番外785 温泉と魔界の住民達
温泉での食事の準備もできたとの事で……火精温泉に移動してのんびりとした時間を過ごす。
ロギやブルムウッドやヴェリト達、ディアボロス族にセワード、竜達は男湯へ。
ファンゴノイド達に風呂はどうなのか疑問ではあったが、魔界にあるという例の地下海水路の開発や開拓にも少し携わっていた事があるそうで……その為の術式開発もしたので水の中に入って活動する事は可能らしい。
念のためにプールの水質と術式とファンゴノイドの相性もウィズの解析で調べさせてもらったが諸々問題はなさそうだ。
そんなわけでトランクス型の水着を着たファンゴノイド達が流水プールやスライダーに流されていったりと、割とシュールな光景が繰り広げられていたりする。
プールサイドの方はカドケウスやバロールが見てくれているが「これは存外に楽しいですな!」と、ファンゴノイド達からのプールの評価は好評のようだ。
その身体も水より比重が軽いのか、あまり労せずとも浮くように出来ているようで。
「これ、たのしいかも……!」
「ほっほっほ。それは何よりですな」
と、エルナータがヤマブシタケ似のファンゴノイド――ブレントに掴まって浮き輪代わりに一緒に流されていったりと……満喫してくれているようで何よりだな。
「おお……。人化して湯に浸かるというのがこれほど心地良いとは……」
「侮れんな……。うむ。湯に溶けていくようだ……」
男湯では人化した竜達が温泉に浸かって脱力していたりする。メギアストラ女王も案外温泉に弱いかも知れないと思っていると、それを裏付けるように通信機に『メギアストラ女王も温泉を気に入って貰えているようです』と、グレイス達から連絡が入ったりしていた。
こちらからも『竜の皆も人化しているから温泉を満喫してくれてるね』と、返信しておく。
カーラも何やら身体を分解して一つ一つパーツを洗ったりと、手入れに勤しんでいるらしい。
「やはり人化の術を使うと違いますな。変化していないと私には打たせ湯や蒸し風呂もあまり刺激にならないようですが、使っていると良いものだと分かります」
と言いながらサウナから出てきた銀髪の人物はロギだ。人化したロギは年齢で言うと30代後半ぐらいの……如何にも武人といった雰囲気の人物だろうか。
ドラゴニアンの身体にとっては、打たせ湯もサウナも大した刺激にならないらしい。
そこで温泉を楽しんでいる竜達を見習って、魔道具を借りて人化したというわけだな。結果としてロギも満喫出来ているようで良かったと思う。
「それは何よりです」
と、俺が答えるとロギも満足げな笑みを見せ、水風呂とサウナを行き来していた。
ブルムウッドを始めとしたディアボロス族の面々も温泉に浸かって心地良さそうな様子だ。ディアボロス族の面々は魔力資質や角やら翼やらがあるが、身体構造はそこまで大きく変わらないので温泉は心地が良いものらしい。
身体構造が大きく違うミネラリアン――セワードに関しては……何やら打たせ湯に打たれて満足そうなので、あれはあれで楽しんでいるのだろうという気はする。まあ、火精温泉との相性は良いだろうしな。
オレリエッタに関してはスライダーで遊んでいるようだ。シオン達や双子とスライダーを滑って楽しそうに笑っている様子が監視塔のバロールから見えた。
プールや通信機での話をするとメルヴィン王達も相好を崩す。
「ふっふ、思い思いに温泉と遊泳場を満喫してくれているようだな」
「いやはや。式典も無事に終わって安心した」
「魔界については我らの代で諸々の問題も円満に解決しそうだな」
そう言ってメルヴィン王やエベルバート王、ファリード王も笑い合う。魔界の実態も分かって色々と安心できる要素が増えたからな。管理をティエーラとジオグランタに任せる事で、後世に渡っての安全も確保され、ファリード王としても安心という感じだろうか。
風呂から上がって休憩所に向かい女湯から上がったみんなとも合流する。
「良いお湯でした」
と、少し紅潮した腕に触れて笑みを見せるアシュレイ。みんなほんのりと上気していて濡れ髪をアップにしているのも、俺としては眼福だ。その横でメギアストラ女王が目を閉じてうんうんと頷いていたりする。大分火精温泉を気に入ってくれたようで。
「私も色々手入れが出来て大満足です」
と、カーラが大きく頷く。身体のパーツを色々ばらして洗っただけではなく、髪も洗ったそうなのだが……その時に使ったサボナツリーの洗髪剤を相当気に入ったとの事で。「あれは良いな。……うむ」とエンリーカも頷いていたりするが。
「魔界の皆も気に入ってくれたようで何よりね」
「そうだね。温泉も遊泳場も楽しんでくれてるみたいだ」
クラウディアの言葉に頷く。プールの方を見れば背中にエルナータやオレリエッタを乗せたアルディベラが、悠々と流れに逆らって泳いでいるところだった。
「お母さん、すごい!」
「ふふん。任せておけ」
エルナータが声を上げると、アルディベラは満足げな笑みを浮かべて更に速度を上げていた。アルディベラは人化の術を使ってもかなりパワフルなようで。
そうした和やかな光景を休憩所のテラス席から眺めつつ、みんなで夕食をとる。魔界の面々を迎えるにあたり夕飯に関しては海の幸が多めで、メギアストラ女王が米を気に入っていた事から、今回は寿司も提供されている。
エルドレーネ女王達、海の民には寿司が好評という事もあり、そこからルーンガルド各国にも寿司が受け入れられたという様子だ。
「好みが分かれるようですからな。念のためにわさび抜きも用意しております」
宮廷料理長のボーマンが笑顔で説明してくれる。 わさびも東国から輸入できるし、月で貰ったものも栽培が進んでいるのだ。寿司ネタも各種魚に貝、ウニ、海老、シャコ……色々だ。貝や蟹の味噌汁も絶品である。
「ん。寿司は良い。最高」
と、シーラは一貫一貫口に入れては満足げに咀嚼して、そんな事を言っていた。メギアストラ女王もシーラの言葉を首肯する。
ティールも新鮮な魚介類が食べられるという事で嬉しそうに声を上げている。ファンゴノイド達とカーラは普通の食事はとらないが、コルリスやホルンに鉱物を食べさせて楽しそうにしている。
『ふふ、賑やかで良いわね』
水晶板の向こうのジオグランタがそう言って微笑む。水晶板モニターはシーカーと一体化したゴーレムにくっついてティエーラと一緒に行動中である。同行しながらティエーラとジオグランタにお互い中継画像を送っているというわけだな。
「待たせちゃって悪いね」
『ふふ、別にお願いにしてもルーンガルド用の器にしても、急ぎではないもの。私としてはティエーラ達とのんびりしていられるし、この雰囲気も好きだわ』
「ジオにそう言って貰えるのは嬉しいですね」
そんなジオグランタの言葉に、嬉しそうな微笑みと明滅を見せるティエーラとコルティエーラである。
「でもまあ、式典も終わってこの後は明日のフォレスタニア観光までのんびりするだけだし、相談事があるならもう何時でも大丈夫っていうのはあるよ」
『そうなの? では食事が一段落してからという事でどうかしら?』
「ふうむ」
ジオグランタが言うと、パルテニアラも顎に手をやって思案を巡らせているようだった。
「構いませんよ。急ぎではないようですからね」
どんな相談事であれ、そんなに無茶な話ではないと思うし。それに、メルヴィン王や各国の王も揃っている方が色々話を纏めやすいというのもある。
俺の返答にジオグランタは『分かったわ』と頷くのであった。




