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番外803 航海配信

「――というわけで、こちらからも現在位置は把握しています。航行速度等から計算して予定を合わせるのはそこまで難しくはないかと」


 と、ドロレスが静かに言うと、ヘリアンサス号の船長も穏やかに笑って応じる。


『承知しました。外洋に出る際等、何か変化がある時の中継を行えるようにしたいものですな』

「お手数おかけします」


 俺からもそう言うと、船長は笑って応じる。


『いやいや、船の航行にしても全体的な負担は減っておりますからな。帆を張ったり畳んだりする必要がない分、その代わりに行う仕事と思えば楽しいものです』


 と、そんな調子でドロレスと共に船長と通信機越しにやり取りを交わす。明日以降の映像配信についての打ち合わせだ。ドロレスも船が完成して手は空いたが航路開拓の仕事には携わりたいと、映像中継の企画について関わる事になった。


 組み込まれた魔道具についても詳しいので、ヘリアンサス号としてもドロレスが通信で関わってくれる事は心強いのではないだろうか。


 航行映像については船長も触れていた通り陸地から離れて外洋に出るタイミングであるとか、無人島や浮島の拠点への到着、目的地である東国の陸地が見えてくるタイミング等、予想される出来事の中継と記録をする、という事になった。船の現在位置も分かるので数日前には到着予想時刻の告知もできるだろう。


 その他にも船員の船での仕事ぶりや食事、料理等の日常生活、甲板の様子等、少しずつ種類ごとに分けて配信できる余裕のある時にしてもらう。


 メルヴィン王達からは航行の様子を見るのなら記録媒体に録画してあるものでも大丈夫、との事だ。というのも開拓船に何か指示したり干渉したりするわけではないので、リアルタイムである必要はない、という事だろう。


 そんなわけで本当に航行の様子であるとか、船員の生活を見る事のできる気軽な企画、という事になりそうである。どんな場面を配信したら盛り上がりそうか、船長とドロレスは楽しげに打ち合わせを行っていた。


「ああ。それから……水晶板からの通信は何時でも大丈夫ですよ。ドロレスさんも対応してくれますが、ティアーズ達が水晶板の前で待機してくれているので、気軽に連絡してきて下さい」


 その打ち合わせも一段落したところで、ドロレスの仕事を手伝ってくれる担当職員という事で、3体の改造ティアーズを船長に紹介する。

 1体が水晶板前で待機。残りが交代兼連絡要員だな。消耗したら魔力補充をしつつ、残り2体のどちらかに交代可能な体勢を取っている。

 仮に俺とドロレス、どちらも不在という場合でも、ある程度の期間対応できるように保険として3体目というわけだ。


 通信してきた内容を記録できるように記録媒体を置き、俺に連絡できるよう、通信機ともう一つの水晶板も配置する、と。ここまでやっておけば万全だろう。


 水晶板越しにティアーズ達が船長にお辞儀をすると、船長もティアーズ達の様子に少し驚いた後、表情を綻ばせてモニターの向こうで一礼を返していた。


「よろしくお願いしますね」


 ドロレスも笑みを浮かべてティアーズ達に握手を求めると、ティアーズ達もマニピュレーターでそれに応じる。


『ふっふ。中々愛嬌のある魔法生物の方々ですな』

「仕事もできるので信頼していますよ」

『ほほう。それは頼もしい』


 と、そんなやり取りと別れの挨拶を交わしてから、通信を切り上げたのであった。




 ヘリアンサス号からの映像配信については翌日から早速という感じで始まった。

 まずは初回ということで各国の王達に船長が自己紹介を交えつつ船内設備を見せたり、航行の様子を見せたりといった内容だ。


 水晶板越しにまず船長が挨拶とこれからの意気込みを述べ、甲板からヘリアンサス号の航行の様子を見せる。

 それから船内各所を回りつつ船員達と、開示しても大丈夫な設備、機能を紹介していく。名前と出身国。どんな持ち場でどんな仕事をしているか。最新鋭の船舶としてどんな機能、設備を搭載しているか。


 それらを記録媒体に録画して、各国の王達の都合、予定に合わせて水晶板越しに配信するわけだ。ドロレスも船の設計と建造、配信の企画立案に携わった担当者として一緒に自己紹介をしてと、初回に相応しいこれからの事に期待が膨らむ面白い内容になったのではないだろうか。


「みんなやる気があって楽しそうね」


 と、中継映像をみんなと一緒に見ると、イルムヒルトが表情を綻ばせていた。


「そうだね。見送りの事もあって船員達の士気が高いって言っていたよ」


 俺としても昨日の見送りがそうして士気向上に繋がったのであれば何よりだ。俺の返答にみんなも笑顔になるのであった。




『――ああ。船旅というのは良いですね』


 中継映像を気に入ってくれたのはオーレリア女王だ。月には海がないから航海は新鮮なのだろう。地上――東国とも親善を深められるいい機会だからと、記録媒体が足りなければ支援する、とまで言ってくれた。


 メギアストラ女王もルーンガルドの海は珍しいのでロギやエンリーカ、ファンゴノイド達共々応援しているとの事だ。


『到着が楽しみですね』

『本当ですね。中継地点まで転移港で行けるというのであれば、一足先に顔を見せに行くのもいいかも知れません』

『ああ、それは素敵ですね』


 というのはリン王女とユラの言葉だ。映像を見てそんなやり取りを交わして盛り上がっていた。ヨウキ帝、シュンカイ帝も二人の反応に表情を綻ばせつつ「到着を楽しみにしている」と言っていた。

 こんな調子で関係各国からも激励の言葉が来ていて、それらをドロレスが船長や船員達に伝えると、随分と嬉しそうにしていた。


 これら諸々が船員の士気の高さに繋がるのならそれは良い事だろう。各国とも心得たもので船長や船員達に干渉しないよう線引きをしてくれているが、こうした激励に関してはこれからもどんどん伝えていきたいところである。


 さて。ヘリアンサス号の航海については順調な様子だ。ドロレスも記録媒体の操作を覚えて、色々ヘリアンサス号の今後にも関わってくれるので俺としても動きやすい。


 そんなわけで俺達も自由に動けるので、各国に映像を届け、その足で魔界へと向かった。

 ジオグランタとの約束もあるのだが、エレナとの結婚指輪の手配をしていると知ったメギアストラ女王が、請け負ってくれたのだ。


「おお、待っておったぞ。先程の映像は中々楽しいものであった。これからも期待している」

「それは何よりです」


 メギアストラ女王が笑顔で迎えてくれる。執務ももう終わったとの事で、挨拶をかわして俺達と共にファンゴノイド達の住む地下区画へ同行すると、そこにはミネラリアンのセワードが待っていた。

 ファンゴノイド達とセワードに笑顔で挨拶を交わした後、セワードは真剣な表情を浮かべて言った。


「結婚指輪の石については――我ら一族が調達を請け負うと約束した」

「それは――ありがとう」

「命を助けてもらった事。俺も含め、一族の皆感謝している。その礼だ」


 セワードはそう言って笑みを浮かべた。セワードはベルムレクス討伐後、無事に仲間達と再会できたらしい。自分が行方不明になってからミネラリアンの里では心配もされたそうだが、新たな移住拠点探し等は上手くいっていたそうで。ベルムレクスとの顛末等をセワードが説明すると一族として俺達や魔王国に何か礼をしたいという話になったそうだ。


 そこでメギアストラ女王に相談したところ、エレナとの結婚指輪の宝石なら調達できるのではないかという話になったらしい。

 ミネラリアンはそういった鉱脈を感知するのは得意らしく、アレキサンドライトにも心当たりがあるそうで。みんなの結婚指輪と同種の宝石であれば程良い大きさのものを用意できるだろうと太鼓判を押してくれた。


「魔界の方々に指輪の材料を提供してもらえるというのは嬉しいですね」


 エレナがそう言って笑顔になるとみんなも表情を綻ばせる。確かに……エレナに関しては魔界の面々も結婚を後押ししてもらえるというのは嬉しい事だな。

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