番外744 モルギオンとネフェリィの帰還
みんなと共に再びネフェリィとモルギオンの墓前に行き、墓所の移設と宮殿での出来事について、こちらの想いを伝える。
二人の仕事を引き継いだから、俺達の手で過去からの因縁を終わらせるつもりだという事。浄化を行ってきたから、宮殿に関しては今度こそ心配はいらなくなったと……そう告げる。
そうしてみんなと一緒に黙祷を捧げていると、ほんの一瞬だけ――風が頬を撫でていくような感覚があった。
地下なので風が吹くような場所ではない。祈りの影響か、場の魔力も和らいだものになっているから判別が難しいのだが、ネフェリィとモルギオンから応援して貰えている、と受け取っておこう。
「――それじゃ、移設の作業を始めようか」
「石版は、私達の方で進めていきますね」
顔を上げてそう言うと、アシュレイが微笑んでそう答えてくれた。
「ああ。それじゃあ、そっちは頼む」
墓所の石棺とネフェリィの作った使用人ゴーレム、それから二人の研究成果である石版をシリウス号の船倉に積み込む。それから拠点そのものも一旦バラし、甲板に乗せて王都に戻るという流れだ。
拠点の壁や床に関しては、レビテーションを組み込んだメダルゴーレムを埋め込んでやれば、シリウス号に搭載しても重量やバランス的な問題もないだろう。
石棺は床に固定されているというわけではない。石棺自体、魔法で強化してあるようなので頑丈ではあるが、念のためにここでレビテーションを用いて自重で壊れないようにしつつ、ゴーレム達に運んでもらう。ネフェリィのゴーレムも一緒だ。
なるべく丁寧に、静かに運び出してシリウス号に積み込み、石棺と使用人ゴーレムを船倉に固定する。
木魔法で作った花を使用人ゴーレムに預かってもらうように軽く開いている手に持たせ、もう一度黙祷してから次の作業へと移る。
拠点のあちこちにメダルゴーレムを埋め込んで壁をばらす作業だ。
「そっちは大丈夫?」
「ええ。運搬用ゴーレムに預かって貰って、漏れがないか確認しているところよ」
メダルを埋め込む作業を進めつつ、みんなに進捗状況を聞くと、イルムヒルトが石版の目録を確認しながらそんな風に教えてくれた。
「石版を収めていた棚は壁に固定されているようね」
と、ステファニアが教えてくれた。
「なら、そっちは分解の時に一緒に俺が運ぶよ」
「了解したわ。研究室の作業台や、他の家財道具はこっちで運び出しておく」
諸々問題無さそうだな。では、石版の積み込みが終わったら拠点を分解していこう。
石版や作業台をシリウス号に積み込んで、木箱に入れて固定。拠点からみんなが外に出たところで、みんなに声をかける。
「そっちは大丈夫かな?」
「いつでもどうぞ。こちらはみんな離脱して、点呼も終わりました」
と、拠点に横付けしたシリウス号の甲板の上から、グレイスが微笑んで答えてくれる。
よし。では、始めよう。まずネフェリィとモルギオンの地下拠点を囲んでいる小山の頂上から地面に手を当て――拠点を除いた全体をヒュージゴーレムに変える。
蓋を開けるように頂上部分を変形。拠点の天井部分が露出したところでメダルゴーレム達を起動していく。
拠点の上の方から、天井と壁をゴーレムに変えて移動させていくわけだ。
レビテーションで浮かび上がった天井ゴーレムを、ヒュージゴーレムがそっとシリウス号の方へ送り出す。続いては壁だ。エレナの呪法兵やピエトロの分身、アピラシアの働き蜂がそれを受け取り、丁寧に甲板の上に安置する。
拠点の上から下へと分解していき、甲板の端の方から順番に積んでいけば、上から順番に運び出して組み立てるだけで良くなる、という寸法だ。
シリウス号に面した方向の小山が――扉を開くように左右に開いて、隠されていた拠点が開帳される。更に天井、壁と、順番にばらしてシリウス号に積み込んでいく。
「これはまた……面白い作業風景ですな」
「ゴーレムにして回りの土砂を動かすだとか建物をそのまま移設だとか……よく考えるな」
ボルケオールが楽しそうに目を細め、ブルムウッドが笑うと、エンリーカやヴェリト達が感心したように頷く。エルナータも変形する小山に目を輝かせて見上げていて、アルディベラも愛娘の様子に微笑ましそうにしていた。
程無くして拠点の分解と積み込みも終わったところで、小山を元通り閉じてヒュージゴーレム化を解除する。内側に空間ができてしまったが、構造強化で崩れないように強化しておけばいいだろう。
木魔法で蔦を作り出し、積載した拠点を甲板に固定。後はバランスを崩さないように王都へ戻れば良い。今度は荷物を色々満載しているので、途中で戦闘にならないように気を付けたいところだ。迷彩フィールドを纏って進んでいくとしよう。
迷彩を施して高度を取りつつ、最短距離を通って王都ジオヴェルムへ。
積載している地下拠点の分だけ負担が増しているし船全体のバランスも悪くなってはいるが、その辺はレビテーションを組み込んであるので浮遊炉の出力調整でどうにかなる範囲だ。迷彩フィールドは風魔法の防壁も纏っているので、甲板に積んである天井や壁も安全確保ができている。
ライフディテクションで魔物との遭遇を避けつつ魔界の空を進んで、俺達は王都へと戻ったのであった。
王都へ戻るとメギアストラ女王が待っていて、まずはシリウス号を王城に横付けし、分解した拠点やそれに関係した物品、宮殿から回収した魔術書等を王城内部に運び込むという事になった。
「重要資料を発見したという扱いで、王城内部に運び込む事に了承を取り付けている。まあ、実際その通りではあるのだがな」
メギアストラ女王がそんな風に説明してくれる。
というわけで、壁や床を順番に地下へと運び込む。大事な資料とも伝えてくれているようで、途中まで兵士達が丁寧に運び込んでくれた。後は検分するからという名目でロギやエンリーカ、ボルケオールにブルムウッド達という事情を知っている面々と共にファンゴノイド達の住んでいる地下区画へ運び込む。
宮殿から回収した魔術書の類に関してはまた別枠扱いだ。生み出した精霊が見る事を考えてか、罠の類は仕掛けられていなかったし、貴重な資料には違いないので魔法院に任せる。
但し、結構劣化していて判読が難しい部分も多く、また書かれている文字もルーンガルドの古代語なので色々と解読には苦労するかも知れない。
精霊を育成するための魔道具は――修復こそしたものの、正直なところ色々と流出しては拙い情報が詰まっている。なので封印術の範囲を広げて全ての機能を停止させておいた。
これに関しては一先ずファンゴノイド族の所に持っていって、後で保管方法を考えるなり、いっその事廃棄してしまうなりを考えれば良いだろう。
石棺と使用人ゴーレム……それに石版、朽ちた家財道具等、諸々をファンゴノイド達の住んでいる区画に運び込み、場所を確保したら一気に組み立てていく。地下区画から最初に組み立てるのでまず墓所と実験室が作られて、その上にネフェリィとモルギオンの居住していたスペースが作られる形だ。
地下部分が地上一階に来る形なので、本来の一階部分に階段を設置しておこう。
小山の内側から切り出し、そのまま移設しただけなのでやや飾り気のない石の建造物になってしまったが、ファンゴノイド達は後で花を飾ったりしたいと言っていた。なので、そちらは彼らに任せておこう。少しすれば風情のある感じにしてくれるのではないだろうか。
「これで大丈夫かな?」
「うんっ、頑丈で問題ないと思う」
と、安全性についてセラフィナのお墨付きをもらったところで、移設作業が終わったことを告げる。早速と言うか、ファンゴノイド達はきちんと並んでネフェリィとモルギオンの墓参りをしていた。
「ようこそ。魔王として、そなた達の移住を喜ばしく思う」
「おかえりなさい、モルギオン殿、ネフェリィ殿。それに、使用人のゴーレム殿もですな」
「今日からよろしくお願いします」
と、墓所に黙祷を捧げてから声をかけていくメギアストラ女王とファンゴノイド達である。それを見守るみんなも、その光景に笑顔になっていた。
……おかえりなさい、か。そうだな。
墓所も何となく明るい雰囲気になって……移設して良かったと思う。捕食者対策の話し合いを控え、みんなも士気が上がっているように思う。