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番外800 炎竜転生

 迷宮奥で覚醒魔法の実験を行ってから地上に戻る。

 並行世界干渉用の装置については竜輪ウロボロス同様、完成に向けて準備を進めていく事として、今は工房の仕事――炎竜の魔法生物化が控えているのでそれを仕上げていきたい。


「やあ、テオ君。待っていたよ」

「これはテオドール様」


 工房に顔を出すとアルバートが楽しそうな笑顔で俺達を迎え、カーラも丁寧に一礼する。

 今日は炎竜の身体を作っていくのでみんなと一緒に工房で作業をする予定なのだ。ファンゴノイドの面々もルーンガルドの工房側に手伝いに来てくれている。


 ミスリル銀の骨格と神経網。黒ゴーレムの筋肉繊維。顔と皮膚は樹脂と半ゴーレム化によって作製、というところまではティエーラ達のスレイブユニットと同じだ。


 炎竜としても人型になるのは面白そうという考えがあるため、ティエーラ達のスレイブユニット技術が出来上がるのを待っていた、と言うところだ。

 但しティエーラ達と違って元が炎竜という事もあり、最初から戦闘も想定した作りが良いとの事なので、色々と工夫を凝らしている。


 例えば指の骨格の作り方にしても構造的に強固なものにし、指先にミスリル銀の爪を仕込んである。有事には竜の爪を模したそれが指先から飛び出し、戦闘に使用する、というわけだ。それと……人型ではあるが元々が竜だから、翼と尾を組み込んでいる。


 それらは炎竜の元の身体に備わっていたものだからだ。元々存在しない器官であればともかく、竜であれば翼も尾も生まれた時から使い慣れている。

 竜の時とは骨格が違うので重心等のバランスも変わってくるが、そこは尾の長さやウェイトを調整するなどして、元の姿に近いバランスに仕上げる、というわけだ。


 翼や尾は人体とは違うので表皮の素材も変えて強固なものを使っていける。翼と尾を魔力変換装甲の鱗で覆ってやる事で、攻撃にも防御にも使えるようにしておく、というわけだ。色も赤く着色して、炎竜らしさを残す。


「やはり、炎竜という事でしたら髪の色も赤でしょうか」


 カーラは自分が染めた髪の色を見てそんな風に言う。仕上がりを見るサンプルなので一房染めただけだが、燃えるような鮮やかな赤毛だ。

 髪の色を見て、炎竜の魔石も喜びを示すように明滅していた。魔石生活も重ねてきているので感覚器に繋がなくともある程度意思疎通できるようになってきている炎竜である。


 因みに……カーラも炎竜を仕上げたら自分の身体の改造に移るという事で。

 顔の素材を半ゴーレム化する事で表情を出せるようにすると、今から色んな表情の顔を模索している様子だった。


「パペティア族としてはかなり画期的かも知れません。これを知ったらみんな喜ぶと思います」

 

 とはカーラの弁だ。表情は変わらないものの、握りしめた拳がその意気込みを示しているように思えた。

 黒ゴーレムの筋肉繊維も精製して増量。竜らしい密度に上げていく。

 筋肉量に関しては魔石の質――容量や出力に相談しなければならないところがあるが、その点炎竜の魔石なら十分すぎる程の容量と出力だからな。日常生活用のリミッターも組み込んであるので、普段は省エネしつつもいざという時は力も十全に発揮できる、というわけだ。


 同様にベルムレクス討伐の後始末で手に入れたゴブリン王の魔石については――魂が昇天していく際に当人が満足してしまったようで、ゴブリン王の魂は宿っていない。

 その代わり自分を打ち破ったデュラハンの事は気に入っていたようなので、その魔石を使ってデュラハンの大剣を強化する方向で使わせてもらった。


 と、工房の中庭でデュラハンが大剣を構えると巨大な光が噴き上がり、そのまま横薙ぎに一閃すれば、飛びかかっていったゴーレム達を大剣の間合いの外から一刀の下に両断していた。


「良い感じね。攻防どちらでも使えると思うわ」


 それを見ていたローズマリーの感想としてはそういったものだ。ローズマリーの言葉にマルレーンが笑顔で頷く。

 中々珍しい性質を宿した魔石で、込めた力を増幅する効果を最初から持っているようだ。剣に込めた一撃の破壊力や馬の蹴り足の瞬発力も増幅させる事ができるようで。攻防共に有用だろう。


 そんな調子で新装備での訓練も順調なようで。工房の中庭での訓練の様子を見ながら魔法生物の構築を進めていくのであった。




 骨格、筋肉繊維の精製と組み上げ、感覚器や内部制御術式の書き付け、翼と尻尾の仕上げと中枢部への魔石の格納等をして一先ずの俺のするべき仕事も終了する。外装は例によって女性型なのでフォルセトやカーラ達に仕上げて貰う、という事になる。


 そうして他の仕事や訓練をこなしつつ外装の仕上がりを待っていたが……やがてみんなの作業も完了したらしい。

 翼と尻尾があるという事で専用の衣服を仕立てる必要があったが、これに関しては事前に設計で身体のサイズが分かる為に、デイジーの店に前もって注文してある。


「髪型をいじったり服装を考えたりというのは楽しいですね」


 と、グレイスが微笑む。竜の翼や尻尾を出す構造を必要とする特注であるため、不便がないように最初から何着か衣服を注文しているのだが、その為に女性陣は色々と着せ替えを楽しんでいたようだった。仕上がってきた衣服を着せ替えたりして、みんなも上機嫌といった様子だ。


「これで炎竜の器に関しても諸々出来上がりかな?」


 アルバートが寝台の上に横たえられている炎竜の器を見て言った。内部、外装、それに衣服も一通り完成して、後は起動を待つばかりだ。


「ん。それじゃあ起動させようか」


 炎竜の魔石に刻んだ術式を起動させ、器と同調させれば起動ができる。本来なら内部構造を構築し、魔石を格納した時点で起動させる事もできたのだが、炎竜はどうせなら器が完成してからでも構わないと言っていたので……こうして全て完成するまで待っていたわけだ。

 炎竜の腹部辺りに手を置いて、魔石に刻んだ術式を動かすと、器全身に魔力が満ちて――炎竜がゆっくりと起き上がった。

 火の山を総べる女帝とも魔界では呼ぶ者もいたそうで。それに似合う、燃えるような赤い髪の美女といった風情だ。顔の造形や表情の作り方等、カーラが魔石やグレイスに色々と相談していたっけな。


「おお……。これが我が新しい器か……」


 と、炎竜は寝台から降りると自分の手を握ったり開いたり、翼や尻尾を動かしたりして、どこか感動したような声を上げていた。

 言霊の魔道具も最初から組み込んであるので、魔界の言語でも竜の言語でも翻訳してくれる。


「まず、グレイスに礼を言わねばな。操られていた我を止めてくれた事には感謝している」


 一通り自分の身体を検分してから炎竜はグレイスに向き直るとそう言って一礼する。


「お気持ちが分かるところがありましたから……。お力になれたというか、お力を頂いてしまいましたし、私からもお礼を言いたいぐらいです」

「ふふ。そうであったなら何よりだ」


 そんなやり取りをグレイスと交わした後、俺や工房の面々に向き直り、更に口を開く。


「テオドール達にもな。この器の事にしても、色々世話になった。何とも調子がいい」

「それは良かった。ああ、起きてから名前を決めたいって言っていたけれど」

「うむ。竜としての名もあったが、こうなっては生まれ変わったようなものだからな。新たな名を貰い、縁を深めるのも悪くなかろうて」


 と、炎竜は頷き、グレイスに視線を向けた。そうだな。炎竜を止めたのは他ならないグレイスなのだし、力の一部を受け継いだという縁もある。


「そういう事でしたら……」


 俺が頷くと、グレイスもまた頷き、暫く思案してから言った。


「ルベレンシア、というのはどうでしょうか。ルビーのもじり、といった感じなのですが」

「おお。たまに見るあの赤い石か。良いではないか」


 グレイスの名付けを、炎竜も気に入ったようで。カルセドネとシトリアも、同じ宝石や鉱物系の名付けという事で頷いていたりする。では……ルベレンシアに決定という事で。

いつも拙作をお読みくださり、ありがとうございます。ゴブリン王の対戦相手を過去のお話と感想欄の返信ではシーラと間違えておりました。正しくはデュラハンと戦った相手でしたので「番外774 魂の咆哮」のエピソードの内容の修正をしております。話の大筋では変わりはありません。不手際申し訳ありません。

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