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番外746 交信に向けて

 今後の事を幾つか話し合い、方針が定まったところで一旦捕食者対策の話し合いも終了となった。アルクスにも連絡を入れて地下拠点に異常がない事を確認し、一時的に魔界の扉を開いてから宮殿の調査結果や現在の状況についての報告、今後の相談の伝達といった事を済ませておく。


 明日になったら精霊との交信や今後の為に動いていく事になるが、ユーフェミアを迎えに行くなど諸々の仕事があるので一旦ルーンガルドに足を運ぶ予定なのだ。連絡に関してはこれで一先ず大丈夫だろう。


 そんなわけで今日は魔王城に一泊するのだが……ネフェリィとモルギオンの拠点に泊めてもらおうという事になった。

 墓前に厄介になります、と挨拶をしてから宿泊の準備をし、夕食後に時間が余っていたのでどうせだからと家財道具も修復しておく。


 ネフェリィとモルギオンの拠点に関しては家財道具が朽ち果てていたが、なるべくそれらの残骸を原材料に加えながら木魔法を用いて修復を進める。

 机に椅子、寝台に竈、水桶、浴槽等……モルギオンの記憶に合わせてなるべく忠実に再現しようというわけだ。


 ネフェリィとモルギオンは拠点の中に家庭菜園とも言うべき栽培部屋を持っていたが、それもメギアストラ女王が栽培用の植物を手配したり、ファンゴノイド達が食用キノコの菌床となる朽木を持ち込んだりと、元通りにする方向で話が進んでいたりする。


「よし……。こんな感じかな」


 光球の中に木材を溶かして再形成。家財道具の形に直して配置していく。


「改めて見ると、不思議ですね。ネフェリィさんもモルギオンさんもずっと昔の人なのに、記憶のままの光景に修復されていくというのは」


 グレイスが元通りになった居間を見て笑顔になると、マルレーンが嬉しそうにこくこくと頷いていた。


「あの二人の遺してくれた術式もあるし、捕食者との戦いでは活用したいところだね」

「ん。一緒に戦ってくれてる感じ」


 俺の言葉にシーラが頷きながら言う。そうだな。アルバートにも頼んでネフェリィの術式を刻んだ魔道具の準備も進める予定だ。

 そうして最後の椅子を設置してやれば……これで大体モルギオンの記憶の通りだ。布団等の寝具はメギアストラ女王が手配してくれたので、今日の所はこのままのんびり休ませてもらうとしよう。




 そうして一夜が明ける。諸々の準備を整えてくるという事でメギアストラ女王達に見送られ、一旦ジオヴェルムを後にして地下拠点へと向かった。

 今回は地下拠点に向かうので終始迷彩フィールドを展開しての隠密行動だ。道中、追跡が無いか等、捕食者への警戒を払いつつの移動であったが、これも特に異常はなかった。


「追跡は無し、か。諜報局の探知の網にも長年引っかからないあたり、やはり捕食者はどこかで自分の計画を淡々と進めている公算が高いわね」


 何事もなく地下拠点に辿り着いたところで、クラウディアがそう言って目を閉じる。


「そうだね。静かなのが逆に不気味って言うのは分かる。魔界の精霊との交信で、その辺りの情報が何か分かると良いんだけど」


 そんな話をしながら魔界の門を開いて移動し、要塞側で船体を召喚する。この一連の手順も割と慣れたものだ。すぐに後詰めのみんなと合流し、フォレスタニアに移動してメルヴィン王やアルバート達とも顔を合わせる。


「おお、戻ったか」

「はい。ただいま戻りました」

「おかえり、テオ君」


 メルヴィン王やアルバート、アウリアやティエーラ達と顔を合わせ、再会の挨拶を交わす。無事を喜び合うのもそこそこに、メルヴィン王はすぐに朗らかな笑顔を真剣なものにして、本題を切り出してくれた。


「昨晩の連絡については受け取っている。儀式まではまだ猶予があるとはいえ、時間的な制約があるのは事実。余らとしては、テオドール達の考えた方針を支持する故、そのまま計画を進めて欲しい」

「ありがとうございます。では……まずは――そうですね。精霊交信の為の情報集めから、でしょうか」

「私達の準備はできているわ」

「精霊との儀式については任せてもらおうかの!」


 俺の言葉にユーフェミアが笑みを浮かべ、アウリアが胸を張る。

 ティエーラとホルンもこくんと頷く。コルティエーラも緩やかに発光したりして、応援してくれているようである。


 精霊を眠らせたままで交信するというのは……言うまでもなく初めての試みだ。

 交信に際してユーフェミアとホルンの能力も統合して儀式に組み込むという事もあり、ぶっつけ本番で目覚めさせてしまうような事がないようにデータを揃え、実際に眠りについた高位精霊……特に性質が近いと思われるティエーラと交信してみる、というわけだ。

 アウリアは精霊と交信する方面では専門家なので、儀式の手順等の相談役になってもらう、というわけである。


「ふふ。テオドールの実験は楽しそうですね。今日はよろしくお願いします」


 と、ティエーラはそう言ってにっこりとした笑みを浮かべるのであった。




「――精霊は気性の荒いものや性質があまり良くないもの、というのもいるからの。接触をするにしても状態のみを確認するために、こちらの意識を精霊に同調させ、無用に刺激しないようにするという手段は元々確立されているわけじゃ。そして名と出自の知れた精霊ならば、接触する際、必ずしも呼びかけが必要となるわけではない。この場合、魔界を司る精霊という事であったから、前提となる条件は満たしていると言える」


 フォレスタニアの居城――迎賓館の一室で本を広げ、アウリアに精霊を刺激せずに交信する為の儀式の手順などを教えてもらう。幸いというか、エルフや精霊術師にはそう言ったノウハウも蓄積されているようで……教えて貰えないかと連絡を入れておいたところ、すぐにこうして情報を持ってきてくれた。


「なるほど……。では、この儀式の手順に、こうやって魔法陣を書き加えて、術者の能力を同調させてやれば……」


 と、儀式の魔法陣をアレンジしたものを紙に書き付ける。アウリアは暫く魔法陣を見ていたが、やがて納得したように頷く。


「これは、術者同士の五感を同調させるためのものか。元の魔法陣と、上手く混ぜるものよの」

「そうですね。元々ユーフェミアもホルンも、精神に働きかける能力なので五感リンクと循環錬気で術者の力を統合してやればどうにかなるかなと」


 データ収集をした上で迷宮核によるシミュレーションを行い、改良するという工程も挟むけれど。


「私達の能力の情報収集も必要なのよね」


 と、ユーフェミア。


「ああ。お願いしても良いかな」

「勿論よ」


 というわけで循環錬気をしながらユーフェミアとホルンに能力を使ってもらい、ウィズと共に魔力の動き等のデータを記録する。


 これが終わったら迷宮深奥に飛ぶ予定だ。

 ウィズが記録したデータを迷宮核に入力し、アウリアに教えてもらった精霊と交信を行う儀式に手を加えつつ、それらの能力を儀式に組み込めるよう、迷宮核でシミュレーションを行うというわけだ。


 ユーフェミアとホルンの能力にしても儀式の内容にしても精霊に危害を与えるものではないが、アレンジを加えようとしているのは事実だ。これが原因で変な結果を招かないよう安全性については細心の注意を払っていくとしよう。




 そうしてデータ収集して臨んだ迷宮核でのシミュレーションであるが……特に危険性はなく、狙った通りの効果を発揮してくれる術式に仕上がった。後は術式を儀式化して手順を確立すれば一先ずの準備は完成だ。

 儀式を行うに当たっては触媒が幾つか必要だが、そこまで貴重な物は必要無いので大丈夫だろう。


「うん。大丈夫そうだ」

「それは何よりだわ」


 迷宮核内部から戻ってきてみんなにそう告げると、ローズマリーが羽扇の向こうで静かに頷く。

 諸々の作業を終えて迷宮中枢部から城へ戻ってくると、ティエーラは先んじて眠りにつくとの事で、フォレスタニア居城から一時的にいなくなっていた。

 コルティエーラは現状では宝珠が本体のようなところがあるので城に残っているが、今はティエーラと共に眠りについているらしい。宝珠はぼんやりと光っているが反応がいつもより弱い。


 ティエーラが不在なので、代わりにヴィンクルが大事そうに抱えていたりして……これはこれで中々微笑ましいものがあるな。


「さて。それじゃ儀式の準備を進めて、ティエーラに会ってこよう」

「ティエーラ様と交信をする事になるなんて……流石に少し緊張するわね」


 ユーフェミアが言うと、ホルンもこくんと頷いていた。

 ティエーラの夢の中での交信か。どんな夢の世界が広がっているかは気になるな。

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