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番外769 魔が潜む山

 南方の雪山に向かって飛行船が進む。地図上にバロールが光点を浮かせて移動位置を示し、みんなの準備や心構えもそれに合わせて進められるようにしているが……まあ、その辺に関してはみんな戦意も高く、大きな問題もないようだ。


「シリウス号が、地図のこの位置まで移動したらティアーズに合図してもらうから、そうしたら伝声管で船室のみんなにも知らせてくれるかな」

「わかりました」

「ティアーズが教えてくれるなら安心だね!」

「なら……私は南方の都市とか砦の水晶板を見ておく……」

「それじゃあ私も」

「みんなでこっちを見てる」


 俺の言葉にシオンが答えると、マルセスカとシグリッタ、それからカルセドネとシトリアも揃って頷いていた。エルナータも「手伝うね」と真剣な表情で言うと、シオン達も笑顔で応じてみんなで地図やモニターを覗きこむ。シオン達とカルセドネ、シトリアの関係が良いのは前からだが、エルナータも仲良くしているようで何よりだ。


『では、俺達もそれに合わせて動けばいいというわけだな』


 水晶板モニターの向こうで言うファリード王の言葉に俺も頷く。

 水晶板モニターと通信機で各所と連絡を取り合えるようにしてあるからな。これらと事前に立てた作戦と方針によって連携していくというわけだ。


 情報では山の裾野に見通しの良い平原――というか雪原が広がっているらしい。攻め手側が兵を展開するならその土地が向いているが、迎撃を選ぶなら雪山に陣取った方が良い。

 後はベルムレクスが雪原に術を仕掛けるかどうかというところだな。


 と、その時だ。正面モニターを監視していたティアーズ達が警告音を発した。


「遠隔呪法弾か……!」


 パルテニアラが眉根を寄せる。

 南側の遠い空――正面から遠隔呪法弾。紫色の光弾がこちらに向かって飛んでくる。数は、6発。王都に飛来してきた呪法弾とは少し種類が違うようだが――。

 映像からの弾道をウィズが瞬時に計算。全弾シリウス号に向かっているらしい。


「アルファ。速度はこのままだ。避けずに受ける」


 操船席の水晶球に触れながら指示を出すと、アルファはこくんと頷く。

 呪法弾は自動で条件付けした相手に誘導される。高速で動いても低速で動いても対象物に飛来するので下手に逃げ回ると状況が悪化する可能性もある。


 お互いに向かって突き進んでいるので相対速度は相当なものだ。着弾の前に操船用の水晶球を通して防御術式を強化してやると、船の周りに張り巡らせた障壁に激突した呪法弾が爆裂。爆風を撒き散らす。が――生半可な一撃はシリウス号には通用しない。

 相殺し切れずに抜けてきた衝撃も魔力変換装甲が吸収するだけだ。シリウス号に蓄積された魔力の消耗は極々軽微。呪法的な働きは障壁や護符が防ぐ。何も問題はない。


「今のは――呪法に別系統の術式を乗せたな……?」

「対抗呪法での呪い返しを防ぐ為ですね」


 パルテニアラとエレナが先程のベルムレクスからの攻撃を分析する。呪法弾を運び手代わりにし、単純な爆裂弾を複合術式にした、というところか。厄介な真似をするものだが……手札の一つは見せてもらった。


「照準目標にしているのは恐らく僕ですね。一瞬とはいえ奴と接触していますし、ルーンガルド側の人間というのも向こうには推測がついているでしょうから。条件付けが甘いので誘導の精度は緩くなりますが――それならばやりようもあります」


 すぐに出来る対策としては隠蔽術を含めた迷彩フィールドを展開する事だが――それは今回使わない。光と音を消して探知系の術での偵察はしにくくするが、呪法的な誘導は自由にさせる。

 敢えて索敵の余地を残す、というわけだ。最も呪法に対して厚い防御手段を持つ俺達が接近までの囮になる。


 水晶球を通してシリウス号全体に魔力を通す。ウロボロスを仲介してシリウス号と疑似的な循環錬気を構築。シリウス号各所の魔法生命体とリンクする。

 第二陣として同様の攻撃があるなら音響弾やストーンバレットのような低級魔法をぶつけてしまえば良い。手札を隠す、という意味なら低級魔法がベストか。シリウス号の進行方向。俺の位置。モニターからの映像情報を総合して弾道を計算してやれば、あの手の爆裂弾を撃ち落とすのは難しい話ではない。


「まあ、向こうもあまり手の内や術式の癖なんかは見せたくないだろうから、それほど攻撃に積極的じゃないだろうけれど」


 そう言った俺の考えを説明すると、みんなも真剣な表情で頷く。

 俺の見立てでは多くて後一回か二回。こちらの進行速度、方向や接近の具合等を把握するために攻撃がある、かも知れない。

 王都への遠隔攻撃もあれから何度かあったが、あまり積極性を感じさせなかったのは偵察の意味合いがあると共に、奴もまた直接戦闘でケリを付けるつもりだからだ。


 互いに呪法に通じているのを理解した以上、自分の方は探知系の術式を振り切るのは難しいと判断していればこそ、だろう。


「テオドール公の対処は流石ですが……ベルムレクスは知れば知るほど厄介な相手ですな。術式に精通しているというだけではありませんし」


 オズグリーヴが眉根を寄せる。


「ベルムレクス本体もだが、敵方の兵隊に不死者がいるというのもな。瘴気の効力も今一つだろうが……それは向こうも同じか」


 テスディロスは戦端が開かれた後の事を色々と思案しているようだ。魔人とアンデッドというのは……瘴気による利点も少なくなるが、向こうも力を発揮しにくい、というところだろうか。オズグリーヴやテスディロスのように高位魔人は武器が自前の瘴気剣だったりするからな。闘気と同じ感覚で高密度の瘴気を武器に乗せていると劣化が早まってしまうから、アンデッドに有効な装備を、というわけにも中々いかないところがある。


「まあ、その辺は私も補いますぞ」


 と、ウィンベルグは笑みを浮かべてテスディロスと頷きあっていた。




 予想していた遠隔呪法による攻撃は更にもう一回あった。こちらも再度の攻撃は想定の範囲内ではあったので障壁を展開しつつ初級術で撃ち落として更に進む。

 こちらの対応がローコストである事を見せるのは次の攻撃への抑止にもなる。複合術式の呪法弾はそれなりに高度な技法だからな。戦いを控えている状況で、情報収集や様子見以上の事はしたくはないだろう。まあ、対処法に関しては向こうが少し手を変えてくる事も想定して保険を残しておくが。


 ともかく、こちらに損害はない。水晶板モニターで連絡を取り合っているが、俺達が引き付けている分、各所とも問題はないようだ。

 そうして最短ルートを進んでいく。南方の主要都市と要塞からなる防衛線を抜ける。魔王国の勢力圏を出て暫く進むと、景色も段々と変わってくる。段々と植物もまばらになり、広葉樹から針葉樹への変化が見られた。


 植生だとか生態系もなのだが……それ以上に雰囲気に変化があるように思う。

 人の手が入っていない風景だからなのか、精霊ジオグランタの加護を受けている魔王国とは違う、という事なのか。或いは――ベルムレクスの勢力下にあるからなのか。


 生態系は別にして、決して良い方向への変化ではない。シリウス号の外に出ればもう少し詳しい事が分かるのだろうが……あまり性質の良くない精霊が数多くいるのだろうな。

 渾沌……ショウエンを相手にした時と、何となく雰囲気が似ている。

 小さな精霊達はコルティエーラやジオグランタの加護もあるから、敵対するつもりはないだろうが。


 地平線の彼方に――段々とその風景が見えてくる。薄暗い魔界だが、その分だけ白い雪山はよく目立つ。空に向かって聳える、鋭く尖った稜線。一際標高の高い雪山に連なる山々。まだ遠い山々の上空に雷が走る。


 あれが――ベルムレクスの居城というわけだ。まずはもう少し近付いてから甲板に出て、周囲の状況、魔力反応を探らなければなるまい。

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