番外783 魔王と式典と
メルヴィン王、ジョサイア王子、俺達と共に王の塔の大広間に現れたメギアストラ女王を、各国の王達が迎える。
「よく来て下さいました、メギアストラ女王」
「同盟に名を連ねる王として、魔王国の女王の意向と訪問を心より嬉しく思っている」
オーレリア女王とエベルバート王が歓迎の言葉を口にすると、メギアストラ女王も穏やかな笑顔で応じた。
「こちらこそ、ルーンガルドの歴史ある国々の王達と共に歩みを進められる事を、嬉しく思っている。余の代でこうした機会に恵まれ、二つの世界に跨る平和と繁栄の礎を構築する事に携われるというのは、王として誇らしい事だ」
メギアストラ女王の返答を受けて、メルヴィン王が頷く。
「我らもだ。魔界の存在を知り、どのような場所なのかと案じた事もあったが、聡明な王を頂く国があった事、更にその魔王国と手を取り合う事ができたのは望外の幸運と思っている」
居並ぶ王、重鎮達から拍手と喝采が起こる。
「では、メギアストラ陛下。宜しければ連盟の宣誓を」
「承知した。余――メギアストラ=ジオヴェルラは魔王国を総べる魔王として、その名の下に魔王国が同盟に名を連ねる事をここに宣言する」
文官の式典進行に応じ、メギアストラ女王が同盟に名を連ねる宣言を行う。
各国の王も共に平和と繁栄を築き交流を深めていこうと、同盟の理念を確認し合う。
世界の危機に共に対応する事。災害時等の互助や連絡を取り合える環境の構築……といった所が同盟の国々がするべき事になってくるか。
魔王国が同盟に名を連ねた事で、今度は来訪の歓迎式典へと移っていく。各国としても同じ理念を共有する仲間になったという事で、尚の事歓迎式典を盛大にできる、というわけだな。
そうして王城での式典は粛々と進み、滞りなく終わる。この後は合同でルーンガルドの視察というか見学というか、馬車に乗ってタームウィルズやフォレスタニアを他の王達と共に視察するという事になっている。
魔界の面々が安全で友好的であると示すには、受け入れられやすい土壌のあるタームウィルズやフォレスタニアはうってつけだし、同盟各国や魔王国の面々との友好も示せる、というわけだな。
見学をしてからシリウス号に乗って付近に繰り出しルーンガルドの様子を見たり、騎士団、魔術師隊の演武が行われたり……その後は劇場や植物園、温泉に足を運んだりする、という予定になっている。
そうして式典用の立派な飾りがついた馬車に乗り込み、礼装の騎士団の護衛を受けつつ街中のあちこちを巡る事になった。
街中の暮らしぶりを見て、メギアストラ女王は楽しそうに目を細める。
「民の笑顔というのは良いものだな。子供達が嬉しそうにしているというだけで、ヴェルドガル王国が良い国だという事が分かる」
「ルーンガルドと魔界では随分と環境が違いますが、日々の暮らしの中で起こる様々な事は、そう多くは変わらないように感じられます」
メギアストラ女王のその言葉に、ボルケオールが言う。その言葉にファンゴノイド達も興味深そうにしていた。
ボルケオールはここ数日タームウィルズやフォレスタニアを見てきたからな。パルテニアラから色々な話を聞いて、それを魔界の住民に伝えたファンゴノイド達にとっては……ルーンガルドの人々の暮らしぶりというのは気になるものなのだろう。
魔王国の面々は――西区の港で見た海にも結構反応している様子であった。
「おお……。ルーンガルドの海は光り輝いているようですな」
海を見たロギが感心したような声を上げる。魔界の海を想像すると……確かにこうした明るい海の風景というのは有り得ないだろうな。
夜の海、という雰囲気になりそうだし、そもそも大型の魔物が生息していて危険という話だから、安心して眺められる場所、という事にはならなさそうだ。
「ルーンガルドには魔力溜まりがありますが、そこから外れる場所には強力な魔物や大型の魔物も少ない傾向がありますね。実際各国の国々、町や村……街道や航路等はそうした魔力溜まりを避けています」
「東国とは長年陸路も海路も魔力溜まりで分断されていたのだけれど。飛行船が東国との交流に一役買ったところはあるかしら」
俺やクラウディアがそう言うと、ファンゴノイド達と共にカーラも興味深そうに耳を傾ける。俺達が訪問した時も魔界での暮らしを色々教えてもらったからな。物珍しく感じる気持ちは分かるし、興味のある分野でもあるだろう。
港を見学してからそのまま造船所へと向かう。
建造途中の飛行船や東国との航路開拓船を見学できる。それらの船も魔王国の面々にとっては関心を引く物のようだ。
同盟各国は色んな事態に対応できるようにと飛行船を一隻ずつ持っていたり建造する流れになっているが、その辺は魔王国も同じく、という事らしい。
魔王国も飛行船を所有すれば色々便利だろうしな。俺達が訪問する場合はアルファも同行を希望するだろうから、魔王国の飛行船があってもシリウス号を持っていく事になるが。
航路開拓船は通常の船舶に比べると色々高性能ではあるが――魔界の海では些か不安が残るかな。海が危険地帯なだけに要塞のような強固な防衛能力を持つ船か、或いは迷彩フィールドを展開して隠密行動できるような船が望ましいだろう。
そうして造船所の見学の後は予定通りシリウス号に乗り込み周辺を見て回る。
山側の斜面に咲いている花畑のあたりをゆっくりと飛んだり、青い海原の上を進んだり、潜水して沖合の珊瑚礁を見に行ったりという具合だ。
……生態系の違いなどは俺達が訪問した時も驚かされたが、魔界の面々にもやはり新鮮に映るようで。特に海の中の様子というのは今回訪問してきたほとんどが未体験であるらしい。
「ふむ。やはり海の中の生き物も大分違うな」
というのはメギアストラ女王と一緒にやってきた竜の発言だ。海に潜って狩りをした事もあるそうで。
「どちらかと言うと迷宮の魔光水脈の方が魔王国の皆さんの知っている環境に近いかも知れませんね」
グレイスが微笑んで言う。地下に海水の水路が伸びている環境があるらしいからな。地下の水脈を通って拠点と拠点を繋ぐ……。確かに魔光水脈はそれに近いかも知れない。
「正直な所を口にするなら、迷宮にも興味はありますな」
と、ロギ。武官としてはその辺色々気になるようで。
そうして街中やヴェルドガル周辺の見学を経て、今度は城に戻って騎士団と魔術師隊の演武を見ながら食事を取る。
練兵場に面したテラス席や迎賓館に魔王国の面々を迎え、竜騎士達の飛行や魔術師達が連係を見せてくれる。
騎士達の動きが前よりも良くなっているが、これはラザロと、ラザロに師事するミルドレッドの指導によるものだそうで。ますます騎士団のレベルが上がっているとの事である。武官として、やはりロギも専門分野だからか、騎士団の演武を真剣な表情で見て拍手を送ったりしている。
「まあ、ラザロやミルドレッドの指導という環境面もあるが、騎士達が意欲的なのはやはりテオドールやエリオットの与えた影響が大きいのであろうな」
「テオドールの場合は大魔法だけでなく杖術や体術も、であるからな。武官としても意欲をそそられるであろうよ」
というのがメルヴィン王やイグナード王の見解であるらしい。イグナード王の場合は何やら実感が篭っているような気もするが。
そうして王城の料理人が作った料理に舌鼓を打ったりして、魔界の面々を迎えての賑やかな時間はゆっくりと過ぎていく。この後はあちこちタームウィルズの施設を見に行ったりする事になるだろう。




