲ると、ローズマリーは割合楽しそうに液体になった金属に手を翳して魔力を込める。すると――魔力に反応してバラの形の結晶に戻って行った。
融点が保有する魔力の多寡によって変わるという……中々に面白い性質を持った金属だ。
「メタルフラワーに関しては、術式で制御してやると凝固した際の形を変える事ができる。それを利用して装飾品に見せかけた鍵を作ったり、護身用の道具にするだとか、色々利用が可能という話は聞いたな。まあ……強度も魔力保有量に依存するので武器にするのは使いにくいという話だが」
メギアストラ女王が教えてくれる。
「そのままでも観賞用や遊具として十分に面白いですが……中々研究のしがいがありそうですね」
実際メタルフラワーは観賞用として人気があるのだとか。
液体金属というと有害なイメージが多いが、メタルフラワーについては毒性を示さないし人体に吸収される事もないという話だ。
浮遊石と言いメタルフラワーと言い、魔界の鉱石資源は面白い物が多いな。
「気に入って頂けたなら何よりです」
長老が言う。手土産代わりなので俺達が受け取ってくれたら嬉しい、との事だ。ともあれ、これで指輪の素材も無事に手に入ったからな。ビオラにしっかり加工してもらうとしよう。




