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番外807 魔界の住民と迷宮探索

 オレリエッタがマジックサークルを展開。紫色に薄ぼんやりと光る球体がオレリエッタの掌の上に浮かぶ。


「少し待ってね。今、仲間の魔力と、環境の魔力を探知条件から除外してしまうから」


 オレリエッタが更にマジックサークルを展開する。球体中心部の核と思われる輝きが俺達に向かって引っ張られるように形を歪ませるが――すぐに落ち着いて元通りになった。

 マジックダウザーという術で……闇魔法に属する探知術らしい。魔界での作戦会議をした折、こんな術がある、とは聞いていた。

 ベルムレクスの痕跡を追う上で、闇魔法の探知術となると呪法によるカウンターが危険過ぎるので使えずにいたが、宵闇の森での索敵には便利だろう。


 そして探知条件からの除外、か。

 闇魔法には精神感応や精神操作の術も多いし、呪法に通じる部分もあるからな。術者と術式が繋がっているから、一度認識してしまうことで探知条件から除外する、という事が可能なのだろう。環境魔力の濃い魔界の術である事から、同様に宵闇の森でも機能すると思われる。


「これはどういう術なのだ?」

「知り合いから教えてもらった、魔力の反応を感知する術だな。魔物、魔法生物、魔法系の道具や罠に対応していて、光り方、動き方で対象の種類、方角と距離を特定できる。探知範囲も細かく調整できるが……情報の読み取りは経験が必要かも知れない」


 ルベレンシアが首を傾げると、ブルムウッドが答えた。

 ブルムウッドが一度兵士を引退した折に、知り合いの魔術師が餞別として生活や狩りに便利な術を収めた魔術書をくれたそうで。ブルムウッドは適性が無かったためにこの術は使えなかったそうだが、オレリエッタの魔力資質は合っていた、との事である。


「便利そうな術よね。事前の情報で認識していれば、特定の対象物の位置も探れるのではないかしら?」


 闇魔法という事もあり、ローズマリーも興味があるようで。ダウザー……ダウジングと言うのならそうなのだろうな。


「条件に合致した失せ物を探すのにも使えるわ。実際、それでお金を稼いだ事もあるし」


 と、オレリエッタが笑みを見せていた。

 というわけで索敵に関しても問題が無さそうなので、オレリエッタを先頭に、宵闇の森の小道を進んでいく。索敵役であるオレリエッタを守る為にルベレンシアが続き、ヴェリト達が続く。その後ろにアルディベラ。殿はブルムウッドという隊列だ。


 ディアボロス族の面々は翼があるからか、槍やレイピア等の、リーチのある刺突武器を得意としているようだ。地に足を付けて歩いてはいるが、翼にも魔力を込めて何かあれば瞬時に飛び立てるように準備を整えているらしい。


 アルディベラに関しては人化の術を使ったままではあるが……迷宮に潜るという事で、メギアストラ女王が乗り気になって装備を貸し出してくれたのだとか。ギガス族用の鎖帷子とその上に羽織るサーコートといった装備だ。防具はともかく武器に関しては人化の術を使っていても困らない、との事だ。但し、広い範囲への攻撃が多くなるので前衛でなければ後方等を志願したとの事だ。

 アルディベラ同様、ルベレンシアも素手だが、仕込まれた爪や尾がそのまま武器になるところがあるからな。


 と――少し進んだ所でオレリエッタの探知魔法に反応があった。


「捕捉したわ。魔物の反応。正面の曲がり角、突き当りと外側の草むら――いえ。この反応ならもう見えている距離の、はず」

「てことは――茂みに潜んでいるか。或いは出没する魔物からすると、あの草むら自体がって可能性もあるな。こっちの接近も……認識されてるだろうな」


 魔物に察知されないように声のトーンを落としつつオレリエッタの言葉にヴェリトが答える。

 宵闇の森に出没する魔物は植物系とキノコ系、それに獣系と昆虫系といった所だ。そうした事前情報は伝えてあるので、こうしたオレリエッタやヴェリトの分析は正しい。俺達は付き添いなので、少し離れた位置をついていくだけで、いざ迷宮に降りてからは助言や助力等は自重している。ブルムウッド達のお手並み拝見といこう。


 全体に情報共有をしつつも歩みの速度を変えず――そして曲がり角の近くまでやってくる。間合いに踏み込んだ瞬間、茂みが体勢を変えて飛びかかってきた。キラープラントと呼ばれる魔物の亜種で、ミミックプラントと言われる種だ。

 キラープラントに比べると枝葉の量が多く、擬態能力は高いが、その分攻撃能力は通常のキラープラントより劣る。宵闇の森の軽い洗礼、挨拶といった所だ。


 が、奇襲を予期していた為にオレリエッタが後ろに飛び退り、正面から突っ込んできたミミックプラントにルベレンシアが対応する。


 振り下ろされる葉は端が尖っており、勢い良く振り抜かれれば裂傷を負う。ルベレンシアは正面から受け止めると地面に叩きつけるようにねじ伏せ、ミスリル銀の爪を展開。胴体に突き刺して二つに引き裂いてしまう。


 曲がり角の外側。横合いから突っ込んできたミミックプラントには、オレリエッタと入れ違いになるようにヴェリトが地面すれすれを飛んでいき――払い上げるように闘気を纏った槍が弧を描く。掬い上げられたミミックプラントが空中に舞い上がる。


 遠距離攻撃の手段を持たないミミックプラントは空中で手足をバタつかせるが、はっきり言えば無防備だ。そこを旋回したヴェリトが闘気の刺突を見舞い、正確に胴体を貫いていた。その手並みにブルムウッドが静かに頷く。


 奇襲してきたミミックプラントとの戦いは一瞬だったが、遅れて森の茂みの奥がざわつく。戦いの気配を察知したウィスパーマッシュ達が一息遅れて動き出したのだろう。ぶつぶつと呟くような声が聞こえてくる。


「私の右手の茂みの奥――! ウィスパーマッシュ!」


 オレリエッタが探知魔法を働かせて言うと、それにアルディベラが応じる。


「右……。囁き声の出所は――あの辺りか」


 アルディベラは右腕に闘気と魔力を集中させたかと思うと、それを振り被る。振り下ろされたアルディベラの右腕が元の形に変化して、ウィスパーマッシュのいると思われる茂みを叩き潰していた。地面を揺るがすような衝撃と音とが響き――纏った魔力を霧散させて右腕を引き戻した時には、ベヒモスの腕は人のそれに戻っている。

 ウィスパーマッシュの眠りの魔法……囁き声は――もう聞こえない。


「これはまた……」


 と、ボルケオールが目を瞬かせているが。

 人化の術の部分解除とは、また面白い術の使い方をするが……。その実は力技に属しているようだな。

 どうやらアルディベラは種族特性というべきか、術式を弾くような魔力の使い方をする事ができるようだ。幾つかの術も器用に使いこなすあたり単なる巨獣とは一線を画すと分かっていた事ではある。


 ともかく、対魔法の技を自身の発動した術に応用する事で一部分だけ人化を解除して攻撃に転じるという使い方をしているのだろう。

 なるほどな……。これなら……確かに武器がなくても危なげがないというか、寧ろ邪魔になる。元の身体の強靭さがそもそも竜に比肩するからな。


「人化の術は便利だが、戦闘能力が落ちるという話だったからな。我らならその弱点も補える」


 と、笑うアルディベラ。本人の反応や魔力の流れ、生命反応の輝きを見る限り……問題はないようだな。ベヒモス特有の技である以上、他に例もない。後で循環錬気を使って調べさせてもらえればより安心だろう。

 当人にその事を伝えると「それは助かるな。では、後でよろしく頼む」と、笑っていた。


 ともあれ、ヴェリト達もルベレンシアもアルディベラも危なげがないな。


「この分なら大丈夫そうだな。まあ、油断せず、不利な状況を作らないってのも大事だし、知らない魔物ばかりってのは確かだ。戦力差はともかく、剥ぎ取りと探索は気は抜かずにいこうか」


 油断は大敵だが、それもブルムウッドが注意喚起すると一同真剣な表情で頷いていた。この分なら今回の探索は、俺達の支援を必要とせずに進めていけそうだな。

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