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番外767 魔王城の宴

 そうして――夫婦水入らずののんびりとした時間を過ごしたり、討伐に向けてルーンガルドと魔界を行き来して準備を進めたりしていく内に魔王城での宴会の日となった。

 討伐を間近に控え、遠隔呪法による偵察に対しても隠蔽魔法を展開して気を遣いつつ、城の中で宴を開こうというわけだ。


 ルーンガルド各国の王達、武官、重鎮、重要人物といった面々が続々と転移門を通って魔王城の迎賓館の広間へ集まってくる。


「――オズグリーヴ殿や隠れ里の方々ですな。お話は伺っております」


 と、ハルバロニスの長老達がオズグリーヴ達、隠れ里の面々の姿を認めて挨拶をする。


「ハルバロニスの出身ですか。私達は貴方がたを複雑な立場にしてしまった所はありますが……」

「それを言うなら、我らの生き方がそれを選ばせてしまった、とも言えます。それに……ハルバロニスも変わろうとしていますからな。私は――オズグリーヴ殿とも和解したいと思っております」


 長老がそう言うと、オズグリーヴは静かに目を閉じた。少し間を置いて口を開く。


「それは――私としても異存ありませんぞ。過去の因縁を砕く為に、手を取り合い共に戦える……というのは何とも数奇な話ですな」

「テオドール公が拓いて下さった道を共に歩んでいけたら、これほど嬉しい事はありません」


 そうやり取りを交わし、オズグリーヴ達は丁寧に長老やハルバロニスの面々と握手をかわしていた。フォルセトやシオン、マルセスカ、シグリッタもそれを見て静かに頷く。


 オズグリーヴは隠れ里の面々を重視しているという事もあり、古巣であるハルバロニスに対しての悪感情は特にないらしい。それでも和解しようという提案にはオズグリーヴとしても悪い気はしないようで。隠れ里の面々が笑顔で挨拶をしているのを見て、穏やかな表情を見せていた。


 そんな様子を見て、テスディロスやウィンベルグ、オルディア達も嬉しそうに小さく笑顔を見せていた。

 魔人との和解や共存の約束は、しっかりと守れているだろうか。

 ヴァルロスやベリスティオの事を少しの間思い出していたが、ふと顔を上げると父さんとダリルがこちらに近付いてくるのが見えた。


「こんにちは、お二人とも」


 人目もあるので家族としてというよりはフォレスタニア境界公としての対応になるが、そういって笑顔を見せると、二人も心得ている、というように丁寧に挨拶してくる。


「いや、魔界の事を聞かされて驚き、実際に来て見て驚き、といった具合です」

「空や魔王城、ここで働く方々しか見ていませんが、外は凄い光景が広がっているのでしょうね」


 父さんとダリルは魔界を見ての感想をそんな風に伝えてくれる。魔界に関する情勢の変化もあり、俺達の出陣の見送りという事で俺に近しい立場の人には通達や招待がいったからな。

 こうして様々な人達が魔界を訪問してきているというのは、ルーンガルド側の国々が今後も魔界と国交を持つという明確な意思表示でもある。まあ……流石に魔界の成り立ちについてまでは広く公表される、という事は今後もないし、魔界についてもまだ一部の人間の間の秘密という事になっているけれど。


「賑やかで楽しいものだな」

「門番として冥利に尽きます」


 と、ヴィアムスとアルクスのスレイブユニットもバイザーの奥を明滅させながらそんな会話を交わしていた。

 ヴィアムスは――流石に瞳を守るという役割がある為、ベルムレクス戦には参加できないが、アルクスが門を離れて決戦に赴く間、境界門を守る、という役割に回った。アルクスも「これで魔界を守る為の戦いに参加できます」と、静かながらもかなり戦意を高めつつ、ヴィアムスや深みの魚人族に感謝の言葉を口にしていた。


 そんな調子で段々人が集まり、ホールも賑やかになっていく。顔見知りと挨拶したり、ハーピーやセイレーン達の歌を楽しんだりして宴が始まるまでの時間を待つ。

 料理も次々出来上がってホールに運び込まれてきて……良い匂いが鼻孔をくすぐる。魔界産の食材や料理という事だ。食材の成分に関してはウィズと共に分析してルーンガルド側の面々が口にして問題ない事も確認している。


 人も揃ったところで、メギアストラ女王がハーピーやセイレーン達を見て頷くと曲調が少し変わり、これからの盛り上がりを匂わせて一旦音楽が止まる。

 一呼吸置いてメギアストラ女王が両手を広げて声を上げる。


「今宵――これだけの面々が二つの世界の平和と友好の為に集まってくれた事を、この上なく嬉しく思っている。力を貸してくれるルーンガルドの友達と、我らと共に肩を並べて戦ってくれる戦士達に感謝の言葉を伝えたい。ついては、戦いの地に赴く者達の勝利を祈念し、また、これから先の我らの友情と繁栄が永きに渡って続くことを願い、ささやかながらも宴の席を設けた。今宵は楽しんでいって貰えると嬉しく思う」


 その口上に対するルーンガルド側からの返礼、というようにメルヴィン王が応じる。


「ルーンガルドに連なる一国を預かる者として、今宵この席に立ち会えた事を誇りに思う。この身は武門においては非才ゆえ……皆と共に行く事は叶わず口惜しい気持ちもあるが――ならば明日の平穏を望み戦いに向かう戦士達の想いに、応えられる王でありたい。今宵の宴で育まれる絆もまた、明日の平穏に繋がるものであり、戦士達に力を与えるものになるであろう」


 居並ぶ面々から大きな拍手が巻き起こった。出陣を控えているので酒杯は最初の一杯だけだ。メギアストラ女王とメルヴィン王が酒杯を掲げる。


「戦いの勝利と我らの友情に!」

「戦いの勝利と我らの友情に!」


 乾杯の為の声が重なり、会場のあちこちで酒杯が一気に傾けられた。香りと口当たりが良い酒だ。魔界産の葡萄酒なのだが、魔王城で饗されるだけあって上等なものなのだろうという気がする。出陣も考慮しているのであまり強い酒ではない、との事だが。


「戦いに勝てばもっと強い酒も飲み放題って事だな。俄然やる気が出るってもんだ」


 と、レイメイがにかっとした笑みを見せてゲンライがやれやれといった風情で笑みを見せたりと、魔界産の酒を楽しみにしている面々もいるようで。


「おお……。これはまた美味だな」


 と、ファリード王が鳥魔物の料理を口にして表情を綻ばせる。ハーブを散らして焼いた物だそうである。皮の表面がパリッとしているのにジューシーで風味も良く、かなり美味い。

 魔界にはハーブや香辛料の類は結構あるそうで、料理にしても風味が豊かだ。ハーブの風味が肉と良く合っていて、食文化も色々研究されているのが分かる。


 これについては色んな種族がいるので魔王城でも民間でも研究が進んだ、という側面があるそうな。グレイスも真剣な表情で料理を味わって、色々と学習しているようだな。


「ん。焼き魚もあって嬉しい」


 魚は何やら前足後ろ足があるシーラカンスといった風情だが……味は中々高級な白身魚という事でシーラの耳と尻尾の反応はご満悦だ。


「これは走り魚ですな」


 と、ボルケオールが食材について教えてくれた。魔界には陸棲の魚もいるそうで。沼地や池の畔で獲れるとの事らしい。

 イグナード王は珍しい料理を存分に味わえるというのは楽しいな、と喜んでいたりする。まあ、自衛能力を備えた果物が育っていたり、生息域が変だったりするが、食材としては味が良いと思う。


 そうして、ベルムレクス討伐戦に加わる武官達も思い思いに食事を楽しみ、ルーンガルドと魔界、種族間を問わずに楽しそうに笑い合う。合同訓練も積んできているし、これならお互いがお互いに背中を預ける事ができそうだ。

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― 新着の感想 ―
[一言]  そうやり取りを交わし、オズグリーヴ達は丁寧に長老やハルバロニスの面々と握手をかわしていた。フォルセトやシオン、カルセドネ、シトリアもそれを見て静かに頷く。 これでも問題は無いと思うんで…
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