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番外750 魔界の精霊

 魔王城地下の儀式場に移動し、魔法陣を構築していく。

 基本的には魔界の精霊との交信にしか使われない場所らしい。想念結晶を使うために壁や床に色々と手を加えられているものの、何かあった時の為に幅広く対応できるように、儀式場の設備に影響されず魔法陣を描く補助的なスペースもあるとの事で、今回はそちらを使わせて貰っている。

 補助的といっても十分な広さで、メギアストラ女王が人化の術を解除しても問題ないあたり、流石の設備と言えよう。


 魔法陣に間違いがないようにバロールの視点で直上から確認してもらい、俺自身とウィズ、それにみんなからも二重、三重にチェックをしてもらう。儀式の途中で夢の世界に向かうという事もあり、少し魔法陣の広さに手を加えてある。つまり――メギアストラ女王が元の姿でいられるように俺達が入る円の部分をかなり大きめにしてあるのだな。

 本人の意見を参考に魔法陣内の円の大きさを決めてある。それでも記述としては問題無い。外周が広くなり、魔石の粉を若干多めに使う程度の話だ。


「図面と比べても問題無いように見えるわ」


 ステファニアが図面と見比べ終ったらしくそう言ってくる。


「ありがとう。こっちでも確認したけど大丈夫そうだ」

「こちらの準備もできている」


 メギアストラ女王がそう言ってくる。儀式の手順等々については説明してある。後はこのまま進めるだけだ。


「では――始めましょう」

「うむ」


 俺の言葉に頷いたメギアストラ女王が少し空中に浮かんで、身体が光に包まれたかと思うと、一気に巨大化して本来の姿となった。

 本来の姿――黒竜だ。全身を覆う漆黒の鱗は装甲のようで、大きな翼の翼膜は黒紫色だ。全体的なシルエットは流線形で力強さを感じさせながらも比較的スマートで優雅な姿をしているという印象だ。


 尾も細めで鞭のようなしなやかさをもっているが、背筋に沿った中心部分の鱗がヒレのように変化しているのが、余計にそう感じさせるのだろう。この部分も黒紫色で、先端部分が薄く発光していた。


 頭部後方に向かって黒紫色の角が何対か伸びているが……こういった部分は人化した時の髪の色に似ているな。

 十分な迫力と、内に秘めた膨大な生命力や高い魔力を感じるものの、目には確かな理知の輝きがある事が窺える。


「ふむ。この姿をそなた達に見せるのは初めてだから、些か緊張するな。竜種は同じ種族であっても生き方や考え方によって、見た目に個性が大きく出るものでな。私は同族の中でも……結構変化の大きい方なのだ」


 と、メギアストラ女王はやや冗談めかしながらも自身の翼や尻尾に目を向けたりしている。なるほどな。魔王として生きている黒竜なんて他にいないだろうし、その辺りが変化が良く出る部分なのだろう。後は頭部の角あたりにも個性が出ていそうだな。


「竜らしい強さも感じますが、メギアストラ陛下の場合は優雅な印象がありますね」

「ん。格好いい」


 俺とシーラが感想を口にすると、マルレーンがシオン達やカルセドネ、シトリアと一緒に笑顔でこくこくと頷く。みんなも笑顔で同意していた。


「ふふ。そう言って貰えると嬉しいものだ。この姿だと怖がられる事もあってな」


 メギアストラ女王はゆっくり降りてくると、魔法陣の中の俺達が入る円に沿うように身体を横たえる。


「大きさは問題ありませんか?」

「丁度良いぐらいだな」


 どうやら問題なさそうだ。魔法陣の線も一時的に固着させているし、簡単に消えたりはしないだろう。

 頷いてメギアストラ女王の傍に俺達も移動する。ユーフェミアとホルン。それからメギアストラ女王と、それぞれの手首にミスリル銀線を軽く巻きつけて準備は完了だ。ユーフェミアが俺の肩に手を置き、ホルンが足元に身体を寄り添わせる。メギアストラ女王の尾の先端が、軽く腰のあたりに触れた。


「では――始めましょう」

「何時でも良いぞ」

「私達も大丈夫」


 俺の言葉に、メギアストラ女王とユーフェミアが答えて、ホルンもこくんと頷く。


「お気をつけて」

「精霊殿の事を頼む」

「ああ。行ってくる」


 グレイスやパルテニアラの言葉を受けながら、術式を起動させる。魔法陣が光を帯びて――俺達の意識は一気に夢の世界へ沈んで行った。


 ――ティエーラの時と同じだ。暗闇の中をゆっくりと眼下にある大きな存在に向けて降下していくような感覚。一緒に動いているのは同行者であるユーフェミアとホルン。それからメギアストラ女王だ。


「余の背に乗ると良い」


 メギアストラ女王の言葉。


「ありがとうございます。確かに固まっていた方が良いかも知れませんね」


 そう答えて、メギアストラ女王の背に乗る。そうして俺達は、魔界の精霊に向かって進んでいく。


 やがてそれに到達した瞬間、暗闇の世界が弾けた。


 俺達が立っているのは――淡い緑に光る水晶が林立する大地だった。罅割れた大地の裂け目から赤いマグマが覗いていたり、針のように尖った山々が見えていたり、遠くの空に雷が走っていたりと、やや剣呑な景色ではある。

 ただ……ティエーラと同じように、魔界の精霊が一つの世界を司るというのなら、やはりティエーラの夢に似ている部分があるように思う。


 やや荒涼とした景色だが、それでもあちこちに生命や精霊の輝きが煌めいているのだ。

 厳しい環境ながらも、その中に生命を育む温かさのようなものも感じられる。例えばこの水晶がそうだ。穏やかな波長の魔力を周囲に拡散していて、恐らく体内に魔石を有する魔物にとっては、これの近くにいるだけで生命活動を維持できるのではないだろうか。


 メギアストラ女王は翼を広げて、ゆっくりと夢の世界に広がる大地へと舞い降りる。そうして周囲を見回し、声を上げた。


「ジオグランタ。姿を見せてくれないか? 今いるこの場所は夢の中ではあるが、起こさずに話ができる方法があるので会いに来たのだ」


 そう呼びかけると、少し間を置いて周囲から魔力が集まってくる。王都の名も魔王の称号も……精霊から名前の一部を借りているわけだな。

 力強い魔力が渦を巻くようにして集まって光を放ち、そしてその光の中から魔界の精霊ジオグランタが姿を見せた。


 鮮やかな青い髪と、やや切れ長の意志の強さを感じさせる瞳。

 意外と言うべきか考えてみれば納得というべきか。ティエーラに比べると見た目は大分幼いな。人よりは長生きなのは当然だが、世界を司る精霊としてはまだ幼い、という事なのか。見た目は少女でも、宿している魔力は相当なものだ。


「力を抑えたまま話ができる……。中々面白い手ね、メギアストラ。彼らが考えた方法なのかしら?」


 ジオグランタはそう言って、小首を傾げてこちらに視線を向けてくる。


「初めまして。テオドール=ウィルクラウド=ガートナー=フォレスタニアと申します」

「ユーフェミアよ。この子はホルンね」

「ジオグランタよ」


 それぞれ自己紹介をしてから、今のこの状況について説明する。ユーフェミアとホルンの能力を交信の為に儀式に組み込んで、眠ったままでジオグランタに会いに行くという手を打ったと、掻い摘んで説明する。


「テオドール達がここに来た理由は話すと長くなるが――」

「維持するのに問題がなければ、じっくり話を聞かせてもらいたいところだわ」

「その点は問題ありませんよ」


 ユーフェミアもホルンも、術式の維持に関しては問題無い。色々話をする事も想定しているのでその点は確認を取ってある。ジオグランタに信用してもらう為には丁寧な説明も必要だからな。


 ジオグランタが自分の出自を聞いてどう思うかは分からないが、メギアストラ女王は大丈夫だと太鼓判を押してくれたからな。それを信じて腹を割って話をしていこう。

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