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番外794 海上の中継拠点

「こんにちは、テオドール様」

「待っていました……!」


 東国航路開拓における中継拠点用の資材が集まったとの事で、転移門でヒタカノクニに飛ぶと巫女姫のユラとホウ国のリン王女が揃って俺達を笑顔で出迎えてくれた。ヨウキ帝、シュンカイ帝とイチエモンやアカネ、ゲンライ老といった面々も一緒だ。


「こんにちは」


 と、こちらも笑顔で答え、アシュレイやマルレーン、シオン達、カルセドネとシトリアといった面々が笑顔でユラとリン王女と挨拶を交わす。


「テオドール殿は国によって転移門設備の建築様式を変えていらっしゃるのですな」


 周辺を見回して感心しているボルケオールと、ユラやリン王女の姿を見て満足そうな様子のカーラである。

 そんなわけで挨拶もそこそこに転移門施設を外に移動すると、そこには資材が色々と分類されて置かれていた。


「これが目録になります」


 アカネの渡してくれた目録と実際の資材を確認させてもらう。

 目録と資材に間違いがない事を確認したら、転移門と転界石を応用した術式で資材をタームウィルズに転送していく。後はシリウス号に資材を積んで、現地で魔法建築という流れになる。


 資材の内容としては品質の良い魔石と魔石の粉、魔道具。それに木材や鉄といった……外洋に建築物を作る為に必要になるであろう拠点用建材だ。


 航路上で言うと――海上で建築を行うところまでは確定だ。

 星球儀で見る限りでは大陸棚等の比較的浅い海域と違い、外洋の大半は大抵なだらかで深い海が広がっているだけなのだが……一ヶ所だけ建築候補にできそうな比較的浅い海域がある。

 かつては大きな海底火山があったが今は死火山だという事で……。ティエーラによれば「諸島になりかけた場所」という話だ。


「では、ユラとリン殿下の事は頼む」

「お任せください。とはいえ、魔法建築もそこまで時間はかからないかなと思いますが」

「完成したところを見せてもらうのが楽しみだな」


 ヨウキ帝やシュンカイ帝とそんなやり取りを交わす。

 東国側としても中継拠点を管理する責任があるので、俺の魔法建築に誰かが付き添うという事になっている。ヨウキ帝とシュンカイ帝は執務があるとの事で、ユラとリン王女が付き添いをするという事になった。


 ユラもリン王女も立場があるからな。ヨウキ帝やシュンカイ帝としては、機会があれば宮殿から外出させてやりたい、という気持ちがあるのかも知れない。


 というわけで建築予定の場所の目星は付いているので、残らずタームウィルズに資材を送ったところで、俺達もユラとリン王女、その護衛であるアカネとイチエモンを連れて転移門で移動する。

 転送した資材をみんなで手分けして、シリウス号に積み込んだら早速出発だ。


 有事に即対応するために、シリウス号内部の冷凍庫には食料品が多少貯蔵してあるのですぐに動ける。日帰りの予定なのでそんなに荷物も必要はない。


「では、現地までは多少距離があるので、そこそこに速度を出していきましょうか」

「ん。楽しそう」

「そう言えば、シリウス号が本気で飛ばした速度は見てなかったっけな」


 というシーラにティールも同意を示すように声を上げ、ヴェリト達も興味を持っている様子だ。操船席の傍らにいるアルファが俺を見上げてにやりと笑い、ローズマリーが含み笑いをするように羽扇で表情を隠す。ユラとリン王女も「見てみたい」と微笑む。

 うむ……。期待されている所があるようなのでしっかりと座ってもらって……魔力光推進で飛ばしていくか。


「では、座席についている帯で身体を固定して下さい」


 そう言うとみんなシートベルトを装着してくれる。というわけで安全確認ができたところで現地の方向に船首を向け、最短方向を移動できるようにしてから緩やかな速度で高度を上げていく。

 魔力光推進だと周辺の安全も鑑みて流石に低い高度では飛べないからな。


 まずは通常の推進方式で段々と速度を上げ、風を取り込んで点火。ジェット推進で加速。十分に速度が乗ったところで魔力光推進へと移行すると――ぐん、と身体を押さえつけるような加速の感覚と共に景色の流れ方が変わる。


 迫ってくる前方の雲に穴をあけて、シリウス号が猛烈な勢いで加速していく。


「お、おお……!?」

「これはまた……」


 とヴェリトやブルムウッドが声を上げる。


「シリウス号は凄いですね……!」

「本当……!」


 と、ユラとリン王女が笑い、アルファも得意げに喉を鳴らしていた。

 そうして加速が終わるとシリウス号も安定飛行に入る。魔力光推進とは言っても安全マージンは取っているので、後は状態の推移と、星球儀で現在位置を見守っておけば問題はない。現地まで高速飛行の旅を楽しめばいい、というわけだな。




 魔力光推進まで使った事もあり、それほど時間もかからなかった。イルムヒルトと、ユラ、リン王女の奏でる演奏を楽しんでいればすぐだ。

 魔力光推進を解いて高度を落としながら青い海原の上を突っ切り――白波を上げて着水する。星球儀の示す位置も……ばっちりだな。


「この海域ですか?」

「うん。外洋だから付近には何にもないけどね」


 海底火山のお陰で他の海域より海底が高い位置に来ているので、俺としては魔法建築もしやすい。


「それじゃ、少し行ってくる。甲板に資材を用意しておいて貰えると助かるよ」

「任せておいて」


 ステファニアが笑顔で頷き、アピラシアが働き蜂達を従える。海底での作業に必要なだけの魔石の粉を持てば準備完了だ。では――海中での作業を進めてこよう。




 水中呼吸の魔法を使い、みんなに見送られて海中に飛び込む。

 外洋の海底は――ごつごつとした岩場ばかりで何もない。大陸棚の近くと違い、栄養も少なくて魚介類もいないので肉眼で観測できる生命が少ないのだ。


 海面から海底火山の表面までは大凡200メートル程。ここにアンカーを降ろすなりなんなりで、海上の中継拠点が流されるのを防ぐというわけだが……。その前に潮の流れで死火山の地形が侵食されないよう海底を固めた上で水魔法の結界を張る、というわけだ。


 海底をゴーレム化して斜面であった場所を平らな足場にし、しっかりと固めていく。足場に掌で触れて覚醒。魔力を地下相当深くまで浸透させる。干渉力の届く限りを持って、構造強化で固めてやる。更に溝を掘り、魔石を流し込んで固める。結界を構築して、潮の流れをこの部分だけ迂回させるような形だ。

 ここまでしてやれば……当面というか、相当な期間地形が崩れるという心配もないだろう。


 海底での作業が終わったら海上へ顔を出す。まず建造物の土台からだ。鉄を光の球体の中に溶かし、十分な浮力を得られる形状に変化させていく。


 薄く伸ばして浮力を得る――現代的な船舶やらと構造は同じだな。浮島の拠点と言っているが、要は水上に客船を浮かべてホテル代わりにするのと同じだ。船体に隔壁を作り、破損による浸水に対しても強い構造にしておく。メダルゴーレムを組み込んでおけば破損個所の修繕等、メンテナンスも簡単だ。


 構造強化、耐水の術式を施して劣化しないようにしたら、それを海に浮かべ、滞在可能な拠点を造っていけば良い。最終的には先程構築した海底と鎖で繋いで係留する事になる。


「術もかけられていない鉄が水に浮くとはな」


 と、ブルムウッドは感心しているようだ。


「桶や船のように広くて薄い構造ならね。水を押しのける嵩――体積が広くなる分だけ浮力も大きくなるっていう寸法だね」


 上に建造する拠点、使用用途も含めた浮力計算は既にウィズと共に行ってあるので、後は設計図に従って建造していくだけだ。


 水上客船のようなものといったが、あくまで中継地点。やってきた船を係留するための船着き場は必要だ。夜間でも誘導できるように魔法の灯りや誘導灯を設置する。


 後は設計図に従い、鉄、木材、石材を光球の中に溶かし、変形させて必要な設備を作っていけば良い。

 医薬品、食料品の貯蔵庫。食堂、厨房。風呂にトイレ。大部屋と小部屋といった宿泊施設。

 水を精製する魔道具や空調の魔道具。航路開拓船側に現在位置を知らせる魔道具、陸と通信するための魔道具をそれぞれに必要な場所に敷設すれば概ね出来上がりだ。長期滞在になっても辛くないように遊戯室も設ける、と。

 更に転移門があれば……まあ大抵の場合は大丈夫だろう。水中呼吸の魔道具もあるので転覆したり沈没しても転移門で帰って来られるという寸法だな。

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