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148 魔物娘達の望み

 予想外の妖精達の参加もあり、花見の席は中々の盛況に終わった。

 次の封印の扉の解放はまだ先の話。順番的には魔光水脈の封印の扉という事になるだろう。扉の場所も分かっているし、しばらくはゆっくりしていられる余裕がありそうだ。

 まず体調回復と花見の準備があって後回しになっていた事から始めようと思う。


 工房の中庭にクレイゴーレム、アクアゴーレムと……素材の異なるゴーレムを並ばせる。


「また何か始めるのかい?」


 アルフレッドの方も作業が一段落したらしい。中庭に顔を出して、その光景を見ると、首を傾げて尋ねてきた。

 彼は今は警報装置を作っているところだそうだ。今度は時限式。必要な時間帯だけ魔石をセットしておける仕組みを作ることで、結界を越えて敷地内に立ち入ると警報が鳴るという。前回よりは割合簡易化された仕組みなので……まあ、夜間警備のお供という感じである。


「んー。ちょっと覚えたい技ができてね」


 ガルディニスの使っていた打法の習得だ。

 アルフレッドが見てどう思うかは分からないが……何が参考になるかは分からないので見学していってもらおう。

 今日はフォレストバード達も装備のメンテナンスに顔を出していて、みんなの訓練の様子や俺の始めた事を興味深そうに見ている。


 クレイゴーレムの後ろにアクアゴーレムを並べて、正面からクレイゴーレムの頭部に手を添える。深呼吸を1つ2つとして、そのままの姿勢から魔力を打ち込んだ。

 同時に、アクアゴーレムの後頭部が弾ける。うん。内部にダメージを通すと考えれば、まあまあの威力だ。


「魔法……じゃないですよね? 何ですか、今のは」


 フォレストバードのルシアンが首を傾げた。


「魔力操作法の応用かな? 武技に近いかも。でもあまりうまくいってないな」

「というと?」

「クレイゴーレムの後頭部にも若干の被害が出てる」


 と言って、指を差す。クレイゴーレムの後頭部に変形が出ている。個人的には前に置いたクレイゴーレムは全くの無傷。後衛のアクアゴーレムだけにダメージ、というのをやりたかったのだが。


「どっちにしても正面は無傷なんだね」

「相手の魔力を利用して衝撃を伝播させるって技だからね」


 アルフレッドは感心した様子でゴーレムを眺めている。

 ガルディニスは錫杖からでも同様の技を放ってきた。技の精度を上げるのもそうだが、とりあえず最初に目指すべき所はあそこだろう。手足や武器を問わず。戦闘中のどんな場面からでも。そして呼吸するようにこの技を使えるようにというのが第一目標だ。


 あいつはシールドの向こうにいる俺にダメージを与えるためにこの技を使ってきた。となればこういうのも可能だろう。

 左手でシールドを展開。それをゴーレムに押し当てたまま、空いた右手で内側からシールドを叩く。衝撃が伝播してクレイゴーレムに亀裂が走った。


「……マジックシールド越しに攻撃できるっていう事かな。面白いなあ」

「鎧を着込んでいる奴を、外側から殴って昏倒させたりとかね」


 その言葉に、フォレストバードの中では比較的重武装なフィッツが首を竦める。


「重い鎧や盾が役に立たないとか……。鎧を着込む割に合わないよなぁ、それ」


 うん。俺としてもシールドやプロテクションが無効化されるのは困るので、対策を考えたいところではあるのだ。使えるのがガルディニスだけだと思うのは楽観が過ぎる。実際俺だって盗む事ができているのだし、技術であるのなら余人に伝える事が可能だ。こうして自分で使う事で見えてくる部分もあるだろうし。


「対策としては、攻撃を受けない事?」

「まあ、それも1つの手だろうね」


 防御より回避を重視するシーラとしてはそういう結論になるようだ。俺としては同種の技での相殺を攻防の中に組み込むというのを考えているが。


「魔道具に組み込むのは難しそうだ。テオ君の制御能力あってこそのものだよね」

「術式じゃないしなぁ」

「いずれにせよ、テオドール君が前より強くなったという事なのね」


 モニカがどこか遠い目をして言うと、みんなして何か納得するように頷いている。何だかな。みんなで同じようなリアクションをするのは止めてもらいたいのだが。 


「魔道具と言えば、フォレストバードのみんなはどうなの? 空中戦装備は使いこなせそう?」

「重宝してるよ。魔物に囲まれそうになった時とか、引き付けるだけ引き付けて上に逃げてルシアンとモニカに魔法と矢を撃ち込んでもらったりさ」


 ロビンが答える。迷宮探索でも役に立っているようでなによりである。こっちの考案した道具を使いこなせる応用力が十分にあるのでモニターになってもらっているところもあるからな。

 魔道具の使い勝手などを聞きながら打法の練習、みんなの訓練などを並行してやっているとギルド長のアウリアがやってきた。


「おお、やっておるな」

「どうも。こんにちは」


 花見の時、少し俺と話をしたいからという事で、今日会うという約束をしていたのだ。後で俺の方から顔を出すとも言ったのだが……アウリアは自分から出向くと、こうして工房に足を運んできたわけである。


「この前の事件、ギルドの方に被害は出なかったですか?」

「ギルド本部と神殿の方角へは、侵攻する前に連中力尽きておったようでな。その点、改めて礼を言わせてもらおう」


 と、この前の教団の時の話をすると、アウリアは真剣な表情で頷き、頭を下げてきた。


「いいえ。それは何よりです。どうぞこちらへ」


 工房の中にある、応接室へとアウリアを通す。

 すぐにグレイスがお茶と焼き菓子を運んできた。


「ふうむ。絶品よのう」


 焼き菓子を口に運びながらアウリアは言う。エルフの長い耳をぴくぴくと動かして、中々上機嫌な様子である。

 花見の時も持ち寄った料理を交換したりなどしたのだが……アウリアはグレイスの料理を殊の外気に入ったようでベタ誉めしていたからな。もしかすると、出向いてきたのはこっちの目的もあったのかも知れない。


「っと。あまり他の事にかまけておってもいかんな。早速ではあるが、ユスティアとドミニクの話をしようかの」


 アウリアは俺の視線に気づいたのか、咳払いをしてからそんなことを言った。あまり威厳はない。

 そう。ユスティアと、ドミニクの話だ。楽しそうに演奏する2人を見て、アウリアが浮かない顔を浮かべていたのだ。それが気になって尋ねてみたのが発端である。

 2人を保護している、というところまでは良い。ギルドの本部で治癒魔術士の手伝いをしてくれているというのも非常に助かっているそうだ。


 では何が問題なのかと言えば……。保護という意味合いもあるにせよ、普段、彼女達に行動の自由が少ないというのを気にしているそうで。彼女自身エルフだから、余計そういう点が気になるのだろう。


 あの2人とも知り合いだというのもある。クラウディアもあの2人を気にしていたようだし……迷宮の魔物の村の事もあるだろう。

 それに……彼女達の立場を良くする事はグレイスの立場を良くする事にも繋がってくる。俺個人としても異界大使としての立場としても、何かしら協力できる事があるのではと、話をする時間を設けてもらった次第だ。


「冒険者連中は概ね彼女らに好意的ではあるのだがのう。ほれ。彼女達は自分の傷を癒してくれる立場なわけじゃから」


 治療班の重要性を知る冒険者連中は、彼女らを敵に回すような馬鹿な真似をしないというところか。


「冒険者連中は、ということは……市民にはそういう人がいるわけですか」

「おるな。エルフやドワーフを見下す者もおるのだから、それが魔物となればな。それにほれ。彼女らのような魔物は、奴隷商も目を付ける連中ではあるからな」


 彼女自身もエルフ。やはり、それなりに苦労があるのかも知れない。


「……やっぱり地道に理解を広めていくのがいいんじゃないですかね。例えば時々公開で演奏会を開くとか」


 方法については彼女達の意見を聞く必要もあるだろうが……彼女達はいつも歌ったり演奏したりと、楽しそうにやっているからな。どうもセイレーンもハーピーも、歌や演奏を聞かせるというのに、生きがいに近いものを感じているようなところがある。


「ふむ……。それは面白いが……公開となると警備の問題も出てきそうじゃのう」

「ディフェンスフィールドや風魔法などの魔道具を作って舞台を防御するとか。必要なら僕が魔法建築で一から舞台設備を整えますが」

「魔法建築……また、当たり前のように言うものよな」


 アウリアが苦笑する。いや、あれは実際、作る事自体はそんなに手間ではないのだ。セラフィナがいれば建築物の耐久性や耐震性などをフォローしてくれるからな。

 メルヴィン王の迷宮への考え方や方針的に協力を得られるだろうから、警備体制も強化できると思うし。


「後は……そうですね。演奏会に孤児院の子供達を招待するというのは良さそうですね。月神殿の教えにも沿うものでしょうから」

「なるほどのう。そなたはペネロープ殿にも面識があるのであったな」

「そういうことです。いずれにしても、まずは本人達の意志の確認からでしょうか? 彼女達が現状で満足しているとか、大勢の前で歌ったり演奏したりに抵抗があるというのなら、こういう話も最初から取り越し苦労でしょうからね」

「うむ。なるべく彼女達の意に沿うようにしてやりたいところではあるのう」


 そう言って、アウリアは苦笑した。

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