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番外799 迷宮奥の実験

「――私としては今回の事で隣に世界が在ると知ることができたのが、何より嬉しいわ。何時か……遠い未来に私がいなくなってしまったら、私と共にある子達も一緒に無くなってしまって……何も残らない、なんて。そんな風に思い悩む必要もなくなった、という事よね」


 フォレスタニアに到着するとジオグランタは入り口の塔の端まで移動し、街並みを一望できる場所からそう呟く。目は閉じているが、スレイブユニットでも普通の視界と同じぐらいの範囲――つまりフォレスタニア全域ぐらいは感知できるらしい。十分広い感知能力だとは思うが、始原の精霊としては狭い範囲なのだろうとは思う。


 けれど、狭い範囲なだけに、そこにいる生命や精霊達を身近に感じられる、とティエーラは嬉しそうに言っていた。だから……ジオグランタもフォレスタニアの街中や湖底にいる人達や精霊の活動を感じているのだろう。


「その気持ちは、分かります」

「ジオは……私達より大変だったかも知れない」


 ティエーラとコルティエーラがジオグランタの隣に寄り添う。ジオグランタのその言葉は――二人も実感として分かるのだろう。


「ん……。ありがとう」


 二人の言葉にジオグランタは口元に微笑を浮かべ穏やかな口調で応えた。


 ティエーラ達も同じ悩みや孤独感のようなものを抱えていたからな。だから自分の周りの生命が力強く育って行ってくれる事を望んでいる。


 ジオグランタに関して言うなら……外の世界が在る事を知らなかったし、魔界の不安定な環境もあって、その悩みは深刻だっただろうとコルティエーラが言うのも分かる。

 だからこそティエーラより積極的に現世に関わり、魔王国と共に魔界の安定に力を注いできたのだろうし。

 直近でもベルムレクスが暗躍していたからジオグランタとしては目前に差し迫った問題として大変だっただろうな。


「しばらくは……ジオもゆっくり休められるようにしたいところだね」

『確かにな』


 俺の言葉に、水晶板モニターの向こうでメギアストラ女王が頷く。ティエーラ達もグレイス達も微笑み……そうして、俺達はみんなと一緒にフォレスタニアの城へと向かうのであった。




 ティエーラ、コルティエーラとジオグランタ。それぞれのスレイブユニットも出来上がりルーンガルドと魔界間での姉妹精霊の交流も可能になった。


 ティエーラ達もジオグランタもお互い会えるのを楽しみにしていたそうで、スレイブユニットが出来上がってからは本体とスレイブユニットを交えて行動を共にしていて、フォレスタニアの中庭や魔王城の地下――ファンゴノイド達の育てた森で仲良く日向ぼっこや散歩をしている姿が見受けられた。


 コルティエーラについては、スレイブユニットができて話もできるようになったということもあり、ルーンガルド用と魔界用に分けてもう一体作るのも良さそうな気がするが、現時点ではティエーラやジオグランタと一緒にいるのは落ち着くし、俺達と一緒にいるのも楽しいとそんな風に言って、気分で俺達に同行したり散歩したりと、スレイブユニットでできるようになった事を満喫しているようだ。


「私もコルティエーラも楽しく思っていますよ。ありがとうございます」


 と、ティエーラは笑顔でそんな風に言って、コルティエーラも表情こそあまり変えないものの、ティエーラの隣でその言葉にこくんと頷いていた。


 さて。日常の領主の仕事の他に、炎竜の魔石を核に魔法生物を作ったり、ゴブリン王の魔石を使った魔道具を仕上げたり魔界の歪みを調査する等……する事は色々あるが、俺個人としては他にも進めなければならない事がある。

 つまりは――並行世界への干渉。別の世界の俺がしてくれた事への恩を、俺自身から返す事だ。


 迷宮中枢、ラストガーディアンの防衛施設にてマジックサークルを展開。覚醒の力――金色の魔力を身に纏う。

 ゆっくりと力を練り上げ、意志と術式でそれを制御し、覚醒した場合にのみ扱える術を試してみようというわけだ。


 時間や空間に干渉する方法は、別世界の俺が並行世界と一部を繋ぐ術式を開発している。

 その術式の記憶も俺にはあるが……実際にそれを行うためには、準備にかなり時間がかかる。竜輪ウロボロスを作るにしても、干渉用の装置を作るにしても。

 だが、覚醒した俺の能力なら。その研究を前に進めやすくはできるだろう。例えば……俺の特性を与えた魔石を用意するだとか。


 勿論、気が急いて実験が本末転倒な結果を招かないよう注意をする必要がある。その為にも……自分に何が出来て何が出来ないのか、しっかりと迷宮核で予測を立てデータを取って、確かめておかねばなるまい。こうして実験を行うのもその一環だ。


「こっちの準備はいいよ」


 と、マジックサークルを展開したままヴィンクルに伝えると、こちらに向かって遠くから大きく頷いたヴィンクルが、口に光を宿す。

 閃光の吐息。但し殺傷能力は落とせるだけ落とした訓練用とでも言うべきもので……攻撃速度だけを追究したものだ。破壊の力を宿した光弾等の類ではなく、光そのものと言って良い。


「始めるわね」


 中間地点付近に立っていたクラウディアが言う。コイントスを行う。コインが床に落ち、その音が耳に届いた瞬間がお互いの動く合図だ。


 宙をくるくると回るコインが地面に落ちて、お互いの耳が金属音を捉える。同時に吐息を放ち、術式を起動させた。


 ヴィンクルが放つのは光の吐息。対する俺の術は――発動したその瞬間、俺の身体から干渉波が広がって行き、それに飲み込まれた瞬間に何もかもが凍りついたように停止する。


 俺が使ったのは時間に干渉し、時の流れを操る術。平たく言えば時間の停止や加速、減速といった術だ。


 覚醒状態の時のみ感知できる時間の流れ。それは俺の主観で捉えているだけのものに過ぎないのか、本当にあるものなのかは分からないが……ともかく感知し、干渉する事で時間の流れをある程度制御する事が可能だ。


 流れを糸のように束ねて最初と最後を繋ぐ。俺と俺の周囲以外、どこにも時の流れは動かず。また、円になって流れ続けているものだから澱む事もない。

 それは――自分の尾を咥える蛇……ウロボロスにも似ていて。自分の事ではあるのだが、だからこそ並行世界への干渉や覚醒した能力を象徴しているような印象を受ける。


 ヴィンクルの口から放たれた光すら俺に届いていない。止まっている光を横目に眺めながら回り込むという……何とも不思議な体験。

 回り込んでヴィンクルの隣まで移動したところで、術式を解くと、時間の流れが正常なものになり、壁に閃光の吐息が照射された。目標を見失ったヴィンクルが目を瞬かせ、隣にいる俺と視線が合うと、状況を理解したのか、嬉しそうににやっと笑う。


「やっぱり……時間に干渉する術が使えるみたいだね」


 俺の言葉にヴィンクルがこくんと頷いてウロボロスと共に声を上げ、我が事のように喜んでくれた。ベルムレクスと戦っていた時は覚醒したばかりという事もあって、あまり検証もできなかったからな。


「並行世界の干渉にも応用が利くかしら?」

「多分ね。同じ系統の術式だから」


 ステファニアの言葉に頷く。覚醒状態の性質を宿した魔石を作ったりして活用していけば……どのぐらいかは分からないが開発期間の短縮にはなるだろう。


「また……とんでもない術に開眼したものね」


 と、羽扇の向こうで笑うローズマリーである。

 迷宮核によれば、今の俺なら個人で扱える規模なら発動と制御も可能と、試算の答えが出ている。その為の実験ではあるが暴走させたり、間違った使い方をしないように気を付けたいものだ。

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