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番外751 深淵に潜む影

 ジオグランタにこれまでの出来事を色々と説明していく。

 まず当人に関わりのある事から説明した方が分かりやすいだろうと、魔界の現状と魔力嵐の事やベシュメルクでの出来事から話をする事となった。


「――というわけで、エレナ殿下やパルテニアラ様と共に暴君は退けたのですが、ザナエルクの在位中は当然、魔界の門の向こうに目が届いていなかったために、僕達が確認に来たのです。ディアボロス族の面々やベヒモス――これは僕達がそう呼称した巨獣の親子と出会い、今の魔界の状況を調べている内に、こうしてメギアストラ女王と共闘する事になりました」

「……そうだったの。異界からの旅人が、私の出自に関わる出来事を知っているなんて、想像もしていなかったわ。不思議な因縁ね」


 と、ジオグランタはどこか楽しそうに笑った。


「魔界の成立については、元からあった場所に魔力嵐の災害で繋がって影響が出てしまった、という可能性もあるので、何とも言えないところがありますが」


 そう言うと、ジオグランタは首を横に振った。


「魔界についてはそうかも知れないわね。けれど私が今の私になった経緯については確信を持って言えるわ。さっきの話に出てきた精霊は……私ととても深い関わりがある。あなたが受けている加護から、懐かしいような、温かいような不思議な感覚があるの」


 ジオグランタは胸の辺りに両手で何か球体を掴むような仕草を見せる。ジオグランタの手の中に淡い光球が生まれて――俺の身に付けている高位精霊の加護を受けたタブレットが、夢の世界の外で僅かに共鳴したのが分かった。


「ああ……確かに」


 ジオグランタは俺の反応を見て「ね?」と、嬉しそうな笑みを浮かべた。


「だから、私は私自身の事を知ることができたし、こうして貴方達がこちらに来てくれた事も嬉しく思っているわ。貴方達は過去の出来事について大事になってしまったと複雑な感情を抱いているかも知れないけれど、私は――この世界で生きている子達が好きだもの」


 そう言って中空を漂う煌めきに向かってそっと手を翳し、目を細めるジオグランタ。

 印象や性格はティエーラとは結構違うが……そうして生命や精霊達を慈しむ性質はティエーラと良く似ているように思う。


「きっと、パルテニアラ様やエレナ殿下達はその言葉を聞いたら、心が休まるでしょうね」

「クラウディアやフォルセト達もね」


 ユーフェミアの言葉に頷く。


「ジオがこういう性質であることを知っていたから、大丈夫だろうと思っていたが……うむ」


 メギアストラ女王はそんなやり取りに満足そうに頷く。メギアストラ女王も魔界の今について肯定的だったしな。きっとジオグランタと仲が良いのだろう。


「時間的な余裕もあるようだし、もっと色々聞かせて欲しいわね。貴方達の事とか、私の――ええと、何て言えばいいの? 母なのか、姉なのか……まあ、その精霊の事とか」


 と、首を傾げるジオグランタである。

 ジオグランタにもティエーラとの関係はよく分からないようだが。うん。まあ、そういう事ならこれまでの事も色々と話をしていこう。




「それで……ティエーラの半身はどうなったの……?」

「ラストガーディアンから切り離されたコルティエーラは宝珠の一つに入って、今もティエーラやみんなと一緒にいますよ」

「ああ……! それは良かったわ……!」


 俺自身の話をすると、ジオグランタは眠っていて退屈していたからなのか、それとも元々の性格なのか、色々と興味深そうに、身を乗り出すようにして聞いていた。月での顛末は固唾を呑んで聞いていたようだったが、コルティエーラの今の状況を話すと、屈託のない笑みを見せるのであった。


 ティエーラは落ち着いた物腰だが、ジオグランタは年相応に無邪気な所がある印象だな。

 ルーンガルドの色々な話を聞いて表情をころころと変えたりしていたが、割と楽しんでくれているようで何よりだ。

 そうして俺達のこれまでの経緯や、これからの事について話をするとジオグランタは大きく頷くのであった。


「ルーンガルドでも有数の魔術師であると共に、私達精霊の盟友でもある、という事ね。色々と納得したわ。一度ルーンガルドの子達やティエーラには会ってみたいという気持ちもあるけれど……」


 ジオグランタはそう言って頷いてから言葉を続ける。


「まあ、その事は諸問題が解決してからね。捕食者の一件や、循環錬気を使って原因を探る事についても了解よ。テオドールさえ問題なければ、早速始めましょうか」

「ええ、こちらとしては問題ありません。まずは――そうですね。ティエーラにも施したのですが、精霊支配等の呪法に対する防御術式を用いてしまいましょうか」


 そう答えるとジオグランタは頷く。夢の中の世界を通してであるが防御術式をジオグランタに施し、循環錬気中の干渉ができないように予防措置を講じておく。ジオグランタ自身にもこうした術式を覚えて貰っておくと安全だろう。


 というわけで詠唱やマジックサークル等、術式についても教えて、記憶してもらった。


「心強い術ね」

「これを覚えておけばエルベルーレの精霊支配の術や呪法の類は弾けますからね。魔道具化したものを身に付けて貰えば安心なのですが、それについては後で行いましょう」


 というわけで――ジオグランタとの循環錬気を始めるとしよう。夢の世界なので疑似的ではあるが、効果として問題がない事もティエーラとの実験で分かっているからな。


 ジオグランタの手を取り、俺も魔力の動きに集中するために目を閉じて循環錬気を行う。

 そうする事で魔界を取り巻く環境魔力の動きが――見える。

 ティエーラのそれに比べると、荒々しさを感じる部分が多い。


 大きな力の流れ。間欠泉のような噴出点。魔界を包む空の輝きも、各地にある変異点も……決して邪悪なものではなく、命を守り育む為にジオグランタの力が形成している物だ。


 そんな中から龍脈の流れを追えば――ああ。これは王都ジオヴェルムかな。想念結晶の塔が龍脈と繋がっているのが見て取れる。

 ジオヴェルムの場所が特定できたという事は、ティエーラとの実験データを基にして当て嵌めてやれば、魔界の地脈の流れとその位置関係を特定する事も出来る。これで色々見通しが立ったな。


「これから龍脈に異常がないか、あちこち追っていきますので、少し時間がかかるかも知れません」

「問題ないわ」


 ジオグランタの同意を貰ったところで、まずは王都から繋がる龍脈の流れの――その先を追っていく。最初にジオヴェルムからの流れを追ったのは、捕食者が儀式そのものに手出しをすることを狙っているのではないかと予想を立てているからだ。そうした手を取ろうとしているのなら、王都から龍脈で繋がっているどこかに陣取るという事になる。


 一つ一つ確かめていき――やがて王都からずっと南方の土地にそれを見つける。

 発見した時――それは最初、微動だにしなかった。

 だが、その術式に覚えがある。あれは呪法だ。迷宮核に仕掛けられた、呪法によって作られたウイルスのようなもの。

 まるで蜘蛛のような呪いの形。龍脈に巣食い、精霊に探知されないように息を潜めるその術式。蜘蛛の背に半身を埋めるように、何かが身じろぎをする。


 こいつ。こいつが捕食者だ。どこまでも黒に塗りつぶされた、底知れない闇のような魔力の波長。


 ――ぞくり、と。背筋に走る冷たい気配があった。俺が視ている事に奴も気付いたのだと直感する。


 環境魔力とは違う魔力の動き……! 干渉があったと察知するや否や、即座に呪法を起動させる気配!

 だが――このタイミングでの干渉は想定の範囲内だ。儀式もまた、俺達を守る防壁としての役割を果たす。遠隔呪法戦。条件は、こちらの有利だ。


 呪法に対するカウンターは、こちらも仕込んでいる。縁を結んで接続しようとする術式に合わせてカウンターを発動させると、奴の術式が弾け飛ぶ気配があった。僅かな一瞬での、術式の交差。


 本体を狙ったものだが、回避された。接続して術を使っているからこそ、どこかでその脆弱性に気付いて、防御手段を用意していたな?


 展開されていく呪法防壁。循環錬気も拒まれて、遠ざかる気配。

 こちらからの干渉が届かなくなる、その間際に。

 奴は――心底嬉しそうに笑っていた。自分の胸の辺りに手を当てて、言葉を紡ぐように口を動かす。名前を名乗ったのだと分かった。


 ……こうして干渉し、奴の魔力波長や出自まで知っている今なら、遠隔呪法を用いる事で居所を追う事も可能だろう。

 だからこそ、奴はそれを承知で名を名乗った。つまり、あの笑みに込められているのは受けて立つという、戦意と殺意。或いは、俺を捕食できるという喜びだろうか。


 楽しい獲物を見つけたというところか?

 上等だ。こちらとしても、お前を逃がすつもりはない。

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