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番外775 王都への凱旋

 白豹からどこに何があったという情報を貰い、それらを一通り模型図に反映した所で、また改めて拠点に戻り今日は予定通り休むという事になった。

 寄生体の器となっていた者達は、一応拠点内部の記憶等も残っているそうだ。


 ベルムレクスの拠点については大きく広がっているわけではなく、相手の力を取り込むのを目的にしていたという事もあって、仕掛けられている罠の類も感知して通報するとか、部隊を召喚する等の系統が殆どで、アンデッドの軍隊が壊滅した今となっては意味を成さない物ばかりという話だ。


 ただ、アンデッド兵や合成獣を製造する魔法陣、設備といった実験室に関しては残っているらしいので、それについてはしっかり後始末をしなければなるまい。


 白豹は地上でのんびりしているので明日動く事になったら声をかけてくれ、との事だ。

 白豹との事は、みんなにも通達したので特に問題は無さそうだ。コルリスが甲板から手を振ると白豹も前足を上げて応じて……将兵達もそれで安心していた様子であった。


 ベルムレクスとの戦いの後という事もあり、みんなで風呂に入ってからのんびり休ませてもらう。覚醒については任意でのオンオフが可能なので、これまで通りの循環錬気が可能だ。それ以上の事についてはまあ、迷宮核を交えて検証してからでないとな。


「日常生活についても今までと変わらないというのは嬉しいわ」

「良かった……。おかえり、なさい」


 イルムヒルトが微笑み、マルレーンも言葉を口にして嬉しそうに抱きついたりして来て、みんなもそんな様子に表情を綻ばせたりしていた。


「でもまあ……覚醒した状態も追々慣れていく必要があるのかな?」

「ふふ。確かにそうかも知れませんね」

「では、間近で見せてもらってもいいかしら」


 俺の言葉にグレイスとクラウディアが微笑んで、みんなも同意するように頷く。

 実際に覚醒状態になってみるとみんなも興味深そうに髪を撫でたり、ペタペタと頬に触れたりしてくる。頬を寄せるように抱きしめられたり手を取られたり……。

 んー……。何だか、こうしてみんなに調べて貰っている間にじっとしているというのも気恥ずかしいというか何というか。


「魔力波長が大きく強く変わる以外は……そうね。いつも通りではないかしら?」

「確かにテオドールの反応も普段通りだから、安心するわ」


 ローズマリーが満足そうに言うと、ステファニアも明るい笑みを見せる。


「ん。その魔力も……何だか安心する感じ」

「確かに……。守られている雰囲気がします」


 シーラもうんうんと頷き、アシュレイも目を閉じて言う。そんなやりとりに、グレイスも嬉しそうに微笑んで……みんなとののんびりした時間が過ぎていくのであった。




 そんな調子でみんなとのんびり休ませてもらい、戦いの疲れを取ってから一夜が明けた。

 身支度と朝食を済ませてから、早速動いていく。


 ベルムレクスの研究、製造施設は山の中にあったゴブリンの巣穴を流用したもの、という事だ。構造強化も施されて破壊は免れていたので、そこに白豹に案内してもらって、魔法陣を消したり、製造された実験器具やアンデッド兵用の武器防具等を回収したりと魔王国の将兵達を中心に後始末を進める。


 ベルムレクスの研究については死霊術と呪術。あまり後世には残さない方が良いだろうと、技術的には破棄する方向だ。心配していた罠もベルムレクス自身が消滅して魔力が断たれたせいか機能停止していたり、白豹の言った通り、もう意味を成していない罠だったりするので大きな問題はなさそうだ。


 龍脈に影響を与える術はベルムレクスの直接制御だったらしく、こちらも今はもう心配がない。


 アンデッド兵の武器が潤沢だったのは――元々ゴブリン王達が山を掘り進めて鉱石を採掘したりといった下地があったかららしい。ゴブリン王自身が群れ全体のレベルを引き上げていたんだろうな。


 それらを確認し、魔法陣を消したり罠を解除したりして、後は魔王国の将兵に任せておけば大丈夫、という段階になったところで今度は外に出る。

 メダルゴーレム、通常のゴーレムを使ってアンデッド兵の遺体を回収したり、遺体を埋める墓穴を掘ったりといった埋葬の為の手伝いも進めていく。


 ゴーレムを四角く形成して起こすだけだから大きな問題は無い。除けた土砂を運搬役のゴーレムとし、そのままアンデッド兵だった遺体を運んで……という具合だ。

 数が多いので各々の墓所が簡素化してしまうのは致し方が無いが、覚醒した状態ならかなり広範囲まで魔力の影響を届かせる事ができる。広い範囲で一気に埋葬作業を進める事ができるだろう。


「一通り埋めたら纏めて墓碑を建てる、という形でいいのではないでしょうか」

「そうだな……。こうした合戦の後というのは、アンデッド化してしまう者もいるから弔いの念というのは……大事な事だろう」

「効率はテオドール殿に及ぶべくもないが、我らも埋葬作業を進めていこう」


 と、メギアストラ女王やロギとそんなやり取りを交わす。

 実際、魂は昨日の時点で昇天しているから、本当の意味でアンデッド化してしまうという可能性は低いのだろうが、それで蔑ろにするというのも違うからな。やれるだけの事はしておこう。


 そんな作業を進めていると白豹も諸々の案内が終わったのか、同じく寄生体から解放された魔物や合成獣達と共に地上に姿を見せる。


「そなた達は……どうするつもりだ? 余としては魔王国で受け入れても構わぬと思っているが」


 メギアストラ女王がそう尋ねると魔物達は顔を見合わせ、やや遠慮がちながらも頷いた。


「そうか。では、これからは魔王国の隣人であり友として、共に助け合うとしよう」


 笑顔を見せるメギアストラ女王である。それなら……翻訳の魔道具も必要になりそうだな。


 諸々の後始末を終えてから墓碑を建てる。


「ベルムレクスの犠牲になった者達の苦難を忘れず、ここに彼らの鎮魂を祈る。未来に渡り、このような災禍が起こらない事を願う、と」


 墓碑に何のための墓碑なのか文言を刻み、俺達や各国の王達の連名も彫り込んで――。そうしてみんなで黙祷を捧げる。

 昔からの因縁が……ベルムレクスのような存在を生み出してしまった。色々な影響、犠牲は出てしまったが、魔界全体にそれが波及する前に止める事が出来て良かったと、そう思う。


 そうして、暫くの間みんなで黙祷を捧げてから……俺達はベリオンドーラを中心に据えた飛行船団を以って王都へと凱旋する事となったのであった。




 王都へと戻る道すがらで南方の主要都市や要塞を巡って臨戦態勢を解いたりしていく。既に通信機で俺達が勝った事は後方にも伝わっていて、立ち寄った先では兵士や住民達が嬉しそうに歓迎してくれた。


 王都ジオヴェルムもそうだ。俺達が近付くと、兵士達が沿道で敬礼してきたり、住民達が大きく笑顔で手を振ってきたりと、既にお祭り騒ぎな雰囲気がある。


「まだ儀式が残っているのだがな。こうして皆が喜んでいるところを見られるのは嬉しいものだ」


 と、メギアストラ女王は飛行船の甲板から手を振って笑みを見せていた。

 メギアストラ女王は王都に到着したら早速ジオグランタを目覚めさせて、儀式を行う、との事だ。前は未完成だった儀式場の魔力増強剤関係の設備もきっちりと仕上がっているという話である。


「念のために、テオドール公にも儀式に立ち会ってもらえると安心ではあるな。ベルムレクスを倒した直後であるからな」

「そういう事でしたら、ご一緒させて頂きます」


 拠点も確認して罠の類はもう残っていないと思うが、儀式も魔界全体に関わる事でもあるからな。立ち会っていれば何かしら力になれる事もあるかも知れないし、そうさせて貰うとしよう。

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