144表 黒骸ガルディニス
転移完了と同時にグレイス達の所にカドケウスを残し、クラウディアと共に封印の扉へと向かう。封印の扉へは真っ直ぐ向かわず、一度別方向へ向かってから直線移動の最短距離を移動して目的の場所へなどと偽装はしているが……これがどの程度効果があるかは不明だ。やれる事はやっておくというところである。
カドケウスは地上と迷宮の連絡係であると同時に、グレイス達の戦況が危険な状況になった際に撤退するための保険である。
クラウディアの同行は、魔人の出現が別の場所であった時にそちらへ向かうため。そこは変わっていない。カドケウスから魔人出現の報があればそちらに向かう手筈になっている。
「見えたわ」
他には何もない湖の中心に島がある。島の上は岩場のようになっていて、その岩場に隠すように地下へと通じる封印の扉が作られているのである。
「クラウディアは力の消費は大丈夫なのかな?」
「後2回ぐらいなら転移もできるかしらね」
クラウディアの事情を考えるなら、なるべく使わせずに済ませたいところではあるがな。
封印の扉の解放までは間がある。あちこちの戦況を見たり確認したりといった事はできるが……待つだけというのは少し焦れてくるところがあるな。
「……テオドール。私はあなたにお礼を言っておくべきだと思う」
ふと、クラウディアが言う。
「ん? 何が?」
「私は、自分の話を殆どしていない。自分でも胡散臭いとは思っているのだけれど、それでも信じてくれているみたいだから」
「イルムヒルトの事もあるしな」
こちらを信用してくれたというのはクラウディアも同じだ。
目的について明確になっていない部分は確かにあるが……色々と推測してみても、あまり悪意めいたものを感じないというのもある。なら、それでいい。
クラウディアは静かに頷いて。そのまま静かにその時を待つ。
「……来るわ」
クラウディアの言葉と共に大腐廃湖が揺れた。ゆっくりと封印の扉が内に開いていく。それと同時に、あちこちから虹色に輝く水晶が飛び出して湖の浄化を始めた。
地の精霊力が精霊殿の奥から解放されているというところか。
地下へと続く扉の中へと飛び込む。
細い通路を抜けると――巨大なドーム状の空間に飛び出した。奥の方に風の精霊殿と似た作りのピラミッド状の建造物。虹色に輝く、大小様々な水晶と、色とりどりの花が咲いている。地の精霊殿だ。
ここの守護者達は水晶の身体を持つゴーレムのようだが……建物の方に大部分が配置されているらしい。近付かない、或いは攻撃しない限りは迎撃に移らないという類のようだ。地上型と飛行型の両方がいるようだが――。
「ガーディアンは抑えなくていいのかしら?」
「そのままでいい。どうせ戦闘になれば余波に巻き込まれるだろうし、勝手に迎撃にくるだろうから」
そんな風に話をしながら周囲の地形を見回していると、クラウディアが弾かれたように入口の方に視線を移す。
――来るか。
転界石を用いた際の魔法陣に似たものが地面に現れて光の柱が立ち昇る。――そして1人の男が姿を現す。
教団のローブを纏ったその姿。フードの影から覗く顔は白髪と長い白髭をたくわえた老人であった。
「……お主が魔人殺しか。この期に及んで変身を解かぬのは、まあよかろう。迷宮の主を味方に付けたとは言え……その若さ……いや、幼さで中々の手並み。まずは誉めておく。我が使い魔、ヴァージニアも滅ぼされた」
奴は俺を見るなりそう言って目を細める。それから、クラウディアを見て意味有り気に笑った。
「クラウディアは離れていてくれ」
「分かったわ。気を付けて」
……そうか。ヴァージニアは、こいつの使い魔。戦闘させる事で手の内を見るという狙いもあったのだろう。であれば、封印の扉の方向を誤認させる作戦もヴァージニアについてのみ言うなら無駄になっていた可能性が高いな。
「……お前が教主だな?」
「左様。我が名は黒骸のガルディニス。察しがついているとは思うが、お主らと敵対している魔人の仲間でもある」
懐から取り出して見せたのは、瘴気を放つ魔人の宝珠。それを無造作に投げ捨てて、言う。
「宝珠を持っていこうとしているくせに、置いていくというのは……どういうつもりなんだか」
「たとえ1つでもこちらで押さえておけば、月光神殿の封印を施す妨げになろうが。儂を滅ぼす事ができたら、この瘴珠も持っていくがよかろう。強き者、勝者が全てを手にする。それが世界の摂理よ。故に――王たる儂がお主を殺しに来た。儂が頂点に立つために、我が供物となって、死ね」
そう言って。比較的穏やかに話していたかに見えたガルディニスは、老人らしからぬ激情を湛えた表情で目を見開き、凄惨とも言える笑みを浮かべる。
……王だとか教主だとか。今までの魔人に比べると随分野心的というか何と言うか。
「家畜に手を出した害獣がどうなるか身を以って教えてやろうぞ!」
膨大な量の瘴気が風のように広がる。ボロボロと身体の肉が剥がれ落ちるようにして人の姿が崩れていく。
骨と骨の間を繋ぐのは暗黒の瘴気。
暗闇の洞の如き眼窩に、赤く輝く瞳が炎のように灯る。黒いローブを纏った骸。それが黒骸のガルディニスの姿。その手から瘴気が長く伸び――錫杖の形を取って固まった。
奴の足元――瘴気に触れた草花が黒く腐食して崩れ落ちていく。花が枯れるというのなら分かる。確かに瘴気は通常の生物を蝕むが、ここまでに激烈な変化など、普通はない。恐らくこれが奴の瘴気特性。生命を腐り落とさせるような。
だが。関係のない話だ。出方を待たずにこちらから突っかけた。こちらとて祝福と魔力循環で二重の防御をしている。奴の瘴気特性を受ける時というのは、即ち俺が死ぬ時だ。
身体ごと突っ込んでいって叩き付けるように振り抜いたウロボロスを、奴は錫杖で受ける。魔力と瘴気がぶつかり、火花を散らした。
奴が身体を引きながら、錫杖で弧を描く。と、身体が流された。こいつも杖術を使うらしい。流れに逆らわずに慣性に任せて大きく飛ぶ事で、防御が崩されるのを防ぐ。
距離が空いたところで、奴の掌に瘴気が収束するのが見えた。迷わずシールドを蹴って横に飛ぶ。寸前までいた場所を、青黒いレーザーのような瘴気が薙いでいく。一瞬遅れて薙ぎ払われた地面から垂直に爆風が立ち昇った。
凄まじい破壊力。だが予備動作は見える。問題ない。攻撃に巻き込まれた水晶ゴーレム達が反応してこちらに迫ってくる。これも想定した通り。
上下左右に不規則に飛ぶ事で、的を絞らせずに突っ込む。同時にミラージュボディを発動させたが、奴は分身を完全に無視して俺の方に狙いを定めてきた。俺の位置を察知できるという事なのだろう。であれば、真っ向から勝負するまで。
ガルディニスが錫杖を翳す。今度は先端にマジックサークルが輝き、放射状に雷撃が迸った。避けようもない攻撃だ。
だがシールドで防ぎながら今度は最短を突っ込んでいる。こちらがレーザーのような直線的な攻撃を避けてみせたなら、次は放射状の攻撃を放つのは道理だ。予見はできている。
上から振り下ろされる錫杖と、下から掬い上げられるウロボロス。ぶつかり絡まり合って火花を散らす。巻き上げ、引き落とし。払い、叩き付けては突きを繰り出す。
互いに杖術を駆使して相手の体勢を崩してから、至近距離から魔法を撃ち合う形になった。雷撃、爆炎、冷気に岩石。手数も種類も多い。威力を落して手数でねじ伏せようという事なのだろう。こちらも杖術と共に魔法を駆使して対応する。ぎりぎりの所をお互いの攻撃魔法が飛び交っていく。
「ククッ! 魔力循環とは珍しいものを使うではないかッ! 月女神の祝福に循環では、確かに儂の腐食も通用せん! だがなッ!」
ガルディニスが吼える。横合いから迫ってきた錫杖をシールドで受け、振り被ったウロボロスから雷撃を叩き付ければ奴もまた瘴気による防壁で防ぐ。杖と杖が力任せに叩き付けられて火花を散らす。
背後から水晶ゴーレム。攻撃を避けると同時にゴーレムを足場代わりに頭部を蹴って上へ飛ぶ。縦回転をしながら振り下ろすようにガルディニスの後頭部を狙えば、奴もまた前へと回転して、逆さまになっているはずの俺の頭上から錫杖を振ってくる。シールドで受けて、視界を塞ぐように手を突き出して火球を放った。
顔面を爆風が包む。しかしガルディニスには応えた様子もなく、爆風を突き破るようにして骸の顔を飛び出させると、瘴気を纏った掌底を放ってきた。
打たれる寸前、シールドで受ける。が、シールドを抜けて衝撃が伝播してきた。後方に吹っ飛ばされる。
やる。シールドを貫通してダメージは受けたが、瘴気による侵食ではない。戦闘にも支障はない。
今のは――瘴気を闘気のように用いて、武技を使ったか。こいつの使う術も同じ。瘴気は負の魔力。マジックサークルから術として魔法を放ってきている。特性が通じないとなったら魔法戦というわけだ。
だからこそ奴の繰り出そうとする技の先は読めるのだが……杖術に魔法、更には武技か。随分とまあ、噛み合う相手だ。大きく息を吐いて、ウロボロスを構える。
「ククッ、これで尚、笑うか小僧」
奴は愉快そうに肩を震わせると、飛行術を駆使して音も無く迫ってきた。
ウロボロスと錫杖が交差する。示し合わせたかのように魔法を使わず、杖捌きの応酬になった。上下左右真ん中と、あらゆる角度、方向で互いの杖がぶつかり合う。下から掬い上げたと思った次の瞬間には逆端が突き刺すように降ってくる。ぎりぎりを掠めさせてすり抜けるように攻撃を打ち込んでいく。
群がってきた水晶ゴーレムを打ち砕き、足場に、盾に用いる。或いは砕いて散弾代わりにしながらも水晶の森の間を、回る廻る周る。
見ない。奴の杖の動きは一々目で見ない。肩や体幹の動きで次の手を読み切る。詰めていく。打ち下ろしを受け、巻き込んでからかち上げて、奴のガードを抉じ開ける。一挙動に杖の逆端を奴の胸元に突き込んだ。
火花が散って奴の身体が後ろに弾かれた。踏み込む。奴の左手に宿る瘴気の渦。下から振り上げた手刀が刃のような斬撃となって飛来。身体のすぐ脇を浅く薙いでいく。
それが魔法格闘戦再開の合図となった。不利は否めない。耐久力に差がある。打ち合いの中で、マジックサークルが閃き、無数の魔法が俺と奴とを中心に辺りに飛び散る。
振り払うかのような錫杖により、大きく後退。地面付近まで飛ばされる。丁度良い。戦闘の余波に巻き込まれて砕かれたゴーレムと虹色水晶の破片を風魔法で巻き上げて叩き付けてやる。
暴風を纏うように全身を黒い瘴気で覆う。水晶の欠片は奴の身体を削る事なく削り散らされた。
身に纏っていた瘴気がそのまま奴の広げた両手に分かれて展開。マジックサークルとなる。
偽装。本来のマジックサークルに不要な紋様を排除して魔法の種類を特定。こちらが奴の魔法を見切ったと同時に奴の術も完成した。巨大な岩の塊が、奴の手の動きに連動するように左右両方から挟み込むように迫ってくる。
土魔法第6階級ソリッドハンマーの多重展開。こちらはシールドを蹴って真っ直ぐに突っ込んでいる。すぐ背後で岩と岩が激突して砕ける音。
「カアアッ!」
突っ込んでくるのは分かっていたとばかりに、奴の口から瘴気の閃光が迸る。もう1つ術が来る程度、こちらも想定している。前面に展開したシールドにウロボロスの先端を突き刺し、棒高跳びをするように軌道を変化させる事でそれを避ける。頭上を取った。レビテーションで慣性を殺し、背面にシールドを展開。火魔法を炸裂させる事で爆風を推進力に変える。殆ど直角に折れ曲がって垂直落下しながら肉薄する。
大上段。練り上げた魔力をウロボロスで増幅して砕けろとばかりに打ち下ろす。奴は両腕で錫杖を構えてそれを受けた。
「グッ!」
瘴気の錫杖を砕いて、肩口にウロボロスが叩き込まれる。
重い手応え。ガルディニスはうめき声を上げるが、すぐさま錫杖が元通りに形成されて薙ぎ払うように切り返してきた。マジックシールドごと弾き飛ばされる。
まただ。シールドに衝撃を貫通させてダメージを通す打法。防げば一撃一撃の威力はそこまでではないが、厄介だ。長期戦になればなるほど後から響いてくるだろう。こちらの攻撃も通ってはいるが、元々耐久力が違う。
奴は魔力循環を知っている。それはバトルメイジを知っているという事。こちらの耐久力が低い事を知ったうえでの戦術。
奴は魔法を雨あられと撃ちながら迫ってくる。
転身。飛び交う魔弾の雨に身を晒しながらも体術のみで身をかわし、体勢を立て直して続く錫杖の一撃をシールドで受ける。受けるたびに衝撃が伝わる。もっともっと速く、鋭く。可能な限りコンパクトなモーションで切り結びながら、拳撃や蹴りを杖術に織り交ぜ、魔力掌底と同時に魔法を叩き込む。
浅い。奴は自分で後ろに飛んでいる。マジックサークルは勿論、無詠唱であっても察知している感がある。ミラージュボディを見切った事と言い……恐らくは魔力の流れでこちらの動きを察知しているのだろう。まともに大技を放っても、まず当たるまい。
だがこちらの攻撃によるダメージは、ある。奴は見た目からアンデッド――ノーライフキングやスケルトンを想起させるような姿をしているが、あくまでも魔人。負の魔力を持ち、闇に属すれどアンデッドと思って対処すべきではない。
「やるものだ! 殺すのが惜しいわ!」
逆手に握った錫杖が斜め上から振り下ろされ。余った左手の指先に瘴気が集まって、槍のように斜め下から飛び出した。対角線上からの攻撃。
錫杖をシールドで受け、瘴気の槍はウロボロスで逸らす。逆で受けてはシールドを貫通してきただろうが、衝撃打法はやはり体を貫いていく。構うものか。
防御が空いたので、サマーソルトを叩き込むように回転しながら魔力を込めた蹴りを放つが、奴も後方に回転してそれを避ける。即座にシールドを蹴って突進。
奴は高密度の瘴気の塊を機雷のように撒いてこちらの接近を阻む。迂闊に触れた水晶ゴーレムが弾け飛んだ。なるほど。迂闊に触れるとああなるわけか。
奴を倒すのに十分なだけの魔力は既に練り上げている。だが、そこから更に魔力を循環させて練り上げていく。バトルメイジの殺し方を知る相手。どこまでもどこまでも噛み合う相手。
ならばきっと。狙いは向こうもこちらも同じだ。崩して防御も回避もままならなくしてから、大技を叩き込む事。それを、どこでいつ仕掛けるか。奴は消耗戦に持ち込んでも勝てる。
魔力の高まりがウロボロスだけでなく、俺の全身に波及する。身体のあちこちからスパーク光を散らしながら膨大な魔力を纏い、更に杖術と魔法の応酬を重ねていく。
気が付けば割って入ってきていた水晶ゴーレムの横槍もない。林立していた水晶の森も一面更地になっていた。巡り廻り舞い踊るように天地が逆転。俺が上にいるのか奴が下にいるのか。光芒が瞬いて火花が弾け、砕け、吹き荒び、爆ぜる。
叩き込む。叩き込まれる。衝撃と共に身体に走る鈍痛。骨が軋む。踏みとどまって殴り返す。掌に伝わる殴打の感触。確実にダメージを刻み、刻まれていく。
そして――魔法と錫杖の同時攻撃が来た。魔法はシールドで逸らしたが、錫杖が深々と俺の脇腹にめり込んでいる。肋骨の砕ける音。身体が吹っ飛ばされて壁に張り付くように叩き付けられる。
「がはっ!」
口から苦悶の声が漏れた。ガルディニスの背後に巨大なマジックサークルが展開する。あれは――。
「楽しかったぞ人間! これで――消え失せるがいい!」
闇魔法第9階級スターレスバスター。
視界全てを埋め尽くすような、巨大な暗黒が俺目掛けて押し寄せてくる。
膨大な呪詛により触れた物何もかもを分解して、一切合切を闇に溶かす暗黒魔法。防御魔法は役に立たない。回避する場所もない。何より――俺は今ここから動けない。全身にダメージ。手足の毛細血管が切れて、あちこちから血がしぶいた。
「テオドール!!」
クラウディアが声を上げて魔法陣を展開した。一瞬遅れて俺の目の前に現れる。こちらを救いに来るための転移と、逃げ出すための転移。二度目の転移は間に合うまい。彼女の手を取り、引き寄せる。
俺がなおも笑っている事に、クラウディアは目を見開いた。一瞬後に全てが飲み込まれる。黒い虚無の砲弾が、迷宮の壁を馬鹿げた規模で大きく抉っていく。だが――。
「転移魔法だと!? いつ!? どうやって構築した!?」
ガルディニスが声を上げ、振り返ろうとする。やはり。転移した俺の魔力を目で追ったか。だが背後は取った。
クラウディアのそれではない。俺の転移魔法だ。母さんの遺した魔法の1つ。短距離を転移するための魔法、光魔法コンパクトリープ。難易度から鑑みるに階級にすれば第8ぐらいだろう。
奴が動くより早く。俺の背後に巨大なマジックサークルが展開する。
体内で練り上げて構築、発動待機させていたのがコンパクトリープ。杖を通さず、俺の身体を触媒に上級魔法を行使。故に発動は察知できなかっただろうが、代償として全身にダメージを受けている。攻撃を食らったのは敢えてだ。隙を作って大技にて先手を打たせ、それを転移魔法ですり抜けるため。
そして体内に収めきれない魔力は身体に纏う事で保持していた。魔力を纏う事で、体内の術式そのものも押し包んで隠している。
こちらが、本命――。
「行くぞ」
光魔法第9階級ブライトタービュランス。唸りを上げるウロボロスの先で展開した球形魔法陣内部にガルディニスが囚われる。
「上級魔法の2種同時行使――!? 貴様いったい――!」
無理があるのは承知。体外に纏う事で保持していた魔力だけでは足りない。術式の完成と発動維持に時間がかかる魔法だからこその選択。
天球に浮かぶ星々の輝きの如く、無数の光球が球体内部に生まれる。魔弾。光り輝く無数の魔力の弾丸が、球体魔法陣内部を縦横無尽に駆け巡る。それは魔弾の嵐。
ガルディニスが纏った瘴気で耐えていたのは僅かな間だけの事。その身体が封陣の内部で幾度も幾度も魔力の渦に巻かれて翻弄される。足りない魔力は循環で生命力を燃やすように変換、術式維持に練り込んでいく。唇を噛んで薄れる意識を繋ぎ止める。
「砕けろ!」
吼えて、飛ぶ。後ろに飛ぶ。一際輝く白光が、球体内部から溢れる。精霊殿の存在するドーム全体を白く染め上げ、球体魔法陣が大爆発を起こした。




