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番外763 南方からの避難

「そ、その。お代の方は?」


 と、ディアボロス族の村長がやや戸惑ったように尋ねてくる。


「必要ありません。僕がこういう提案をする目的は、こうしたところで犠牲を出したくないだけですから。僕も以前、こういうことがあって苦労したんです」


 そう言って苦笑して返す。

 ただ……ゴーレムに少し仕事を覚えさせる等という点では、少しだけ手間がかかるだろうか。メダルゴーレムに対して遠隔で指示出来るように手筈を整えるつもりでいるから、避難には影響がないようにするけれど。


「そ、そういう事なら……なあ」

「あ、ああ。話を聞いてみたい」


 村人達もエンリーカが一緒にいてくれるからか、俺の話に耳を傾ける気になってくれたようだ。


「では――」


 そう前置きしつつ、メダルゴーレムへの指示の出し方を教える。

 開拓村での日々の仕事をリストアップし、留守中にやっておいて貰いたい事……作物の扱い方……。


 村人たちがメダルゴーレムに指示を出すと、メダルゴーレムはそれに従って丁寧に仕事をしていく。


「ゴーレムは簡単な命令しか聞けないって話だが、結構複雑な命令でも聞きこなすんだな……」


 メダルゴーレムの様子を見て、騎士達が驚いたような表情を浮かべる。


「村人の指示に対して、こう動くようにと、現在進行形で入力していますからね。一通り仕事を教えて……問題が生じた場合は遠隔から直接、細かく指示を出せばいいというわけです。ただ、力仕事はゴーレムにしては得意ではない方ですね。出力を抑えて、長期間動けるようにする事に主眼を置いていますから」

「では……蛮族が襲ってきた場合は?」

「そちらに関しては村を結界で覆って対応しましょう。ゴーレム達が監視の目になりますし、敵がこの村に攻撃を仕掛けるなら、結界が破られる前に対処する、という事で」


 元々戦略的な価値は低めだ。村人がいないと分かればリスクを払ってまで攻める価値は無いが……まあ、結界はゴブリンや空き巣等への決定的な対策にはなるな。

 何体かのメダルゴーレムそれぞれに必要な仕事を覚えさせ、仕事に応じて仲間であるメダルゴーレムの動きを模倣するように、と命令を下す事で容量の削減を行う。


 後はシーカーを村に置いて、村の状態を遠隔から見る事ができるようにすると共に、問題が起きた場合に直接対応が可能なようにしておけば、村の中の仕事に関しては大丈夫だろう。


「どうでしょうか?」


 と、揃って畑を耕しているゴーレムを見ながら尋ねる。


「いや……これは……。思っていた以上にすごいものですな……。所々、儂らの動きを真似ているのでしょうかな」


 村長は空いた口が塞がらないといった様子だ。


「お手本があれば模倣はできます。問題があった時に直接指示を出した場合、細かい部分の技術はここまでにはならないと思いますが」

「な、なるほど……」


 村長は暫く固まっていたが、やがて気を取り直すかのようにかぶりを振って、村人達に向き直る。


「どうだろうか、お前達。ここまでしてもらった以上は、我らも行動で応えるべきじゃないかと思うんだが」

「そう、ですね。避難しても村の仕事が滞らないって言うなら……」


 村長の呼び掛けに、村人達も納得してくれたようだ。


「避難中の生活については、陛下も万事過不足ないようにする、との事です」

「そういうことでしたら……避難中に手伝える事があれば力になりたく思います」

「命だけじゃなく、生活まで守って貰ってるもんな」


 騎士の言葉に村人達は顔を見合わせながらそう言って頷き合う。

 そうして村人達は「都に行って魔王陛下の手伝いをしよう!」と気炎を上げていたりした。

 開拓村という事で、経験豊富な村長以外は基本的に若くて健康、体力自慢な面々が多いとの事だ。このまま兵士に志願してしまいそうな勢いにも見えるが。


 では――このまま村の周辺に結界を張っていくとしよう。王都側に問題がないなら、このままシリウス号で村人達の避難を手伝ってしまってもいいかな。




 メギアストラ女王に尋ねてみると、王都側の受け入れ態勢に関しては問題無いとの事で。結界を展開したらそのまま村人や世話の必要な家畜類をシリウス号に乗せて王都へ向かう、という事になった。


 俺達が結界を構築している間、村人達は火の始末をし、着替えや貴重品を俺が木魔法で作った箱に収納したりと、避難するための準備を整える。

 後で村を知らずに訪問してきた者に事情を説明しやすいように立札を残し……諸々準備を整えていく。


「里の皆を守ってくれた時の事を思い出しますな」


 そうした避難の為の準備を見て、オズグリーヴが相好を崩す。


「まあ……襲撃は受けていないからあの時程切羽詰まってはいないけどね」


 オズグリーヴは頷きつつもあの時の事を思い出したのか、機嫌が良さそうにしていた。


「ふふ。テオドールにはベシュメルクの時も助けられたな」


 パルテニアラやエレナも、そんなオズグリーヴの言葉に穏やかな表情でそんな風に言う。グレイス達も微笑みを浮かべて……うん。やや気恥ずかしいものがあるが。




 村人と共に連絡に来た騎士達もシリウス号に乗ってもらい、家畜もシリウス号に乗せる。


 村人達は迷彩フィールドを解いて姿を現したシリウス号に随分と驚いていたが、これほどの物で避難させて貰えるとは、と寧ろ感動している様子であった。

 シリウス号での避難については流れで決まった事だが、喜んで貰えたなら寧ろ良かったのではないだろうか。


 元々飛竜や幻獣を乗せるための設備がシリウス号にはあるので、そちらにリンドブルムやアルファ、コルリス、ティールといった動物組が家畜を連れて行き、飼料も運び込む。

 村で飼っている家畜に関しては巨大なダチョウ風の鳥、といった風情だ。羽毛が衣服や寝具にも使える他、牛のように力仕事もできるし、騎乗も可能。食糧になる卵も生み落してくれるとの事で、結構万能な家禽であるらしい。額のあたりから水晶のような質感の角が飛び出しているあたり、やはり魔界の生物、といった印象ではあるが、性格は大人しくて聞き分けも良いらしい。


 人員や必需品が間違いなく揃っている事を確認して結界を発動する。甲板に向かってメダルゴーレム達が手を振ったりお辞儀をしたりすると村人達もゴーレムに手を振ったりしていた。


「また……戻って来ような」

「ああ。ここまでしてもらったんだ。開拓も頑張りたい」


 そんな村人達の様子を見て、エンリーカが静かに頷く。


「これは――テオドール様達にお任せして正解でしたね。想念結晶により多くの力が蓄積されそうですし、士気も上がりそうです」

「そうだと良いのですが」


 ああ。村人だけだとそれほどの人数ではないが、この話が伝われば結果的に想念結晶への力の蓄積や将兵たちの士気という形で帰ってくるわけか。

 意識していたわけではないが、ベルムレクス討伐に向けて弾みがついた、という事で受け取っておくとしよう。




 南方主要都市への転移門の設置、開拓村民の避難を終えて王都ジオヴェルムへと戻る。


「無事で戻ってきたようで何よりだ。開拓村の皆については、急な話で大変だったが、よく決断してくれた。敵の動きがあってからでは対応も難しかったからな」


 シリウス号を停泊させて甲板に出た所で、メギアストラ女王が俺達を迎えてくれる。


「勿体ないお言葉です、陛下。我々の事まで気遣って下さったことを嬉しく思います」

「何かお手伝いできることがあれば何なりとお申し付け下さい」

「そなたらの気持ちは分かった。だが、今日の所はゆっくりと休むと良い」


 メギアストラ女王が女官達に視線を送ると、開拓村の住民達を案内していった。

 開拓民の荷物や家畜もシリウス号から降ろして引き渡すと、改めてメギアストラ女王に礼を言われた。


「村人の説得と避難の手伝いまでしてくれた事に礼を言っておこう。村人達も随分と気合が入っている様子だ」

「説得が上手くいったのも陛下が普段から信頼されているからかと思います」

「ふふ。そう言って貰えると嬉しいものだな」


 メギアストラ女王は笑顔で頷いていた。

 後は……王都側の転移門の意匠を対応する門と合わせれば今回の仕事は一段落だな。

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