表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1509/2811

番外743 後始末の為に

『――とんでもない怪物が潜んでいたものだ』


 ……一部始終を見終わったところで、メギアストラ女王は頭痛を堪えるかのような仕草で、目を閉じてこめかみのあたりに手を当てる。そうだな。俺も同感だ。


『奴が私と戦った時は、全力であれ誘いであれ……勝敗や優劣はあまり関係が無かったのでしょう』


 騎士団長のロギも目を閉じてかぶりを振る。奴にとっては魔王国の戦力がどの程度か見定める程度の戦闘でも良かったのだろう。分断してファンゴノイドやロギを捕食できれば良し。リスクの高い相手だった場合でもその場を落ち延び、それを目安に自分を高めれば良い。それに召喚術や呪歌という搦め手まで有している相手に深入りしなくて正解だった。


「私達にとっても因縁の深い相手……という事になりますね」


 グレイスが王の間に置かれた魔道具を見据えて静かに言った。が、斧の柄頭に掛けられた手には僅かに闘気が込められていて、寧ろ戦意が上がっているようにも思う。

 みんなも緊迫した面持ちではあるがグレイスの言葉に頷いていて、気合が入っている様子だ。


 士気が高まっているとはいえ……行方を暗ましている事自体は不安材料だな。

 動機がありそうという観点から魔界の災害に関わっているかも知れないと推測を立てたが、動機になり得る出自を知ってしまった今となっては……。


「もし災害と奴に関連があるとするなら、それだけの干渉能力を得た、と見る事もできます。以前の戦闘能力を前提にするのは危険かも知れませんね」


 俺がそう言うと、水晶板モニターの向こうで魔王城とシリウス号の面々が真剣な表情で頷く。


「すまぬな……。妾の詰めの甘さが後世にこのような禍根を残すとは」

「パルテニアラ様……」


 パルテニアラは当事者だったからこそ、自分なら何とかできたかも知れないと考えてしまうのだろう。浮かない表情のパルテニアラに、エレナが心配そうな様子だ。

 しかし、メギアストラ女王は即座に首を横に振る。


『それは違うな。パルテニアラ殿は過去、兵を率いて戦い、そして今、この時になって魔界に戻り、我らと共に戦ってくれる事を選択した。それに……当事者達が滅び、対策を講じても尚、遠い未来で脅威を形成させる等と――誰が見通せるというのか。重ねて言うが、今の魔界は我らの故郷であり、過去のパルテニアラ殿の選択の結果でもある。そこに、何一つとして間違いは無い』


 迷いなく断言するメギアストラ女王の言葉に、魔界の面々が大きく頷く。その言葉にパルテニアラは何かを感じ入るように目を閉じていた。

 そうだな。パルテニアラが戦いを選択しなければ……ルーンガルドも月も魔界も、もっと酷い事になっていただろう。


「見た事や聞いた事……。混乱を避ける為に他言無用というのは理解しているが、私にも何かできる事があるならば協力したい。仲間達の為に新天地を探す旅は頓挫してしまったし、それは既に他の誰かが動いているはずだ。仲間にも危機が及ぶかも知れないとあっては、今は郷里に帰っている場合ではないと思う」


 と、そこでセワードが自分の胸の辺りに手を当てて、そんな風に申し出てくれた。


『セワードは宮殿の場所や奴の姿等、重要な情報を幾つも知っている。ミネラリアンの術も有用だ。このまま協力してもらった方が助かるかも知れんな』


 メギアストラ女王が言った。そうだな。ミネラリアンの術について知識はないが、土魔法の類が得意と考えれば確かに……これからの局面で心強い場面があるかも知れない。


「では……お願いできますか? 問題が解決したらミネラリアンの皆さんにもセワードさんが力になってくれた事を伝えに伺います」

「それは有難い。良い土産話になるだろう」


 セワードは静かに笑って応じてくれた。さて……では次にすべきことだが。


「まだいくつかこの土地でやらなければならない事がありますが……一先ず、宮殿内部を隅々まで調べた上で、危険性を排除し、記録媒体である魔道具は回収しておきましょう」

『そうですな。この土地を訪れる者はほぼいないと言っても、流石にあの魔道具は残しておくわけにはいきますまい』


 オズグリーヴが同意してくれる。

 セワードの話から受けた印象では、捕食者はあまりこの場所に未練を感じていなさそうだし、受肉しているので精霊が顕現する為の本体にもなっていないのだろうが……念の為、浄化の術式をこの宮殿全体に施しておいた方が良い。そういう歴史を持っている場を利用して精霊を生み出したからだ。後継者を作るための魔道具を確保した以上は同じことの繰り返しにはならないが、念のために、というところだな。


 万が一、奴がこの場に戻ってきて、自分の出自や性質に関わる情報が漏れた事を知れば奴も警戒度を高めてしまうだろうが、それを差し引いても、というところだ。


 後は、浮遊宮殿の浄化と封印。掘り抜かれた横穴の出口付近の調査。ネフェリィとモルギオンの墓所の移設。

 それが終わったら王都に戻って作戦会議だな。儀式まではまだ猶予があるし、相手の性質、出自を踏まえた上で対策を立てる必要がある。




 まずは宮殿内部を隅々まで調べる。おかしな空間が残っていないかマップを作りながら調べていくと、王の居室の直下に元々魔道具を安置していたと思われる部屋が存在していた。

 既に掠れていて機能停止していたが床には魔法陣が描かれている。


「精霊を作り出す為に場の力を集める術式が施されていたみたいだね」

「エルベルーレ王達が望んだ精霊が生まれた時に、ここに安置されていた魔道具が条件付けの呪法で起動して、教育を行う、と。用意周到な事だわ」


 ローズマリーが肩を竦めた。そうだな。魔法陣は既に機能停止しているが、念のために完全に消しておこう。魔石の粉を使って宮殿全域に解呪と浄化の術式を施し、二度と危険な物を生み出さないようにこの場所に刻まれた歴史を更新する、といった具合だ。


 そうしてあちこちに魔石の粉を撒いて魔法陣を描き、魔術書の類も回収する。

 人員やシーカー、メダルゴーレムを撤退させた上で西の塔に繋がっている通路から術式を一気に発動させると――宮殿の建材に施されていた呪法が一気に解除されていく。宮殿から感じていた重苦しい雰囲気も大分和らいだようだった。


「ん。これならこの先も大丈夫そう」


 と、シーラが満足そうに頷く。そうだな。それに建材の呪法ごと解除されたとなれば、宮殿も経年劣化で段々と朽ち果てていくだろう。




 そうして宮殿の危険性を改めて排除した上で、シリウス号に乗り込み、掘られた横穴を抜けた先を調べていく。

 この横穴に関しては、やはり事前に調べた通り宮殿側から掘り抜かれていて、出口も土魔法による加工がなされているようだった。


 出口から先は鬱蒼とした森が広がっている。辺境外だけあって、ライフディテクションを用いてみれば、あちこちで蛮族や魔物の反応も見られた。

 ゴブリンの繁殖力が高いのは魔界でも同じらしい。辺境外で人目がなく、食糧や戦闘経験にも困らないからこそ、奴はこの近辺を狩り場にしていたのだろう。


 いずれにしても捕食者は既に野に放たれて久しい。魔王国に積極的に手出しをしてこなかった事から考えても、かなり知恵が回るのは確かだ。ここから今更になって足取りを追うのは難しいだろう。

 そうなると……奴の性質や目的から居場所を割り出すか、誘いをかけて誘き出すか。何か奴を捕捉する作戦を考えなければなるまい。


『ネフェリィとモルギオンの墓所の移設については、賢人達も喜んで受け入れるとの事だ』


 と、メギアストラ女王が笑顔で教えてくれる。それは何よりだ。では……まずネフェリィとモルギオンの墓前に、諸々報告する事から始めるとしよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ