番外777 凱旋と宴
ジオグランタも目を覚まし、儀式も無事に終わった。魔王国との新たな関係の始まりでもあるから、境界門の扱いに関しても取り決めをしなければならない。
魔王やルーンガルドの各国の王達とは既に相談して同意を得ているのだが、境界門の管理方法は転移門のそれに近しいものにしていくのがいいのではないか、というところだ。
ジオグランタにもそのへんの話をして、納得してもらったら改めて契約魔法を結ぶ、という事になるだろう。
というわけで宴会が始まるまでの時間を使って、迎賓館でジオグランタにも話を通す。
「まず境界門を行き来できる条件としては、ルーンガルド側と魔界側の双方の管理者が望んでいる状態である事ですね。これに関しては、パルテニアラ様の手で門との間に契約魔法を結び、管理者権限を与える事になります」
と、エレナがジオグランタに説明する。
この辺は各国間の転移門と同じだ。双方が行き来を望んでいない場合、門の開放ができなくなるというような。
「となると、それぞれの側に管理者と門の開閉をできる者がいなければならないわけね」
「そうです。魔界側ではその権限はジオグランタ様に、と私達は考えています」
「精霊となれば常に魔王国に詰めているというわけにもいかないですから……為政者である魔王に対し、期限等の条件付きに門の解放権限を貸与といった形も不可能ではないでしょう」
エレナとパルテニアラの説明にジオグランタは真剣な表情で耳を傾け、ふんふんと頷く。
魔界側の門の管理は、ジオグランタに委ねられる。ジオグランタの許可が無ければ行き来ができず、門をジオグランタの選んだ魔王が守り……或いは一時的に開放の権限を貰う、というわけだな。
ルーンガルド側はティエーラと共に刻印の巫女達が管理する、という事になるだろう。パルテニアラの実際の役割はメンテナンス、という方向に落ち着いてくるとは思うが。
「――となると、幾つかの術式をパルテニアラから教えてもらう、という事になるのかしら?」
「少々手間をかける事になりますが」
「構わないわ。色々と教えて頂戴」
パルテニアラの言葉に、ジオグランタは屈託のない笑みを浮かべた。
「それと……もう一つ考えている事としては、門の開閉に関わらず、双方向で会話が可能である事ですね」
「ルーンガルドの転移門は門の状態に関わらず、各国間で通信機や水晶板で会話や交渉が可能ですからね。何らかの形で境界門にもそれと同じようなものが必要だろうと考えているわけです」
パルテニアラの言葉に俺が補足するとジオグランタとメギアストラ女王が揃って「確かに」と同意してくれる。
政情の変化や何かしらの事情……それに自然現象等が理由で門を閉ざすような事があったとしても、その後ルーンガルドと魔界間で何もやり取りができないようでは、再び門を開放できる状態に戻ったかどうかを知る事ができない。
タイミング合わせや交渉等を行えるように、会話の窓口だけは残しておいた方が良い、というわけだ。
これについては――境界門自体に追加の術式を施す、という事になるだろうな。門を造り上げたパルテニアラが協力してくれるから可能な事だ。ジオグランタの門の管理に関する勉強と共に進めていけば良いだろう。
と、そんな話をしている間に宴会の準備も進んでいく。
「むう……。小さい者達の姿というのは落ち着かんな」
「そうか? 中々似合っている気がするが」
「そういうものだろうか?」
と、人化の術を使った竜達が迎賓館のホールに姿を見せる。
上機嫌そうなアルディベラとそんなやり取りを交わし、エルナータもにこにことした笑みを見せていた。何気に竜達とベヒモス親子も仲良くなっているようで……魔界の今後についても安心できる場面だな。
人化の術を使うと小さい者達の食事も十分に楽しめるとアルディベラが言ったところ、竜達が興味を示したわけだ。
料理についてはルーンガルド側からも王城セオレムの料理長ボーマンやホウ国の料理人コウギョクといった顔触れが駆けつけて来てくれている。魔界側の料理と合わせてどちらの世界の料理も好きなように楽しめるようにという形式である。
ルーンガルドの料理といっても魔界特有の種族に合わせてインセクタス族用に果物や果実ジュースを用意したりもしているので、その辺楽しんでいってもらえれば何よりだ。
やがてルーンガルド、魔王国と共に出席者の準備が整う。ルーンガルド側からメルヴィン王やジョサイア王子、エベルバート王、クェンティンとコートニー、デイヴィッド王子とガブリエラといった面々も姿を見せる。
凱旋しての勝利の宴という事もあり武官達は武器だけ置いて、鎧の類も活動しやすい程度に外したらそのまま酒盛りだ。ルーンガルドの国元まで戻って礼装というのも大変だし、戦装束そのままでも良いというか寧ろ推奨、という半分無礼講の席である。
街でも城の宴の開始と共に酒と料理が振る舞われてお祭りになるとの事である。
城にはパペティア族の司書のカーラも呼ばれていたりして。情報収集の過程で心配をかけたからその詫びも兼ねて、俺達とも顔を合わせてもらい安心して貰えれば、というエンリーカの配慮であるらしい。
「やあ、テオ君。無事で何より」
「ああ、アル。今回も魔道具の出来が良くて助かったよ」
「それは良かった」
と、アルバートと顔を合わせて言葉を交わす。
そうしてみんなが揃ったところでメギアストラ女王が練兵場の広場に姿を見せる。宙に浮いて迎賓館と練兵場の将兵達と、みんなの見える場所で大きな声を響かせる。
「皆の者! よくぞ無事に帰ってきてくれた! また、戦果についても誇るべき事であろう。こうして世界に迫る脅威と懸念が取り除かれたのも、二つの世界の戦士達が力を合わせたからこそ! 特にテオドール公の繰り広げた邪精霊との激戦は、後の世までの語り草になるであろう! そして皆の戦いもだ! 困難に立ち向かうその高潔な意志は確かにこの目で見届けさせてもらった! 皆の武勇と知恵、そしてその想いを、余は何よりも誇らしく思う!」
メギアストラ女王の言葉に、居並ぶ将兵達と重鎮達とが拍手と歓声を以って応える。笑みを浮かべてそれらが少し静まるのを待ち、更にメギアストラ女王は言葉を響かせた。
「ついては――激戦を潜り抜けて無事に帰ってきた勇士達を労う為に、こうして宴の席を設ける事にした! 今日という日は勇士達が明日の平和と皆の笑顔を守った記念すべき日だ! 皆存分に飲み食いし、楽しんでいくが良い!」
そうして酒杯を掲げるメギアストラ女王。
「我らの勝利と友情に!」
「我らの勝利と友情に!」
メギアストラ女王の乾杯の言葉に、みんなの言葉が重なり、手にした酒杯が一息に呷られる。そうして楽士達が勇壮な音楽を奏で出し、宴が始まった。
論功行賞についても日を置かず進めるとの事だ。ボルケオールがシリウス号で戦況のほとんどを見ていたから、その辺は割と正確に進める事ができるだろう。
ボルケオールと言えば……ファンゴノイド達に関してもこれからの状況が変化するとの事だ。
ベルムレクスが討伐された事により、術で偽装せずとも人前に姿を現す事ができるようになった。
知恵の樹に関しては今後も情報公開されることはないが、その他の事はまあ、今後も魔王の庇護下にあるから明かしても問題ないだろうという見通しである。
ベルムレクスが狙っていたからメギアストラ女王が保護に動いた事であるとか、現在城の地下で暮らしている事。偽名で農業や医療、治山、治水等の様々な方面で力を発揮していた事等々……空白期間についても明らかになるようで。
今回の宴にも顔を見せており、武官や重鎮達の間では結構驚かれている様子であった。まあ……宴と言ってもファンゴノイド達の食生活については独自路線なのは変わらないけれど。
そうして会場のあちこちで、二つの世界の武官が混ざって酒盛りをしたり、エリオットとカミラが嬉しそうに顔を合わせて話をしていたりと……無事に戻ってきた事を喜び合ったり、賑やかな雰囲気だ。俺達もしっかりと宴を楽しませてもらうとしよう。




