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番外753 南方の要衝

「いかなる形であれ軍勢を従えていると考えた方が良いな。考えてみればあの土地は死霊術とも相性が良いかも知れん」


 メギアストラ女王が思案しながら言う。話し合いの内容はこのままベルムレクスへの対策会議にシフトした。


「と、仰いますと?」

「あの土地は常時凍りついた――険峻な山地なのだ。蛮族や魔物達もそこに適応しているし、山の中には入り組んだ洞窟があるらしく、有力な蛮族達はそこで暮らしていると聞く。アンデッドもさぞや長持ちさせられるだろう」

「元々が天然の要塞というわけね。魔石の確保も容易でしょうし……」

「ん。敵の軍備は潤沢と考えるべき」


 ローズマリーがその話を聞いて羽扇の向こうで表情をしかめ、シーラもそう言った。そうだな。奴には時間があったから、自らを高めるばかりではなく、そうした準備も進めていたと考えるべきだろう。


 それにしても凍りついた土地、というのは……。南半球側という事なのか、それともその土地全体が高地にあるからなのか。魔界だからそうした性質を持った土地が突然現れるというのも有り得るが、いずれにしても厄介な話だ。


「極端な土地と、そこに適応した魔物、というのはやや拙いですね。ルーンガルドでも、大抵そういう局地に住まう魔物というのは総じて強力であったりしますから。ましてやそれがアンデッド化しているとなると……」


 俺の言葉にラヴィーネやティールがこくこくと頷いていた。ラヴィーネもティールも術を使いこなす強力な種族と言って良い。幸いスノーウルフもマギアペンギンも凶暴な性質ではないが、ラヴィーネ達は周辺でそういった魔物を目にする機会もあっただろう。


「攻め落としても見合った益がない、とも言っていましたが、そういう事ですか」


 グレイスが目を閉じてかぶりを振る。

 苦戦が分かり切っている上に勝ったとしても土地を利用するのも難しいとなれば、な。

 幸い、大侵攻に加わるのは蛮族に分類される魔物達ばかりなのだろうし、環境に適応している土地の魔物達が外に出てこないのなら、撃退を第一にするというのは良く分かる話だ。


「確かに……魔界でもそういう傾向はありますな。蛮族が根城にしていると分かっていて放置されてきたのもそういう事です。人里から遠く、酷寒に守られた山地である為に兵站も難しく、多勢を頼りにする事もできないのに魔物は強い。とはいえ……アンデッドに対しても炎が有効というのは一貫した対策になり得ますかな」


 ボルケオールが言う。炎については、確かにな。


「問題はまだあります。ベルムレクスの居場所を特定しても実際に探し出すのはかなり困難かも知れません。過去、南方にあった国ではこの土地の蛮族はもっと切実な問題だったため、この土地がどうなっているのか、見つかりにくい種族に依頼しての潜入調査が行われたという記録が残っていますが……」

「洞窟内部はかなり広大で入り組んでいるという話だったな」


 エンリーカが言うとメギアストラ女王もその言葉を受けて、顎に手をやって思案する様子を見せる。魔王国優勢とはいえ元々問題のある土地だからか、メギアストラ女王もエンリーカもその土地の話には結構詳しいようだ。


「ベルムレクスの居場所についてはまあ、どうにかなるかと。宮殿で見つけて修復した魔道具は、ベルムレクスの原点ですから。本人の性質を知り、魔力波長を直接観測した今ならば、あの魔道具を触媒に、無害な呪法と精霊に対して交信する術を組み合わせて、比較的安全に追尾を行うことが可能です」

「洞窟の奥深くにいようが水の底に潜んでいようが最早関係がないな。奴の過去と精霊という性質が逆に仇になる」


 俺に同意するようにパルテニアラ女王がにやりと笑い、エレナも力強く頷く。

 そうだな。山地の洞窟内部にいて動かないというのなら、探知魔法を使った上で外から大魔法を叩き込んだり地形を切り崩したりして炙り出すという方法もある。

 まあ……カウンターを仕込んでいるかも知れないから、正確な座標への威嚇射撃と地形の変更が主になるか。

 そうした考えを説明すると騎士団長のロギやブルムウッド達が笑う。


「豪気な事ですな。いや、素晴らしい」

「まともに潜入して戦う必要がないだとか、取り逃す心配がないってのは有難いな」

「位置が捕捉されている事や籠城に意味がない事を理解すれば、潜伏や逃亡は不利になるだけだわ。前に出てこざるを得ないわね」


 クラウディアが俺の作戦に同意してくれる。そうだな。奴が用意した、防衛のための施設内部で戦う、という事はしなくて済む。ベリオンドーラや浮遊宮殿のようなものを用意している可能性もあるが……それも飛行船があればそこまで脅威にはならない。


「問題としてはそういう作戦を実行に移すにしても、奴の作った軍勢に対処しながら、という点は避けられないことですね。ただ、今回の場合は空から戦力を送れますし、そこを防衛の拠点と位置付けて戦えるので、兵力や地理的な面での不利は大分解消されるかなと」

「飛行船か」

「はい。仮に敵拠点が移動可能だとしても不利にはなりません」


 移動に合わせて追随できるからな。機動戦になれば敵の軍備の一部――例えば歩兵等は活かす事もできなくなるので、それはそれで構わない。


「敵が攻めてきた場合も、南方主要都市に監視の目を配置しておく事で、臨機応変にこちらの機動力を活かせる形を取りつつ準備を進める事になりますね。南方主要都市の防備はどうなっていますか?」

「当然ながら比較的厚いな。大侵攻への警戒は怠っていないのと……あの近辺は蛮族を警戒し、開拓村等が少ない事が特徴だ」


 それは助かる。ベルムレクスとしても天然の要衝で軍備も整えられるからこそ南方の雪山を拠点に選んだのだろうが……それも最善のようでいて魔王国南方の防備が厚いから一長一短というわけだ。


 後はこちらが準備を整えて攻め込むか、その前に敵が動くかといったところだな。

 その点では――現時点ではこちらに選択の余地がある。位置の補足が可能だから、初動を掴みやすい。それを向こうが予測しているならば……最善手は軍備を活かすために防衛における有利を選択しつつ、攻撃は呪法等によって行ったり、捕食により力を蓄える、ということになる。


 そうなるとやはり……状況を見ながらこちらから攻め込む展開になるな。正直ベルムレクスにはあまり時間を与えたくないというのもあるから、こちらがどこまで軍備を整えてから動くかの見極めが肝心になってくるだろう。


「そうなると……予定通り門の移設が重要になってくるわね」


 ステファニアが言うとマルレーンもこくこくと頷く。


「そうだね。戦力にしても物資にしても、魔界の門を通してルーンガルド側の応援と支援が期待できる。その点で相手側の想定を上回る状況が作れるかも知れない」


 俺がベルムレクスに呪法関係の技術を見せた事で、こちらをベシュメルクに関係がある者だとは予想しただろう。

 だが、ルーンガルド側の状況が多国間で同盟を結んでいて協力体制にあるだとか、転移港で迅速に戦力や物資を結集できる、とまでは予想できまい。

 それはベシュメルクの過去の罪を各国に明かしているという事に他ならないからだ。ベルムレクスはかなり狡猾だが、その辺の認識にまだ付け込める余地があるだろう。


「では……次は魔界の門の移設か」

「そうですね。これまでの情報から王都は安全である可能性が高い事も分かりましたし、ジオも魔界の門については協力を約束してくれましたから」


 アルクスのスレイブユニットも、魔界の門移設の話になるとバイザーの奥から光を放っていた。アルクスとしてはやはり、本体でも皆に会えるのを楽しみにしているようだ。そしてそれは、ルーンガルドのみんなも、だな。では――門の移設作業に移るとしよう。

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