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番外745 襲撃者への対策は

 ファンゴノイド達の墓参りが終わったところで移設完了した旨を、みんなと共に墓前に報告に行く。

 ロギも暫く墓前に黙祷を捧げていたが、やはりファンゴノイド達に関わってきた経緯があるだけに、思い入れもあるのだろう。


 俺達も黙祷を捧げてから、ネフェリィとモルギオンの拠点前に布を敷いて話し合いをする事となった。ファンゴノイド達もいるので参加する人数が多く、拠点に収まり切らないからな。


「ここなら二人も一緒という感じだものね」


 ステファニアが笑顔で言うと、ファンゴノイド達が表情を緩めて頷く。

 そうしてみんなにキノコ茶が運ばれてきたところで、話し合い開始だ。ネフェリィとモルギオンの拠点や、浮遊宮殿で見たものを改めて説明する。


「――受肉した精霊。厄介な事だが」

「ルーンガルドで、邪精霊相手に戦った事がありますが……説得は難しいかなと思います」

「ほう。その話も参考までに聞いておきたいな」


 俺の言葉にメギアストラ女王は興味を示してくる。


「悪魔に分類される存在が二回。異国の高位精霊が一回ですね。精霊としての性質に契約や約束事を重視するとか、己の性質に従って突き進む傾向があり、今回の場合は自己の力を高める事や、世界の支配……になるでしょうか」


 本の世界に魂を引きずり込む悪魔オルジウスや、ワグナー公の図書館に封印されていた夢魔グラズヘイム。それにホウ国の四凶、渾沌といった連中だ。


「オルジウスの時は私が調べ物をしていて罠に引っかかってしまってね。不覚を取ったわ」


 そう言ってかぶりを振るローズマリー。

 そうしてオルジウスやグラズヘイム、渾沌との戦いの経緯や、連中の持っていた性質等を説明する。


「魂や精神に干渉したり、か。厄介なものだ」

「但し、連中については自陣に引き込む、契約をする等、何かしらの条件を満たす事でそうした能力を発揮していたように思います。反面、受肉していた渾沌は精神面での支配や干渉はあまりなかったように思います」


 渾沌の高弟達も、目的や得た力で起こした行動は感心できたものではなかったが、師弟関係自体は普通だったという印象があったからな。渾沌の実力や考え方、与えてくれる知識や力に引きつけられた、というのがしっくりくる。


「となると、今回の捕食者についても、その傾向が当てはまりそうですね。捕食して取り込む、というのはそれらしいと言いますか」


 エンリーカが思案しながら言う。


「そうですね。個人の本質は物理的に拠った方向での能力である可能性が高いかも知れません。但し、捕食対象や習得している術によって多彩な手札を持っているのが分かっていますから……対策は幅広く行う必要があるでしょう」


 ネフェリィが研究で遺してくれた術にも広範囲に効果を発揮する防御魔法があるから、状況を見てそれも上手く活用していきたいところだ。


「捕食者は死霊術によって準備期間さえ確保できれば大人数の部隊を動員できるわ。召喚術も、用兵としての活用をする事が可能でしょう」


 クラウディアが言うと、メギアストラ女王は目を閉じる。


「敵は単騎ではなく、軍隊規模であると想定すべきだろうな。幸い蛮族や魔物の群れへの備えがあるから対応は可能だ」

「実戦を想定した体制を整える等、手配を進めておきましょう」


 ロギがメギアストラ女王の言葉に応じるように言う。


「将兵への搦め手への防御については、お力になれるかと」

「エルベルーレ直系の術式だからこそ……妾の知識やネフェリィの研究が対策として嵌りそうなところはあるな」


 と、エレナとパルテニアラが言うと、メギアストラ女王も「それは助かる」と、笑顔で応じていた。そうだな。同時代、当事者の知識というのは必要に駆られた対策だけに刺さりやすい。こちらの技術で補う事で対策を万全なものにしたい所だな。


「気になる点としては、彼の者がどこに潜伏して、何をしているかですかな」


 ファンゴノイドの一人が言う。

 そうだな。調査結果から捕食者の性質やその手札の対策についての話になったが、そのあたりはもう少し後でじっくり詰めるとして……。


「事ここに至っては、捕食者が歪みの加速に関わっている物、という前提で考えるべきでしょうな」


 オズグリーヴが思案しながら言う。俺もその点については同意だ。オズグリーヴの言葉に頷いて、メギアストラ女王達に向き直って言葉を続ける。


「精霊である以上は、術を使った場合に自然に干渉する能力も高い、と考えられますね。元々龍脈を通して魔界に対して干渉していると考えてそのあたりから逆に辿っていければ……と考えていましたが、僕が最初に想定していた方法では少し危険かも知れません」

「と言うと?」

「僕としては……魔界を司る精霊が起きる機会を待ち、交信や同調を行う事で循環錬気の応用によって龍脈の異常を探ろうと思っていました。これならば捕食者との関わりがなくても、歪みが加速している原因も突き止められるだろうと思っていたのです」


 この場合、魔界の精霊が活動を始めたら歪みが加速するので必然的に浄化する為の儀式をその折に前後して行わなければならない。


「儀式は龍脈を通じて力を送り、精霊の力を高めるものです。もしかするとその情報をどこかから掴んでいて、自身も精霊であるという性質を利用し、力を横取りする為の準備を整えている、という事も有り得るかな、と」

「魔界の変調自体が手段であり、儀式を誘う為の布石だという可能性か」


 続けて口にした俺の言葉に、メギアストラ女王は少し目を大きく見開く。

 こちらが最善を模索した結果が悪い事態を呼び込んでしまう、という想定をした場合の話だな。

 何しろ魔界の精霊が起きてしまえば……こちらとしても後戻りできないという脆弱性を抱えている。


 それに……懸念材料があるのだ。死霊術については詳しくなかったから宮殿で見つけた魔術書を移動中に少し調べてみたが……生前の知識を死体から引き出す、という事も可能なようだ。

 難易度も高く、確実性にも欠けるところはあるようだが……人倫に悖るとか法律に縛られるといった、心理面や社会面でのハードルが捕食者にはそもそもない。


 ともあれ、墓荒らしをする事で表向きには騒動を起こさず、犠牲者も出さずに儀式等の重要情報を手に入れる事も、不可能ではない。

 そうした考えや状況を説明すると、ローズマリーが表情を曇らせて言った。


「確かにそれは――慎重になるに越した事はないわね」

「龍脈を通して原因や捕食者の所在を探知するには、魔界の精霊に接触する必要があり、魔界の精霊が起きれば歪みが加速する、か。ままならないものだな……」


 テスディロスは忌々しそうに目を閉じてかぶりを振る。


「そこで……方法を考えました。精霊に接触するにしても、眠ったまま起こさなければいいのではないかと」

「ユーフェミアと、ホルンの力を借りるのね」


 エイヴリルが得心いったとばかりに笑みを浮かべる。その言葉に、ホルンにみんなの視線が集まった。ホルンは任せて、と言うように声を上げて応えているが。


「そうだね。二人の力を借りれば……精霊を眠らせたまま交信したり同調する事も可能だと思う」


 精霊には眠ってもらったままで夢の世界で交信し、同調して循環錬気を行う。

 ユーフェミア、ホルンの協力が前提となるが、それらをきっちり機能させる為には術式化や儀式化も視野に入れる必要があるかな。まあ……迷宮核の演算があれば何とかなると見ているが。


「これが上手くいけば……歪みの原因もはっきりするか。では――決まりだな」


 メギアストラ女王はそう言って大きく頷くのであった。

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