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番外795 海原の上で

 調理器具、食器や布団、当面の備蓄等々……必要になる家具、備品もヒタカとホウ国で用意してくれている。それらを出来上がった浮遊拠点内部にピエトロの分身とアピラシアの働き蜂達が一気に運んで行ってくれた。


「内装は私達で進めておくわね」

「魔道具の敷設もみんなで手分けしてやっておくわ」


 と、イルムヒルトがにこにこしながらこちらに向かって手を振り、ローズマリーが頷く。工房組と皆で分かれて仕事をしていくわけだ。


「ん。よろしく。先に照明と空調の魔道具を付けると後が楽だと思うよ」

「わかりました……!」


 そう答えるとユラやリン王女達も笑顔でみんなに続く。エルナータが「私も手伝うね」とついて行くのをアルディベラも穏やかな表情で見守っていたりして。まあ、四大精霊王の加護もあるから問題はないが。


 というわけであちらの仕事はみんなに任せるとして……俺は鎖による拠点の固定と外装の塗装だな。グランティオスの染料を外側に塗っておけば海洋でもより長持ちする。僅かに色を変えて紋様魔法を用いておけば効果は更に上がるだろう。


 というわけで、拠点――船体の一部に作り上げたリング状のパーツから鎖を作って結んでいく。係留用の丈夫な鎖が必要なので、かなり太い鉄棒をリング状にして繋いでいくわけだ。

 光球に溶かして形成しなおし、構造強化と耐水の術を施してリングを一つ一つ強固なものにしていく。


 そこにバロールがグランティオス産の塗料が入った樽をレビテーションで浮かせて持ってきてくれた。

 グランティオスの塗料は――耐水の性質を持つものなので水魔法での操作をしようとしても反応が今一つだ。


 土と水の複合術式で制御してやると上手くいく。塗料を空中に浮かせ鎖のリングに下地を塗り、その上からカドケウスが持ってきてくれたもう一色の塗料で紋様魔法を描いていく。


 これらの塗料は、ヒタカとホウ国がグランティオスから買い付けたものだ。グランティオスもヒタカ産の槍の穂先を売ってもらって、装備を更新したりしたとの事で。

 転移門を通して……且つ航路の拠点造りに絡んだものなので小規模ではあるが、東国との貿易のお試しといったところだな。


 グランティオスは海中の国家なので金属加工はやや苦手分野だ。その点ヒタカの冶金技術はドワーフ達も感心する程に高いのでエルドレーネ女王としても有り難い取引だった、との事である。


「鎖を作るのも、塗装するのもあっという間ですな」

「見ていて小気味が良いですね」


 と、ボルケオールとカーラは俺の魔法建築の見学である。記憶や手記を残したりというのも二人の仕事だからな。シリウス号の甲板からそんな風に言い合って頷いていた。


 鎖の端に巨大なアンカーを付けて構造強化した海底に埋め込めば拠点の固定は完了だ。続いて船体全体に塗料を塗り拡げて全体的な印象を整えていく。

 塗料は元々耐水能力が高く塗布された物の劣化を防ぐ効果がある。風雨に対しても効力十分というのは分かっている。


 なので海面以下や側面には船舶等の衝突に耐えられるよう防御の紋様を。海面より上――陽光を浴びる場所には耐光及び耐熱の紋様を施す事で、船内の空調魔道具を効率よく稼働させられるようにする。雨風対策と陽光による劣化対策を兼ね、断熱材の代わりにもなる、という寸法だ。


 下地は白。その上にかなり薄く色合いを変えて紋様魔法を描いているので……ぱっと見た感じでは普通に白い客船という印象だな。航行のための能力は無いけれど。

 要所要所を藍色の塗料で縁取りしたりと、見た目は落ち着いた雰囲気だ。カラーリングや全体のデザインは皆と話し合って決めたので、割と上品なイメージもあるが。




 そうしてみんなと共に手分けをし、内装、外装共に完成する。大ホールの奥に転移門。これは転移港に繋がっていて、意匠はヒタカノクニとホウ国の、都近郊の風景をそれぞれ刻んでいる。

 見た目は船なので広々としたデッキもあり、早速設備の使い心地を確かめる為にみんなで食事をしようという事になった。


「お待たせしました」

「中々良い出来だと思います」


 と、グレイスとアシュレイが厨房からカートを押して戻ってくる。

 カートの上の皿にはカレーが盛りつけられており、少し遅れてピエトロの分身達がおかわり用の鍋を持って登場する。


 みんなにカレーが行き渡ったところで、青い空と一面の海を一望しながら食事の時間だ。見渡す限りの海ではあるが、天気もいいので爽やかな雰囲気で、みんなと食事を取る場所としては悪くない。

 今日は海にちなんでシーフードカレーである。海老やイカ、ホタテまで入っているという、結構豪華な内容だ。カレーの複雑な味わいの中に魚介類の旨味が出ていて食が進むというか、後を引く味だな。


「確かに……これは良い出来だね」

「ん。最高」


 シーフードカレーという事で……シーラは俺の言葉を受けてスプーンを口に運んでから天を仰いでいたりと、かなり気に入ったように見える。

 ブルムウッドやヴェリトもシーフードカレーを気に入ったのか、二杯目をいただいたりしていた。

 今日のカレーを作ったグレイスとアシュレイは……そんな俺達の反応に表情を綻ばせるのであった。




 そうして食事の席も一段落したところでユラが楽しそうな笑みを見せて頷く。


「施設内は一通り見回ってきましたが、すぐにでも機能させられそうな印象ですね」

「基本的な機能に関して言うなら、もう問題ないですね」


 ユラの言葉を肯定する。


「管理人の選別も、進んでいます」


 リン王女も真剣な表情で言った。

 そうだな。ヒタカノクニとホウ国とで合同管理するので、両国から管理者が選別されて配属される、という事になっている。

 数日置きに交代勤務。基本的には数名の人員が常駐する事になっている。人員の内訳を聞くとヒタカからはイチエモンの部下。ホウ国からはゲンライ老の弟子がそれぞれ責任者として選定されているという事で、更にその下に人員が何人か配属されて交代勤務という事になる。


「拙者が推薦した人物でござるが……色々な事に気の回る有能な忍でござるよ」

「ホウ国からは私の兄弟子に当たる人で、面倒見が良くて優しい人です」

「それは……色々安心ですね」


 イチエモンとリン王女の言葉に、俺も笑って頷く。

 イチエモンがそうやって太鼓判を押してくれる人物なら間違いはないだろう。イチエモン自身かなり対応力の高い、プロフェッショナルという印象だし。

 ゲンライ老の弟子達は気の良い人達という印象があるが……リン王女によれば、仙人の弟子だったという事もあって人里離れた不便な場所での共同生活にも慣れている、という話だ。


「先だって、両国間の人員の顔合わせも終わりましたが、中々良い雰囲気でしたよ」

「テオドール様の戦いぶりのお話で盛り上がっていたようですよ」


 ユラが微笑み、アカネがそう言って頷く。

 んー。共通の話題になったというのなら良かったが……。ともあれ、そういった両国間の人員同士の顔合わせについてはヨウキ帝、シュンカイ帝共にその結果を見届けており、良好そうだと判断しているとの事だ。

 東西の航路が開拓される事に対し好意的な人材を集めたらしく、最初からモチベーションも高く、お互い協力的らしい。内訳としては警備の仕事に慣れている武官。医者と料理人が若干名だそうである。


「後日、タームウィルズとフォレスタニアに挨拶に伺う事になると思います」

「分かりました」


 もう一つの中継拠点であるティールと出会った島の方は、西側の諸王国からも人材が配備されている。海の民もそこに加わっているのであちらはあちらで心強い。

 航路開拓船の中継拠点の人員に関しては諸々安心そうだな。

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