表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1572/2811

番外801 開拓船進水式

 器も出来たということで、ルベレンシアを交えて軽くお茶会だ。

 茶を飲みながらグレイスの作ってくれた焼き菓子を齧る。

 味覚ユニットに関してもきっちり作られているので……ルベレンシアは焼き菓子を口にして目を瞬かせる。


「これは……美味いな……!」


 と、ルベレンシアは焼き菓子をしっかり咀嚼し、飲み込んでから明るい笑顔を見せてそう言った。嗅覚と味覚ユニットは人に準じるように作られているからな。竜として生きてきた中では甘味と香ばしさを感じられる焼き菓子というのは初めての感覚だろう。


 人化の術を使って宴会に参加している竜達を見て人間に興味を持ったルベレンシアとしては、早速彼らと同じような体験が出来て上機嫌という印象だ。

 マクスウェルやアルクス、それに遊びに来ていたヴィアムスのスレイブユニットも、ルベレンシアの気持ちが分かるのか、それぞれ焼き菓子を口に運びつつ、うんうんと頷いていたりする。


「ルベレンシアさんは、何かしてみたい事はありますか?」


 グレイスが尋ねると、ルベレンシアはお茶を口に運びつつ思案して、そして答える。


「うーむ。迷宮に足を運んでみたいかな。魔界の者達の宴会や歓迎でも行かなかった」

「ああ。確かに迷宮は興味があるな」


 ルベレンシアの言葉にブルムウッドがそう言って、ボルケオールやカーラも頷く。ファンゴノイドの知恵の樹やカーラの手記の内容的にも、迷宮内部の様子は面白い物に映るかも知れないな。


「僕達が護衛になった上で迷宮を見てくるのも面白いかも知れませんね」


 管理者代行でもあるから迷宮魔物の動きには制御がかけられるしな。ルベレンシアやブルムウッドは迷宮そのものに戦いも含めて興味があるようだし、ボルケオールやカーラは実際に内部を見てみたいようだから、非戦闘員の安全を確保しつつ、ルベレンシアやブルムウッド達の支援、といった事も可能だ。


 となるとどこに行くのが良いのかだが……お茶の席の話題がてら迷宮の区画についてあれこれ話をすると、やはり夜目の利く魔界の面々にとって宵闇の森あたりは良い場所なのでは、という流れになった。


「あの場所はキノコ系の魔物もたくさんいるのだけれど……どうなのかしら?」

「我らなら問題ありませんぞ。魔界にも理知を持たぬキノコの輩はおりましたが……胞子の谷に住まう我らにとっては寧ろ普通の魔物よりも厄介な立ち位置でしたからな」


 クラウディアが首を傾げるとボルケオールが問題ない、と言うように目を閉じて応える。なるほどな。ファンゴノイド達にとってのキノコ系の魔物は、寧ろ競合相手というか、住処を脅かす危険な敵という扱いになるらしい。


 そんな調子で迷宮探索の日取りなどを打ち合わせつつのんびりとお茶会の時間は過ぎていくのであった。




 さて。航路開拓船の開発と船員の訓練についても順調に進んで、とうとう進水式の日を迎えた。迷宮探索については進水式や航路開拓船の出港の見送りより後で、という事になっている。宵闇の森を探索するのなら、睡眠の術への対策装備等、少しぐらいは準備をした方が良い。その前に進水式や船出の日が近付いていたので後に回した、というわけだ。


 船員は西方の同盟各国から選ばれた者達で、グランティオスの魚人族や深みの魚人族も人員として編成に組み込まれている。

 東国との航路開拓の為に共同生活と訓練を積んできており、練度も人間関係も良好だと、ドロレスは笑顔で太鼓判を押していた。


「私達としては、テオドール閣下が準備して下さった魔道具の数々を心強く感じております」

「我らの安全に配慮して下さっておりますからな。有難い事です」


 造船所に顔を出し、積み込む予定の物資の確認等、進水式が始まる前の準備を見学していると、開拓船の船員達も笑顔でそんな風に言ってくれた。


「それは何よりです。出港にあたって僕から言える事としては、航海中に危険に遭遇した場合や、航行が難しくなるような問題が起こった場合、船員の命を重視して欲しい、という事でしょうか」

「承知しております。安全な海路であると確認する事も目的の一つですからな」


 船長のその言葉に、心得ているというように真剣な表情で頷く他の船員達。心構え等、諸々安心だな。


 そうこうしていると積荷の目録確認も終わり、航路開拓に関わる各国の王――グランティオスのエルドレーネ女王やグロウフォニカのデメトリオ王、ガステルム王国のコンスタンザ女王、それにローズマリーの伯父であるバルフォア侯爵を始めとした重鎮達も造船所に姿を現す。魔界からメギアストラ女王も見学に来てくれて、ティエーラ達やジオグランタも一緒だ。

 船員達が整列して王達を迎え、王城の楽士隊が高らかに音楽を響かせて、進水式が始まった。

 俺も東国との航路開拓計画を最初から進めていた立場として、挨拶をさせてもらう。


「今日は――こうして無事に進水式を迎え、そうそうたる顔触れにもご臨席頂き、誠に嬉しく思っております。この計画を立案した身としては東国への航海が首尾よく運び、東国と海路を通した交流が深まる事を望んでおります。此度の船旅と勇気ある船員達が精霊の加護と幸運に恵まれますよう」


 そう言って一礼すると拍手が巻き起こった。挨拶の中での言葉ではあるのだが、ジオグランタと一緒にティエーラ達も姿を見せているので、高位精霊達が頷くのに合わせて船が薄く燐光を纏ったりと、実際に加護を受けているようであるが……まあ、良い事なので問題はあるまい。


「かつては東西を別つように広がる魔力溜まりによって交流どころか存在すらも互いに知らずにいたが……飛行船とテオドール公の功績によって我らは出会い、そして絆を深めた。余も、この航路開拓が将来の平穏の礎となる事を願っている」


 メルヴィン王の挨拶。それから船長やドロレスも俺に続いて挨拶をし、その度に列席者から拍手が起こる。グロウフォニカから出向してきた造船技術者という事でドロレスの挨拶も中々に興味深い内容だった。船に使われている技術。新しい魔道具。そういった物を丁寧に説明して航路開拓船の素晴らしさを各国の王達に説く。



「――といったわけで、船には様々な先進技術が惜しみなく用いられ、船員達の無事を祈る境界公の想いが伝わってくるものなのです。では、テオドール公。航路開拓船の名をお願いします」


 と、ドロレスが拍手に一礼して俺に再び場を譲ってくれる。

 船を命名してから進水という事で……計画を初期から立案した俺に命名して欲しいと話が来ている。既に名前は決まっていて、開拓船の両舷にも布がかけられて船の名前を隠してある状態だ。


「ヘリアンサス号、と名付けました」


 ヘリアンサス。ヒマワリを意味する言葉というか、ヒマワリの仲間としてもそういう名前の種があるというか。東――太陽の昇る方角へ向かう船という事で、ヒマワリの名を冠する船ということになる。


 船を覆う布が除かれ、船名が露わになるとまた一際大きな拍手が巻き起こる。


「ヘリアンサス号か。良い名だな」


 拍手が収まったところで名前の由来と共に説明すると、メルヴィン王や船員達も相好を崩して頷いてくれた。名前が付いたところでいよいよ進水だ。

 開拓船と岸壁を繋いでいるロープを切れば――それを合図に台座をゴーレムが傾けて開拓船が海に着水する。同時に連動して光魔法と火魔法の花火が撃ち上げられた。

 楽士隊が賑やかな音楽を奏でて、みんなの歓声がよく晴れた青空の下に響く。


 良い進水式だな。ティエーラによれば明日の船出もよく晴れて、見送りに相応しい日になるだろうとの事だ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ