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番外747 星の見る夢

 フォレスタニアの居城の一角に、魔法陣を描く。魔法陣の線はいつものように魔石の粉だが、これを一時的に固めて儀式の途中で消えないように加工してある。

 広間全体に広がる大きな円と、俺とユーフェミア、ホルンが入る事になる比較的小さな円。

 魔法陣の内容を細かく見ていけば……魔法生物と対話する魔法陣とも少し似た記述が含まれており……精神世界で繋がる為の儀式という事が分かるだろう。


 祭壇とその上に並べられた触媒。地水火風の四大属性を表すそれぞれの触媒は、それぞれの属性に親和性を持つ、魔物の鱗や爪、牙といったものだ。


「東西南北に配置された魔物由来の触媒と、中央に配置した水晶球でティエーラに見立てているわけだね。俺達の場合はティエーラとは顔見知りで、出自も知っているから、本来なら触媒無しでも交信しに行けるけれど」

「今回の場合はティエーラ様側からは動けないので、会いに行くというわけですね」


 アシュレイの言葉に頷く。


「そうなるね。こっちの小さな円の周りの魔法陣の記述がユーフェミアとホルンの能力を組み込んで祭司役――つまり俺と同調させるための物になる。儀式中は循環錬気をするから、互いの身体のどこかに触れていれば大丈夫」


 これから行う儀式について細かく説明する。ユーフェミアとホルンだけでなく儀式に直接参加しないみんなも俺の話に真剣な表情で耳を傾けているようだ。

 事前に細かい説明があった方が、儀式に参加する側としても見ている側としても、安心できると思うからな。


 俺は小さな円の先頭で祭壇に向き合って儀式を進める事になるから、実際には背中や肩に触れてもらう、という形になるだろうか。

 一応ミスリル銀線も用意してあるので手首や腰に軽く絡めておけば、儀式中に意識がティエーラと同調しても手を離してしまって循環錬気が途切れる、という事もあるまい。


「私達はいつ能力を使えばいいのかしら?」

「最初から展開していても大丈夫。仲立ちはこっちでするから。でも循環錬気で合図を送るよ」

「意思統一も簡単になりそうだものね」


 そうだな。循環錬気なら魔力操作次第で色々な合図ができるので手順を進める、中止するといったこちらの意志を伝えるのも簡単だ。ティエーラの存在を見逃すという事はないけれど、これは本番前の練習でもある。安全性が高い儀式といっても気を抜くのは違うからな。


「それじゃあ、そろそろ始めようか」

「お気をつけて」

「ティエーラ殿によろしくのう」

「うん。行ってくる」


 みんなに見送られ、魔法陣の中に入る。シーラと一緒にマルレーンとステファニアがサムズアップしていたりして、思わず笑みが漏れた。


「また後でな」

「ええ。また後でね」


 ユーフェミアもスティーヴン達に見送られ、ホルンもコルリスやティール、ヴィンクルと軽く鼻と手をタッチさせたりして魔法陣の中に入った。

 腰の部分に軽くミスリル銀線を巻いてから、ユーフェミアとホルンの手首と前足に、それぞれ軽く絡める。ユーフェミアは俺の肩に手を置き、ホルンは俺の足に寄り添うように触れた。

 では――始めよう。みんなの見守る中で儀式が始まる。ユーフェミア、ホルンと循環錬気を開始。ウロボロスの石突で床に触れてマジックサークルを展開する。


 魔法陣全体が発光して、場に満ちる魔力が高まる。術式が起動。循環錬気を介して二人に合図を送ると、ユーフェミアとホルンが能力を展開する。俺の意識も――深く深く、地の底に潜る様に沈んでいく。


 目を閉じる。何か大きなものに乗って高速で流れていくような感覚と、眼下に広がる――とてもとても大きな存在。

 星の上にいるという自覚。自転と公転が感覚的に伝わってくるというのは……中々不思議なものだ。或いはこれがティエーラの感覚なのかも知れない。


 ユーフェミアとホルンが少し戸惑ったようだ。魔力循環を通して心配ない、と告げると向こうもその意図が伝わったのか気を取り直したようだ。


 目を閉じているのか、もう夢の中にいるのか。俺達は暗闇の中をゆっくりと沈んでいく。


 そうして身体全体が星の中心に沈み込むようにどこまでも深く深く進んで。大きな存在にどんどんと近付いていくような感覚があった。

 その存在に身体が触れたと思った瞬間――。


 弾けるように、風景、世界が一変した。

 それは――青い青い世界。鏡のような水面の上に立っていた。雲間から光の差し込む空と、どこまでも拡がる、見渡す限りの水平線。波はない。どこまでも穏やかな水面。少し離れた所に噴煙を上げる新しい島があって。微かに頬を撫でるような風が通り抜けていく。

 水面の下にも空にもいくつものきらきらとした輝きがあって。近い空に月やその他の惑星が浮かんで見える。


「何て――綺麗な夢」


 ユーフェミアが呆けたような表情で声を漏らす。同感だ。俺もホルンも、その夢の世界に見惚れていた。


 これがティエーラの夢。或いは普段認識している世界の形が混ざっているのかも知れない。

 煌めいている無数の輝きは、多分ティエーラを取り巻いている生命や精霊達で。月や同じ恒星系の惑星を、俺達よりもずっと身近に感じているのだろう。


「よく来てくれましたね」


 光が集まるようにしてティエーラが普段の姿を見せる。普段から顕現しているのはティエーラのほんの一部だ。それは俺達と交流するための姿でもあるが……今日のティエーラは目を開いていた。優しそうな青い双眸が俺達を捉える。

 ティエーラは星そのものの精霊だ。普段はいくつもの生命や精霊を視覚以外の感覚で捉えている節があるようだが、夢の世界ではそれもあまり関係がない、という事なのだろう。


「ああ。ティエーラ。無事に会えて良かった」


 俺の言葉にティエーラは穏やかに微笑む。


「こうして普段より身近にあるというのは……私にとっても不思議な感覚ですが、まずはするべき事を済ませてしまいましょうか」

「ん。そうだね」


 そう言って、ティエーラと手を繋ぐ。循環錬気――というよりは今ここにいる俺達は精神体なので、それを模した魔力の動きだが、それでも効果はある。


 ティエーラの感覚と繋がって、五感リンクで現実のそれと薄くリンクする。

 夢の世界を通してのものなので大まかな流れしか感知できないが……目的を考えればこれで十分だ。そもそもティエーラの感覚をそのまま受容できるとも思えないし。


 目を閉じて、五感リンクに意識を集中させる。身体の周りに感じる温かな感覚は……多分無数の命と精霊達。ティエーラがそれらの存在に対してこう感じている、という事だ。

 ああ、これは……確かにずっと身を置いて、見守っていたくなるというのも分かる気がする。


 それから、ティエーラ自身の身体の感覚――魔力の流れに意識を向ける。

 龍脈や魔力溜まり。身体感覚と惑星の位置座標と見立てて一致させるのはやや手間取ったが、龍脈の集まる場所――境界迷宮の位置は特定が容易だったので、そこからは星球儀の情報と照らし合わせて、あちこちの魔力の流れを一致させる事ができた。


 これなら魔界の精霊と繋がった場合に、どこにどんな魔力の流れがあるかを把握する事ができる。


 こうして同調して認識はする事はできるが、循環錬気で流れを変える事は――流石にできない。感覚を同じスケールに合わせているが、本当の流れの大きさが違い過ぎるからだ。

 これは魔界の精霊と同調した時に原因を探る事はできても、直接干渉する事はできない、という事を意味している。


 星の魔力の流れを直接変えるのは様々な方面への影響が大き過ぎる。月の船もかつてそれと同じことをしたけれど、それは魔力嵐の災害という非常事態だったからだ。

 不可能だとは言わないが、やるのなら長期的な計画として進めなければならないだろう。


 今回の魔界の一件に当てはめるなら時間的な余裕がないから、原因を特定するのは夢の中で行い、その解決は現実で行わなければならないという事だ。


 だがまあ……これでどうにかなりそうな目算は立ったな。


「もういいのですか?」


 ティエーラから離れると、そう尋ねてくる。


「ああ。これならどうにかなりそうだ」

「それなら――良かった。どうか、その子を助けてあげて下さいね」


 俺の答えに、ティエーラは目を細めて微笑むのであった。

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