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番外748 月と魔界の因縁

「こうして落ち着いてから見てみても、やっぱり綺麗な景色ですね」


 俺の言葉にユーフェミアとホルンも同意するように頷き、ティエーラも相好を崩した。


「ふふ。気に入って貰えて嬉しいですよ。人の子がしているように、招待したりされたり、というようで中々楽しいですね」

「私の能力なら他の人にもこの光景を見せられるとは思うけれど、儀式中だとどうなのかしら?」


 ユーフェミアが言うと、ティエーラも「それは良いですね」と、こちらを見てくる。


「魔法陣の外にも影響を与えられるよう術式を使う必要があるけど、結論から言えば大丈夫だよ。本当はこういう儀式で外を巻き込んだりすると危険も考えられるんだけど、儀式の相手が信頼できる時、周囲の状況が安全な場合は話が別だからね」


 魔界の精霊との交信の場合なら……メギアストラ女王と面識のある相手で目的も一致しているから大丈夫そうにも見えるが、その場合信頼云々というより俺達とは初対面だし、相手側に警戒されるような事はしない方が良い。捕食者の問題も解決していないから、儀式周辺の防御も心配だしな。


「それじゃあ、風景をみんなにも見せてみるわ」

「分かった」


 というわけでカドケウスから外に連絡してもらってマジックサークルを展開すると、ユーフェミアが儀式を行っている広間に、夢の世界の風景を投影する。夢の中と外にいる面々。それぞれの幻影も一緒に見せる事で、会話が成立するようにユーフェミアは仲介してくれているらしい。


「これがティエーラ様の夢……」

「確かに美しい景色だわ……」


 グレイスが遠くを見ながら言うとローズマリーも静かに頷く。みんなも周囲に広がった景色に見惚れているようだった。


 スティーヴン達と双子も、驚いたり笑顔を浮かべたりしているのを見て、ユーフェミアは嬉しそうな顔をしていた。ユーフェミアとしては、これを見せてあげたかったのだろう。


 俺も……みんなと一緒にこの光景を見る事ができたのは嬉しい。みんなと寄り添って暫くの間景色を眺める。そしてティエーラも、そんな俺達の様子に、優しげな笑みを浮かべるのであった。




 そうして暫くの間、みんなと共にティエーラの夢の世界を堪能し、俺達は儀式を終えて現実へと戻ってきたのであった。


「儀式が上手くいったようで何よりです」


 そう言って穏やかに笑って俺達を迎えてくれたのはオーレリア女王である。

 俺達が儀式をしている間に転移港にジョサイア王子が迎えに行っていたらしい。魔界に行っていることは秘密なので、オーレリア女王も観光目的という名目になっているけれど。


 オーレリア女王はネフェリィとゼノビアについての調査が終わったとの事で、俺達が魔界から戻ってきている事を知ると直接伝えに来てくれたというわけだ。

 というわけで、場所を迎賓館に移し、目を覚ましたティエーラとコルティエーラを交えてオーレリア女王の調査結果を聞くという事になった。


 目を覚ましたばかりで薄く光を放つコルティエーラを、ヴィンクルがティエーラの所に運んでいく。


「ありがとうございます、ヴィンクル」


 ティエーラは笑顔でコルティエーラを受け取り、コルティエーラもやや寝ぼけながらもヴィンクルに礼を言うように明滅していた。そんな反応に満足そうに頷くヴィンクルである。


 そうしてセシリアがみんなにお茶を淹れてくれたところで、オーレリア女王が頷いて口を開く。


「調査結果だけれど……そうね。結論から言うのなら姉妹の家とイシュトルムの家には接点があったわ」


 そう言って机の上にいくつかの記録媒体を並べて、その内の一つを起動してくれるオーレリア女王である。四角いブロックのような記録媒体の角から、光が放たれて映像が映し出される。どうやら、本をそのまま閉じ込めた記録媒体のようだな。オーレリア女王がブロックを軽く撫でるとページが進んでいく。


「これは月の貴族の家系図。家と年代別に管理してあるのだけれど、結構数が多くてね。文官達が頑張ってくれたお陰で見つける事ができました」

「それは――ありがとうございますと伝えておいて下さい」

「ええ。皆も喜ぶでしょう」


 オーレリア女王は笑顔で応じる。そうだな。かなり迅速に探してくれたようなので、文官達も相当頑張ってくれたのだろう。

 そんなわけで家系図を見ていくと……そこにはネフェリィとゼノビアの名前が記されていた。デュカキス家に生まれた二人は――地上に降りている時に魔力嵐の災害に遭って死亡した、と記されているが……姉妹の父はそうやって娘達の死を偽装しつつも魔界との間で連絡を取っていたからな。


 そういう事もあって二人の父親は冷淡な印象があるが……この場合、仮に後で戻ってきた時も、どうにか魔力嵐を避けて生き延びていたと主張する事は可能……かも知れない。

 それに……ネフェリィとゼノビアは側室の子か。そう、だったのか……。だから密偵としての訓練を積ませたり密かに地上に送ったりもできた、と?


 そのデュカキス家の当主である父親ディオゲネスに関する記述も残っているが……こちらは病死しているな。正妻とその子も……後年になって亡くなって、家が断絶してしまっているようだ。


「そしてもう一つ」


 オーレリア女王が別の記録媒体を起動すると、そこに別の家系図が表示される。


「これは――」


 後の死睡の王――イシュトルムの名がそこにあった。今回注目すべき点としてはディオゲネスの正妻であった人物が、イシュトルムの家系に名を連ねていた事だろうか。


「親戚の関係にあったのね」


 クラウディアが静かに言って目を閉じる。


「ええ。彼らの家は後に途絶えてしまっているから……イシュトルムの家系が遺産を引き継いだようです。エルベルーレの呪法を得るために暗殺したのか、それとも偶発的にそうなったのか、記録の上では分かりませんが――」

「いずれにしてもイシュトルムはエルベルーレの呪法を知り得る立場にあり、後年になって魔人化を確立、提唱したという事になりますか」 


 俺がそう言うと、オーレリア女王は真剣な表情で頷いた。

 月の民の魔人化については修練だけでなく確固たる目標と覚悟が必要となる。子々孫々まで巻き込み、自身の行く道を後戻り不可能に縛る。確かにそれは呪い以外の何物でもない。


「色々と因縁を感じる話ではあります」


 本当に……。過去の出来事が回り回ってという印象だ。


「そうね……。いずれにしても、エルベルーレ王とゼノビアの遺した怪物については……私達にとっても他人事ではありません。メギアストラ女王には月も力になると、そう伝えてください」

「分かりました。ティエーラにも魔界の事を頼まれていますので、気合を入れていきたいと思います」


 魔界の扉についても、儀式後の状況に応じて王都ジオヴェルムに移す事を視野に入れている。死霊術で魔王国内の重要情報を手に入れていたという可能性が出てきたが、そうであるなら捕食者が王都近辺に潜伏し続けなくてもいいという事になる。遠隔で龍脈等に影響を与えているなら、逆に王都の安全が確保されるという事だ。


 そうなれば、援軍、防衛、避難といった面で魔界の扉を王都に移設する事のメリットが色々と出てくる。

 魔界の精霊の事もあるからな。パルテニアラとしては、話の通しやすいメギアストラ女王の代に魔界の精霊と契約をすれば、将来に渡って扉の安全も確保しやすくなるだろうと考えているようだ。


 オーレリア女王としても、移設に伴い、月からの援軍や支援も視野に入れているだろう。捕食者は死霊術を使えるという事もあり、時間をかけて手勢を準備している可能性も高いからな。

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