番外758 第二陣と共に
「余らとしても魔界の状況については由々しき事態、と受け止めている。ベルムレクスの行いを捨て置けば、二つの世界にとってそれ以上の最悪の事態を巻き起こす危険性がある」
「……となれば総力を結集するのは当然と言える。ついては――まずは我らからの支援表明を実行に移す形として、テオドール達に続く第二陣が魔界へ降りる事になっている」
レアンドル王とファリード王がそう言って、居並ぶ面々の視線が第二陣に向いた。この辺の人選は前回の話し合いや通信機で俺達には通達が来ている。
「よろしくお願いします。私はシルヴァトリア王国の王女、アドリアーナ=シルヴァトリアと申します。こうして隣り合う世界の危機に際し、力になれる事を光栄に思っていますよ」
と、挨拶をするのはアドリアーナ姫だ。シルヴァトリアからは魔法騎士団の面々も同行予定だったりする。エリオットがシルヴァトリアにいた頃の知り合い達だな。
「初めまして。アルバート=ヴェルドガルと言います。ヴェルドガル王国の第四王子ですが……マルレーンの兄であり、テオ君と工房でいつも仕事をしている間柄、と言った方が皆さんには安心してもらえるかも知れませんね」
アルバートもにこやかな顔で挨拶をし、ビオラ達、工房の面々を紹介する。ネフェリィとモルギオンの術式も魔道具化が進行中との事で、残りはまあ……現地生産だな。
因みに今回はオフィーリアも魔王国に同行する。
アルバートとは新婚だしな。境界門で隔てられているからこそ、アルバートが魔界に向かうなら同行したいという本人の意向を汲んだ形だ。
名目ではメルヴィン王の名代という立場だが……その辺もフォブレスター侯爵がメルヴィン王に近しい立場であり、オフィーリアの人柄や能力も信頼されているからこそ、と言えるだろう。アシュレイやマルレーンもオフィーリアの同行は嬉しそうであるが。
七家の長老達は――別に仕事を抱えているので、今回は同行しない。後から手が空けばその限りではないが。ただ、ヴァレンティナは工房の手伝いの為に同行する事になっている。
「こうした面々が訪問可能な状況になったのは……今現在魔界が抱えている問題が深刻という事もあるが、何より貴国や貴国の要人が協力してくれるからこそであるな。今後の門の管理体制や隣り合う世界そのものについても、テオドールの手で調査と交渉が進んだお陰で、徒に恐れる必要が無くなったという部分も大きい」
メルヴィン王のその言葉に俺からも一礼し、ボルケオール達もその言葉に頷いていた。実際メギアストラ女王とジオグランタの協力は大きい。ベルムレクスの危険性が高いという事もあり、魔界探索前に比べると状況は相当変わった、と言えるだろう。
「一先ず、この場で確認すべき話は終えた。あまりゆっくりする時間がないのも理解しているが……我らからの友好の気持ちという事で、夕食の席を共にしたいと思っているのだが如何かな?」
「お心遣い感謝します、メルヴィン陛下。私達としてもルーンガルドの料理は楽しみにしておりました」
「それは何よりだ」
エンリーカが答えると、王達も相好を崩す。
ボルケオールはファンゴノイドだから夕食の席、というのも少し楽しみ方が変わってくるが「これは知恵の樹に重要な記憶を残せますな」と笑顔を見せていた。文字通りの歴史の証人というわけだな。
メギアストラ女王とジオグランタの意向についてもボルケオールとエンリーカが伝達し、今後の境界門管理についてもルーンガルドと魔界で共通の方針であると認識の共有ができた。
フォレスタニア城での夕食の席はセシリアと共に王城セオレムから宮廷料理人のボーマン、ホウ国の料理人コウギョク達もやってきて協力して作った、との事だ。
肉を重ねてチーズを挟んだミルフィーユに衣を付けて揚げる事でカツにしていたりして、中々手が込んでいる上に味も絶品だ。ライスにベーコンとキノコのスープ。エビチリ。コールスローといったメニューが並ぶ。
俺達が同行して食材関係の安全を確かめたという事もあり、俺が作った事のある料理は口に合うのではないかとの事で、こうしたメニューになったわけだ。魔物系の食材が多いのは迷宮だからこそだな。
「こいつは美味いな……!」
「ほんとだ! 美味しい……!」
と、ヴェリト達やエルナータも一口ごとに驚きや喜びの表情を見せてくれていた。好評なようで何よりだ。
ドミニクとユスティアも歓迎の為に楽士役をやりたいとフォレスタニアに来てくれている。劇場の公演は魔王国の正式な招待の時にとっておくという事だが、ドミニクもユスティアも楽しそうに歌声を響かせながら楽器を奏でていた。
「音楽というのは良いものだな」
と、楽しそうな笑顔を見せつつ身体を揺らしているアルディベラである。エルナータとオレリエッタも一緒に身体を揺らし、コートニー夫人に抱かれたデイヴィッド王子がキャッキャと声を上げる。
アシュレイやマルレーン、セラフィナやアピラシア。シオン達や双子も一緒に音楽に乗って身体を動かして、それをグレイス達が微笑ましそうな表情で見守ったりと……和やかな時間が過ぎていくのであった。
ベルムレクスへの対処はできるだけ迅速に行わなければならないという事で……夕食と食後のちょっとした歓談が終わればまた魔界にとって返す事になる。
物資の輸送は管理者権限と転界石を利用した転移陣で浮遊要塞に物資を送り、そこからシリウス号に積み込んで一気に魔界へ支援物資を搬入するという方式を取らせてもらう。
月の船の機能回復が行われた事で、管理者であるティエーラが許可をすればそうした方法も使える、というわけだ。
「ではな。テオドール。気を付けるのだぞ」
「私達も機が熟せば魔界に向かうことになる。それまでは無茶をしないようにな」
と、お祖父さん達が代わる代わるハグして見送ってくれる。
「ありがとうございます」
「こっちでも門の管理をしなきゃならないからな……。俺達の出番も多分大詰めになってからだな」
と、スティーヴンが言った。そうだな。エレナが魔界に向かう以上は、ガブリエラはどうしてもこっちに残っていなければならないから。
ユーフェミアは儀式が終わったが、ジオグランタにまた話をする事があるかも知れないからと、そのまま俺達に同行してくれる。
そうして各国の王達や高位精霊、知り合いの皆に見送られて……転移魔法で浮遊要塞区画に飛ぶと、早速アルクスやアルファの指示を受けた要塞のティアーズ達がシリウス号の船倉に支援物資の積み込み作業を行っていた。
支援物資の内訳としては食料品、魔石、魔道具、槍の穂先や鏃等の消耗しやすい兵器。鉄鉱石、ミスリル等の原材料といったところだ。
同行するみんなと共に浮遊要塞を通り境界門を潜ると、地下区画ではファンゴノイド達が待っていてくれた。
「おお、お帰りなさいませ」
「陛下とロギ様はあちこちに指示を出しておりましてな。代わりに我らが皆様の出迎えをするようにと」
「すぐにお二人も参られましょう。それまで私達の所へ」
「そうでしたか。みんなの紹介やお話する事も色々ありますが、皆さんの所で待たせて頂いて、メギアストラ陛下とロギさんが揃ってから、という事にしますか」
「承知しました」
魔王城にもだが、ネフェリィとモルギオンの家にも魔道具を作る設備があったからな。アルバート達もそっちで作業ができるという強みもある。魔道具作りの為の最低限の荷物は搬入しておこう。
他の支援物資の搬入については、明日――ドックからシリウス号を外に出した時というのが良さそうだ。




