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番外778 精霊と境界門

「おお、この酒はまた随分と芳醇な事だ……!」

「こっちは何だ? ほう、林檎の魔物を漬け込んだ酒と……? おお、味も中々……」


 と、ゲンライとレイメイ、鬼達やディアボロス族の面々やドラゴニアン、竜達が酒を酌み交わして盛り上がっている様子だ。

 出陣前での食事会では酒は少しだけだったからな。今度は色々な酒をしっかりと味わうことができると、酒好きの者達は大喜びといったところか。


 どうやら林檎を漬け込んだ果実酒であるらしい。

 たまにサソリや蛇を漬け込んだ酒というのはあるが。魔界産の林檎はあれで普通らしいので林檎の魔物というのは少し違う。


「何でもルーンガルドとは果実の形が結構違うらしいな。魔界の林檎はそれで普通なんだ」


 と、その辺の事もブルムウッドが説明してくれた。


「そうなると他の果実も気になるな」

「各地の酒は用意してあるからな。色々楽しんで行ってもらえると嬉しいと陛下も仰っていた」

「それは嬉しいな。では飲み比べと行こうか!」

「おお……!」


 そんな調子で酒を酌み交わしつつ戦いの時の事について語り合ったりして、大いに盛り上がっている様子である。


 一方で料理の方はどうかと言えば……陸地に上がってくる魚がいる魔界ではあるが、王都ジオヴェルムは内陸部という事で、魚介類の種類までは流石に豊富というわけではない。

 その点、タームウィルズは海に面しているし迷宮に魔光水脈もあるという事で、食材もかなり豊富だ。

 料理人達が趣向を凝らした魚介類の料理を口にして、魔界の面々も驚きの表情を浮かべていた。


「ん。ん。これは良い」


 と、海老や貝、魚の切り身がたっぷり入ったパエリアを口にして耳と尻尾を反応させているシーラである。


「うむ。確かにこの米というものを使った料理は美味いな……!」


 と、メギアストラ女王がコウギョクの作った炒飯を口にして表情を明るくする。


「月を経由してフォルセトさん達の住んでいたハルバロニスで作られていた作物ですね。ヒタカノクニやホウ国でも作られていますが……元を辿れば根が同じかも知れませんね」

「それは……中々興味深いな」


 俺の説明にメギアストラ女王は感心したように笑う。

 宴会の楽士達もルーンガルドと魔界の間でセッションをしたり、各国の特色を出した演奏を楽しんだりと、かなり盛り上がっている。

 今はリン王女が二胡を奏でて、ホウ国の歌を覚えたドミニクが合わせて歌声を披露しているところだ。


 二胡の幽玄な雰囲気は独特なもので……歌曲に造詣の深いインセクタス族だけでなく、ファンゴノイド達やルーンガルドの面々も一緒に聴き入っている様子であった。


 ルーンガルドと魔界の面々が入り混じり賑やかな雰囲気であるがそれを見るジオグランタも楽しそうに目を細めていたりして。

 ジオグランタは水晶板モニターでティエーラと話をしたりしていたようだが、ティエーラもジオグランタも対象の形を生命反応や魔力反応で認識している。

 視覚を頼っていないので、モニター越しだと宴会の音だけで楽しんでいる様子だ。ティエーラとジオグランタは境界門付近から伝わってくる気配と、モニターを通した声だけしかお互いを認識できていない、ということになるのかな。


「この光景をティエーラと一緒に楽しみたいところではあるのだけれどね」

『ふふ、楽しそうな雰囲気はこっちにも伝わってきますよ』


 と、そんなやり取りを交わす二人である。ティエーラの横で明滅するコルティエーラと、楽しそうに声を上げるヴィンクルもしっかりモニターに映っている。


「境界門も基本的には開かれる予定だし、ルーンガルドと魔界での影響を気にせずにティエーラ達が交流できるように、五感リンクのスレイブユニットを作ろうと考えていたんだけど、どうかな? 勿論、コルティエーラの分もね」

『ああ。それは良いですね』

「確かに楽しそうだわ」


 前から少し考えていた事を伝えると、二人は揃って笑顔になる。コルティエーラも喜びの感情を示すように明滅していた。

 スレイブユニットがあれば自分自身で魔界とルーンガルド間を行き来したような感覚を得られると思う。互いへの影響の問題で交流が大きく制限されるというのもなんだしな。


 後はティエーラ、コルティエーラとジオグランタのスレイブユニットをどう作るかだな。顕現した姿に似せて作った方が感覚も分かりやすくなるだろうと考えるなら、パペティア族のカーラに協力を求めてみるというのもありかも知れない。




 そうして……宴会はそのまま丸一日続き、賑やかに過ぎていったのであった。

 魔王国の面々も少しばかり戦後処理を終えたらまた改めてヴェルドガル王国を訪問してくるという事になった。


 それを楽しみにしつつも、戦いの為に集まったみんなも、一旦ルーンガルドの各国に戻る事になるだろう。

 各国の王達も国元でやる事が色々あるし、俺も領地を不在にしていたから魔王国の面々がこちらを訪問してくる前に執務をこなし、存分に歓迎できる準備を整えておかねばならない。


 魔界に関しては――パルテニアラからジオグランタへの境界門制御の術式伝授であるとか、境界門の双方向通信の改造、ティエーラ、コルティエーラ、ジオグランタのスレイブユニット作りと……やるべき事は幾つか増えたがいずれも緊急性は低めだ。このままじっくりと進めていけば問題あるまい。


 そうして、俺達がルーンガルドに帰る前に――各国の王達の立ち会いと承認の下、ジオグランタを新たな境界門の管理者とする為にパルテニアラとの契約魔法を交わす事になったのであった。


 まずは門の魔界側からだ。境界門の前にパルテニアラ。その隣にジオグランタ。二人に向かい合うようにエレナとガブリエラが並ぶ。


「では始めよう」


 パルテニアラのその言葉にエレナとガブリエラが頷いて片膝を付き、祈りの仕草を見せる。パルテニアラとジオグランタの足元からマジックサークルが広がり、境界門の菱形の枠も光を纏った。


「妾――パルテニアラ=ベシュメルクは、この場に居合わせた者達を証人とし、魔界を司る精霊、ジオグランタを管理者として、魔界側の門の開閉を委ねる事をここに宣言する。これに異議のある場合、言葉を以って応えられよ」


 と、その宣言に見守るみんなも厳粛な雰囲気を守る様に沈黙を以って応える。胸のあたりに手をやって、頷くように目を閉じたりと、積極的に賛同を示す。

 契約への賛意を宣言するのとは逆の方式だが、人数も多いからな。賛意を以って契約を見届けたみんなが証人となり、契約により大きな力を与える、というわけだ。


「どうやら異議はない様子。では――大いなる精霊ジオグランタ。この願いに答え、門の管理を受けてくださいますかな?」

「ええ。私でよければ。世界を司る精霊として、もう一つの世界との繋がりを守る為に力を尽くす事を誓うわ」


 ジオグランタがその言葉を言い終えると、マジックサークルと門の輝きが強くなる。パルテニアラとジオグランタの身体も強い輝きを見せ、そうして最後に一際強くなった光が弾けるようにして、契約が成立した。


「これにて契約は成立です」


 エレナが少し間を置いて言うと、居並ぶ面々から拍手が巻き起こるのであった。


 この後は――門から迎賓館前に戻って各国の帰還を魔王国の面々が見送りしてくれるそうだ。

 人数も多いしベリオンドーラや飛行船の送還等もあるので一息にとはいかない。

 まずは月の船や飛行船を送ってからそれを運用する人員、将兵を送る、という手順で一国ずつ帰る事になるだろう。

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