番外806 魔界の住民と宵闇の森
「いってらっしゃい、お母さん」
「うむ。行ってくるぞ」
まずは訪問してきたアルディベラ、エルナータと合流する。これで今回迷宮を攻略する面々――ブルムウッド達とルベレンシア、アルディベラと揃ったわけだ。ボルケオールとカーラも迷宮見学に付き添う。
「ラスノーテやみんなと一緒に、お城で待ってるね」
と、アルディベラを見送るエルナータが微笑む。隣にはラスノーテもいて、シオン達とカルセドネ、シトリアも一緒だ。そういった面々にアルディベラも相好を崩す。
「そうだな。娘と一緒に遊んでいてくれると嬉しい」
「私も、エルナータが遊びに来てくれて嬉しい」
そんなアルディベラの言葉にラスノーテがこくんと頷いて、エルナータと手を取り合って微笑む。
「一緒に遊戯室で遊びましょうか」
「うんっ」
と、シオンの言葉に笑顔で応じるエルナータ。カルセドネとシトリアも一緒という事で、年少組は色々楽しそうだ。
そんなわけでブルムウッド達と共にまずは工房へと向かう。
「宵闇の森は、炎を嫌うという話であったな」
移動中にルベレンシアが言う。
「そうだね。炎の吐息を使ったりすると、集中攻撃を受けるかも知れない」
「ふむ。まあ、状況に応じてこちらに注意を引くという事もできるか。とはいえ、新しい身体になったばかり故、慎重に動く事を忘れぬとしよう」
そう言ってルベレンシアは真剣な表情を浮かべる。あまり竜らしからぬ考え方かも知れないが一度はベルムレクスに敗れた、という経験が考え方に影響を及ぼしているのだろう。勿論、新しい身体になった以上は、それは正しい選択だと思うし、そうして慎重になってくれるのはこちらとしても安心である。
「まあ……我としては竜としての力よりもどちらかというと武芸であるとか、そういった物が気になっていてな。皆の動きも参考になりそうだと期待している」
色々と……人間に興味津々といったところだな。そういう意味では翼を持っているディアボロス族の武芸等はルベレンシアにとっても参考になるかも知れない。
それに性格も目的も、イグナード王達に合うかも知れないな。
そんな会話を交わしつつ、工房へと向かうとアルバートが俺達の到着を待っていてくれた。
「やあ、テオ君」
「うん。アル」
と、そんな調子でアルバートと軽い挨拶を交わす。
「頼まれていた魔道具は出来ております」
タルコットがテーブルの上に人数分の魔道具を並べてくれた。
魔石がはめ込まれた銀色のメダルの表面に紋様が刻まれている。眠りの魔法を防ぐ単一機能の魔道具であるがシンプル故に構造もしっかりしていて頑丈そうだ。銀という素材自体も浄化の性質があるので、眠りの魔法に対抗する魔道具の素材選びとしても相乗効果が高い。
メダルに刻まれた紋様魔法も……魔石の嵌っている表側に構造強化。裏側に術式強化と……装飾と性能向上を兼ねていて、実用的ながらデザイン性も確保している。冒険者好みの作りかも知れないな、これは。
「これはタルコットが?」
尋ねるとタルコットが頷く。
「不肖ながら。シンディーと共に担当させて頂きました」
素材選びに魔石の加工。その辺の事を二人で進めたらしいが。実用性を第一にしつつデザイン性も考えている点。諸々良い仕上がりだと思う。
「良いね。実用性も意匠も良い感じだ」
「そう言って頂けると自信が湧くというものです」
俺の言葉にタルコットが穏やかに笑い、シンディーと共に微笑み合う。
タルコットとシンディーの魔法技師としての力量もしっかりと高くなっているようで。最近はすっかり落ち着いた印象のあるタルコットである。
というわけでそれぞれメダルを身に付ける。首飾りの魔道具であるが、アルディベラのものだけ少し特殊だ。
クリップで挟むタイプの髪留め型で、人化時と解除時、双方対応している。人化の術を使っている間は髪飾り。ベヒモスの姿に戻った際は髪留めならぬ鬣留めにできるという仕様だ。まあ……ベヒモスの巨体に眠りの魔法をかけるのはウィスパーマッシュでは射程距離等の都合上難しいだろうが。
「おお。これは良いな」
笑って魔道具で髪を束ねるアルディベラである。
さてさて。そんなわけで工房での準備を整えたら魔界の面々と迷宮へと向かう。
「こうして普通に迷宮入口から内部の区画へ向かうのも久しぶりな気がしますね」
神殿から螺旋階段を降りて入り口前の石碑に向かっていくと、そう言ってグレイスが微笑んだ。
「何と言いますか、懐かしいような気もしますね」
「確かにそうかも知れない」
管理者代行になってから、普通に迷宮内を移動する必要も無くなっていたからな。こうして階段を降りて石碑から宵闇の森に飛ぶというのも……アシュレイの言うとおり、少し懐かしいような感覚があるな。
決定的に違うのは、俺達が案内する立場、ということだろうか。
パーティーの人数によって必要な転界石の量が変わったりするので、本来なら俺達がまだ行った事のない区画に連れていくと制限人数を超えて転界石の使い勝手が著しく悪くなったりしてしまうのだが……そこは代行者権限で迷宮のシステムに干渉させてもらう。
石碑の前に立ち、マジックサークルを展開。人数制限部分に干渉し、俺達と魔界の面々と合わせて制限人数内という扱いにしてもらう。まあ、迷宮側である俺達は移動にも転界石に頼らなくてもいいので頭数に数えない、という事で。
「それじゃあ行こうか」
「ああ。準備はできている」
ブルムウッドの返答に頷き、石碑を起動させる。光に包まれて――そうしてそれが収まった次の瞬間には宵闇の森であった。
ぼんやりとした靄のかかった、暗い森。木々の間に作られた小道に、所々フェアリーライトが幻想的な光を放っている。
「陽光対策の魔道具は切った方が良いな」
ブルムウッドが言うと、ヴェリト達も頷いて魔道具を操作する。
「どうかな。見える?」
「ああ――。靄がかかっているから見通しは良くないが……これぐらいなら問題はない」
「同じく」
ブルムウッドの言葉にアルディベラとルベレンシアも頷く。どうやら魔界の面々は問題無さそうだ。ルベレンシアの視覚に関しては最初から調整が利く仕様であったりするが。
「ここが宵闇の森……ですか。ふむ。中々居心地が良さそうな場所ですが」
「フェアリーライトが綺麗ですね」
ボルケオールとカーラは今回付き添いの見学なので割とマイペースな印象だ。ボルケオールの反応は中々に個性的だが、キノコ系の魔物も多いのでファンゴノイドにしてみると逆に良い環境の証左なのかも知れないな。
「では、わたくし達は暗視の魔法を使わせてもらうわ」
そう言ってローズマリーがみんなに暗視の魔法と睡眠術式対策の闇魔法――サイコフィールドを施していく。
俺からもそこに一定以上の強い光を遮断する闇魔法のフィールドを重ねがけする。これにより、暗視の術の弱点を補うわけだ。強い光による目潰し等を防止する事ができる。
「さて。それじゃ視界にも問題が無さそうだし……役割分担は事前の打ち合わせ通りにだな。まずは転界石を集めつつ石碑や階段を目指すという事で」
「ああ。分かった」
「よかろう」
ブルムウッドの言葉にヴェリトやアルディベラが反応する。
「私が索敵を行うわね」
「我がすべきはオレリエッタの護衛であったな。いざとなれば翼の内側に逃げ込むがよい」
「ええ、ありがとう」
と、ルベレンシアの隣に立つオレリエッタである。さてさて。ブルムウッド達も役割分担も決めて準備万端といった様子だ。俺達は付き添いというかボルケオールとカーラの護衛なのであまり危険もないのだが、久しぶりの宵闇の森という事で、色々見学させて貰おう。




