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番外759 望外の幸運を

「いやあ、テオ君の話を聞いて魔界については色々想像していたけど、森の賢人の皆については穏やかで優しそうな人達だね」

「確かに。他の種族の人達ともお話をする時が楽しみですわ」


 アルバートが相好を崩し、オフィーリアもその言葉にうんうんと頷く。


「この場所は元々住んでいた胞子の谷にそっくり、という話だったわね。私としては……こういう環境は宵闇の森を連想してしまうわ」

「色んなキノコがあってわくわくするわね」


 アドリアーナ姫もファンゴノイド達の居住区画に入ると顎に手をやって、どこか楽しそうに言うとステファニアがうんうんと同意する。キノコに関する事なのでローズマリーもこっそりと羽扇の向こうで小さく頷いていたりもするが。

 魔法騎士団の面々はと言えば驚いたように周囲を見回していた。俺達やアドリアーナ姫程には特殊な環境を見慣れていないからかも知れないな。


「ルーンガルドにも胞子の谷のような場所がおありなのですか?」

「宵闇の森は、迷宮の一区画ですね。植物系の迷宮魔物の他にも、キノコ系の迷宮魔物も色々と出没する区画ですよ」


 ファンゴノイドの居住区画は森に近い環境で、食用ではあるが大きなキノコも自生しているから確かに印象としては似ているかも知れない。


「暗くて霧がかかっているのですが、庭園にも咲いていたフェアリーライトが自生しているので幻想的な印象がありますね」


 アシュレイが微笑んで言うと、ボルケオールはほうほうと感心するように頷いていた。フェアリーライトは自然界では環境魔力の濃い、陽の光が届かないような深い森の中で咲くらしい。但し、日中は全く光を発しないらしいので自然界で採集するのは困難という話だ。

 魔界では――上手くすると栽培できるかも知れないな。二つの世界で動植物を行き来させるのは少し慎重になる必要があるけれど。


「さてさて。それでは私は陛下がいらっしゃるまで、知恵の樹に見てきた事の報告をしておきましょうか」


 ボルケオールはそう言って知恵の樹に向かう。マジックサークルを展開しながら知恵の樹の幹に暫く触れていたが、ボルケオールの身体がぼんやりと輝き、知恵の樹もまた淡い光を帯びて……中々に神秘的な光景だ。


「綺麗な光ですね」


 グレイスがそう言って、マルレーンがこくこくと頷く。

 穏やかな波長の魔力を感じる。ファンゴノイド達にとっては先祖代々から受け継ぐ遺産。こうして見ていると大事にされている理由もよく分かるな。


 俺達もネフェリィとモルギオンの家に魔道具作りの為の設備や備品、資材を運び込んでメギアストラ女王が来るまで、作業を進める。そうこうしている内にファンゴノイド達から俺達が戻ってきたと連絡を受けたのか、メギアストラ女王とロギが地下の居住区画へやってきた。


「ようこそ、ルーンガルドの友よ。状況が特殊故、公の場所での挨拶ではないが、許されよ。魔王国を預かる者として諸兄らを歓迎する。余がメギアストラ=ジオヴェルラである」


 メギアストラ女王は新しく増えた面々を見ると相好を崩してそう言った。


「メギアストラ女王陛下に置かれましてはご機嫌麗しく。シルヴァトリア王国より父王、エベルバートの名代として参りましたアドリアーナ=シルヴァトリアと申します」


 アドリアーナ姫の自己紹介と共にシルヴァトリア魔法騎士団が一糸乱れぬ敬礼を見せ、続いてアルバートとオフィーリアが自己紹介をする。


「お目にかかれて光栄に存じます。ヴェルドガル王国よりメルヴィン陛下の名代として参りましたオフィーリア=フォブレスター=ヴェルドガルと申します」

「ヴェルドガル王国より名代補佐兼、魔法技師として参りましたアルバート=ヴェルドガルと申します。妻のオフィーリア共々、よろしくお願いします」


 アルバートとオフィーリアは現状、まだフォブレスター侯爵家を継いでいないので王族としての姓だ。これについては暫定的なもので、アルバートがフォブレスター侯爵家に入る際に王族から抜け、フォブレスターの姓を名乗る事になる。

 王位継承権絡みの事もあるからな。ジョサイア王子が正式に王位を継承すればヘルフリート王子共々、この辺の状況も動くのだろうけれど。


 そうして魔法騎士団、工房の面々と順番に自己紹介。魔王国の面々も応じるように名を名乗る。それが終わったところでルーンガルドであった事の報告だ。


「迷宮から転移魔法で、テオドール公の居城、フォレスタニア城へ向かいますと、そこには高位精霊殿とルーンガルド各国の王や女王が我々の到着を待っていて下さいました。支援の約束もして下さいましたが……細かい部分はボルケオール様の記憶で見た方が伝わりやすいかも知れませんね」


 エンリーカが状況を報告する。


「それは何よりだ。では……あちらの記憶を見せてもらうとしよう」

「畏まりました」


 メギアストラ女王の言葉にボルケオールが頷き、知恵の樹に向き直る。マジックサークルを展開して先程、知恵の樹に複製した記憶を呼び出すと――俺達と共に境界門を潜った後の光景が再生されるのであった。




「――テオドール公の話を聞いてはいたが、ルーンガルドにおける同盟各国の層は想像していた以上に厚そうだな」

「心強い事です」


 ボルケオールの記憶を見たメギアストラ女王が満足そうに目を閉じて大きく首を縦に振ると、ロギもまた何かを感じ入るように目を閉じて胸の辺りに手を当てる。


「料理も美味であったし、歌や曲も素晴らしいものであったな。我はルーンガルドが気に入った」


 アルディベラがそう言うと、エルナータもにこにことした笑みを見せる。


「ふふ。それは羨ましい。余もルーンガルドの訪問がますます楽しみになったな。それに……あれがティエーラ殿とコルティエーラ殿……。テオドール公を祝福している高位精霊達か」


 メギアストラ女王としては、普段からジオグランタと接していた事もあって、ティエーラが落ち着いた雰囲気の大人の女性であった事が新鮮であったらしい。こちらとしても世界を司る精霊であるジオグランタが幼い姿なのは新鮮だったと伝えると、楽しそうな笑みを返してくれるメギアストラ女王である。


「――ベルムレクスの出現は不幸ではあるが……こうして互いの世界の事を知った。平和的な隣人を持つ事ができたというのは……不幸を補って余りあるほどの望外の幸運だ。心強くもあり……嬉しいものだな」


 嬉しさを噛み締めるように言うメギアストラ女王の言葉に、居並ぶ魔界の面々は穏やかな表情を浮かべて首肯する。

 少しの間ボルケオールの記憶とメギアストラ女王の言葉の余韻に浸るかのような間もあったが、やがて気を取り直すようにメギアストラ女王が表情を引き締める。


 ルーンガルドの報告も終わったし、これからの話をしなければなるまい。


「ルーンガルドからの第二陣である援軍は魔法騎士団ではありますが、これ以後、体制を整えて更なる戦力の増強が行われる予定になっています。支援物資についても……対ザナエルクにおける準備や対策がそのままベルムレクス対策としても使えると思いますので、上手く活用していきたいところですね」

「後は死霊術対策ね。魔道具ではベルムレクスの干渉強度を上回る事はできなくとも、弱体化という観点で言うなら有利に運ぶ事はできるはずだわ」


 ローズマリーの言葉を俺も首肯する。軍を率いての大規模な戦闘となるのなら、相性の良い装備は必須だ。ましてや相手がアンデッドとなれば、対抗属性の武器が鹵獲されて敵側に使われる心配もあまり必要ない。


 アンデッドは大きく分けて負の魔力で活動する怪物と、魔術師に操られる死体を使ったゴーレム式とに分けられるが……ベルムレクスの扱う死霊術は――恐らくハイブリッドだな。

 エルベルーレ式の死霊術に邪精霊としての自身の性質も利用してアンデッドを強力なものに仕上げる、ぐらいの事はしてくるだろう。

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